もう霜月ですね。冬の足音が、ひたひたと近づいてまいりました。

 えとわは基本的に画像が起点になるので、撮れる画に連動して、これからだんだん暗色系の話が増えて来ます。クリスマスにはほっとする話をお届けしたいので、今のうちにずっしり重たいのを片付けておきたいと思います。

 これからの五話は、『鉛』というサブタイトルでお届けします。



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 鉛。言うまでもなく、有毒の金属ですね。

 とても重い(比重が大きい(11.34))ことでも有名です。釣りをされている方は、錘(おもり)に使われているのでよくご存知でしょう。そして鉛は、鈍重、暗い、冷たいというネガティブな比喩に使われることが多いですね。

 鉛のように体が重いとか、鉛空とか。
 鉛のようなハートと言えば、心が冷え切って感動を忘れているというイメージ。
 キューピッドが射る矢は金が恋慕、鉛が嫌悪を導きます。

 しかし一方で、有毒でありながらも、鉛はとても有用な金属です。産出量が多くて安価。柔らかいので加工がしやすく、腐蝕しにくいので長期間の使用に耐えます。それゆえに、とても広範囲に利用されてきました。

 絵の具や釉薬の材料として今でも広く使われていますし、昔は白粉(おしろい)にも鉛白が使われていました。電化製品の製造に欠かせないハンダには、長い間鉛と錫の合金が使われて来ましたし、比重が大きいことを利用して、釣り等で使われる錘、散弾にも広く用いられて来ました。
 自動車のバッテリーの電極には、今でも鉛が使われています。曲げ加工が容易で腐食しにくいことから導水、排水管にも使われていましたし、放射線を通しにくいことから核物質の保管容器や遮蔽板にも使われています。

 酢酸鉛は甘いので、もっとも古くからある人工甘味料(サパ)としてワインや菓子などの甘み付けに利用され、多くの鉛中毒患者を出してきました。
# ベートーベンの難聴も、鉛中毒による神経障害説が有力なのだとか。

 毒のある鉛は悪者か? いえ、人間がいようがいまいが、そこに鉛という物質はあるわけで。それを集めて精錬して利用し、拡散させているのはあくまでも人間なんですよ。鉛の立場からしてみれば、いいも悪いもありません。鉛は鉛でしかありえないんです。



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 これからお送りする五つのお話は、いずれも読後感が極めてよろしくないと思います。真っ黒というより、ずっしり重たい話なんです。それを、鉛にたとえてみました。

 一話めは、南穂さんにいただいたお題を元に組み立てたもの。DINKS(子なし共稼ぎ)、レズとゲイの仮面夫婦という材料を使って、ミステリーでというご注文です。あとの四つは、いつものように画像からの連想です。

 単に重たい話だから『鉛』ということではありません。その五つの話とも、みなさんが当然だと思っておられるであろうことをひっくり返した上で毒を乗せ、さらに心の底に沈み込んで動かなくなる重さに仕込んだつもりです。
 全ての価値は、相対値です。なのに、わたしたちは日頃その事実から目を逸らして暮らしています。その欺瞞を、たっぷり毒として含ませてあります。

 いいですか? 鉛は鉛です。それ以上でもそれ以下でもありません。役に立つからと利用し、有毒だからと忌避するのは、あくまでわたしたちの一方的な都合に過ぎません。

 黙して何も語らず、ひたすらずしんとそこに居続ける鉛の重みと鈍い光を。そして、その意味を。今一度、じっくり考えてくださると幸いです。




  鴨を撃つ漁師も空も鉛色





Jambi by Tool

 ずしぃん……。