$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々2  第二話 賽銭箱


(1)


最初の大仕事をすっきり解決出来て、俺は少し気が緩んでい
たんだろう。
コンビニで俺に話しかけてきた女の子の依頼が、実はとんで
もなく厄介だってことにすぐに気付けなかったんだ。

不覚。
俺もまだまだだよなあ……。


           -=*=-


コンビニを出たその子を連れて、街中の公園の街灯の下に移
動する。
もう暗くなっていたけど、人通りの多いところだし、並べら
れているベンチにも結構人が座っていて、こっそり話が出来
るという雰囲気ではない。

俺から名刺を受け取った女の子は、きょろきょろと不安げに
周りを見回した。

「あの……」

「なに?」

「ほんとにここで話するんですか?」

思わず苦笑する。

「あのね」

「はい」

「君は高校生。しかも、その制服は名門女子高のだよね」

「……」

「そして僕は、見ての通りの冴えないあんちゃんだ。そうい
う大人と学生の組み合わせが閉鎖空間で目撃されると、どう
しても嬉しくない誤解をされるの。援交とかね」

「あ……」

「でしょ? 僕はなんとかなるけど、不利益が全部君にくっ
付いてっちゃうからね」

「そっか」

「こういうオープンスペースで、人目のある明るい場所。君
は一人で座っていて、僕は君から少し離れて立ってる。第三
者から見ると、僕らが親しげに話をしているようには見えな
いでしょ?」

「すごーい!」

「探偵っていうのは、目立たないのが一番だからね」

「へー」

「ああ、それと、本か何かを読んでるふりをしててください。
念には念をで」

「分かりました!」

女の子がカバンから分厚い参考書を一冊出して、それをぱかっ
と開いた。
びっしり書き込みとマーカーの跡がある参考書。
勉強熱心なんだろう。しっかりしたまじめな子だということ
がすぐ分かる。
しょうもない万引き高校生どもと同じ人種だとは、とても思
えないよ。

俺も尻ポケットから手帳を引き抜いて、女の子との面談の内
容を書き取る準備をする。

「ええと。まず君の名前から教えて下さい」

「宇佐美。宇佐美雅恵です。聖ルテア女子高の二年です」

ふむ。
宇佐美姓か……。

「あの……なにか?」

「いや、この街で宇佐美姓の人なら、お社の関係者さんなの
かなあと思ってさ」

「わ!」

女の子は仰天したんだろう。
その後、言葉が出てこなくなった。

「そ、そんなこと……分かるんですか?」

「ははは。亡くなった僕の師匠から、名前ってのは重要なキー
ワードだってことをがっちり叩き込まれたからね。街の名士
や有名人、特殊な職業の人。そういう人の名前はちゃんと覚
えておかないとさ」

「そうかあ。確かにそうです。うちのおじいちゃんが、高嶺
(たかね)神社の禰宜なんです」

「やっぱり! 高嶺神社って、由緒のあるところじゃないか。
すごいなあ!」

「そうなんですけど……ちょっと……」

「どうしたの?」

「うちのおじいちゃん、そこだけでなくて、近くの末社さん
の面倒も見てるんですよ」

「ほう。名前だけの禰宜や氏子さんが多い今、しっかり仕事
をされてるんだ」

「はい! 頑固だけど、頼りになります」

「うん」

「でも、おじいちゃん、最近怒ってばっかで」

「何かあった?」

「はい。その末社さんの賽銭箱が立て続けに壊されて、お賽
銭が盗まれたんです」

「あだだだだ……賽銭泥棒かあ。警察には?」

「届けてます。でも、被害額が小さいんです」

「だろうなあ。小さくて地味なお社の賽銭箱なら、その中の
お賽銭の額もたかが知れてるものね」

「はい。賽銭箱自体があちこち腐ってぼろぼろでしたから、
子供でもお年寄りでも中身を盗もうと思ったら盗めちゃいま
すし。壊されるまで気付かなかっただけかも」

「うん」

「盗まれたお賽銭の額は大したことないと思うんですけど、
問題は……」

ぱちん!
思わず指を鳴らしちゃった。

「そっか。壊れた賽銭箱をそのままにしておけないものなあ」

「そうなんですよー」




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Soy by Ana Torroja