いかがでしたでしょうか?
訳の分からない展開の連続で、相当混乱されたんじゃないかと思います。最後まで読んでくださった辛抱強い方々には、めぇが感謝状を送りたいそうです。(^m^)
筆者からも、通読してくださったことに心からお礼申し上げます。
仕込みに三年もかかった話ですから、メッセージもたっぷり盛り込み、テクニカルなところもいろいろ工夫しました。それでも、決してストレートなお話ではありません。ものすごーく実験色が強いです。だからして、あとがきのほんまに書きにくいこと書きにくいこと。
# 十回くらい書いては消しを繰り返しました。
この話に込めたものを熱く語りたいところなんですが、具が多過ぎてあとがきが短編小説なみの量になってしまいます。それがみなさんの読後感を損なうのはあれなので、さっくりとダイジェスト風に。
◇ ◇ ◇
このお話をスタートする前に、予告でこう書きました。
笑えないコメディ
戦闘シーンのない戦記物
オチのないギャグ
解のない推理もの
出口のある密室もの
ちっとも恐くないホラー
理路整然としたスラップスティック(どたばた劇)
ね? そうだったでしょ?(^m^)
笑えないコメディ
このお話。喜劇でしょうか? 悲劇でしょうか? ちょっと考えてみてください。
誰も真意を知らないことが関係者の疑心暗鬼をぶくぶく膨らませ、善意を悪意に置き換えていく。笑えるほどアホらしいのは確かですが、決して心の底から笑えるお話ではないんです。
戦闘シーンのない戦記物
武器はおろか、口喧嘩すらほとんど出て来ません。あの決戦の時ですら、ようちゃんにとっては他の社員が交戦相手じゃありませんでした。戦闘って言えるようなものは一つもないんですよ。でも。戦記……でしたよね?
オチのないギャグ
この騒動は、第三者から見ればまるっきりギャグですよね。でも、ようちゃんの中ではまだ何もオチが付いてないんです。ガラクタのお片付けが進んだだけで、これから自分の中身をがんがん作っていかないとなりません。それが……ようちゃんにとっての本当のオチになるんです。
解のない推理もの
これは分かりやすいかと。結局ようちゃん以外、徹底的にホンネをげろ出来た人はいないんです。ようちゃんの推理は最後まで推理のままで終わってしまい、きちんとした答え合わせも検証もなし。解は得られませんでした。
# 社長、社長、「ようちゃんの推理した通り」って、そんな説明なしの全肯定はあかんがなー。(^^;;
出口のある密室もの
テレルームと事務室。いずれも『心理的な』密室でした。物理的な密室じゃないのに、感情の出口が塞がって密室化してしまう。恐いでしょ? 本話に救いがあるとすれば、それが最後に緩和されたということでしょうか。
ちっとも恐くないホラー
どこにもいないお化けにみんなが右往左往する話ですから、ちっとも恐くはないはずです。表面的にはね。でもわたしは、このお話をホラーのつもりで書きました。
ようちゃんは平和主義者ですが、許容量は決して大きくないんです。過去の傷の影響も残ってますし、決して恨みの感情が消えたわけじゃありません。だから、本当のお化けはまだ心のどこかに潜んでいるんです。でんでろでんでろ……。
理路整然としたスラップスティック
わたしがスラップスティック(どたばた)と表現したのは、社長のヘマで振り回される社員の姿ではなく、ようちゃん自身です。
リケジョですから、情報をもとに理路整然と推論を組み立てるんですが、その思考や推論の方向が先入観や感情に振り回されて、あっちこっちにぶれまくってるんです。ようちゃんの思考が、結局最後までどたばたなんですよ。
◇ ◇ ◇
……と言うように。
このお話では、ありとあらゆる矛盾要素を突っ込んでぐるぐるかき混ぜ、それでも最後になんとか口に出来るものをこさえるってのを目指しました。なんでそんなめんどくさい設定にしたか。人の内面と外面とのずれにスポットを当てたかったからです。その典型として、ようちゃんを造形しました。
ご覧の通りで、主人公の口から語られる自己評価と、実際の行動、言動はまるっきりマッチしていません。いや、ようちゃんだけでなく、登場人物の誰もがきちんと自己表現出来ていないんです。
本話はようちゃんの一人称で語られるお話。つまりどの人物も、ようちゃんが『外から』類推した人物像なんです。当然、それと実際の中身とはズレるわけで。
でも、それはわたしたちだってそうなんですよ。自分を百パーセント表現するなんてことは、誰にも出来っこありません。もし出来たとしても、他人の評価の秤にはその一部しか乗せてもらえないんです。だから人物像っていうのは、自分自身の評価も含め、ほんの一部の情報から組み立てられるものだと思っています。
わたしたちは、それが部分情報なんだっていうことをよーく理解しているはずなんですが……。実際には、そうじゃないですよね。
このお話では極悪人を誰も出さなかった代わりに、絵に描いたような善人も出しませんでした。そして、プラマイのバランスで行けば、ややマイナスに振れる人の方が多いんです。ようちゃんや社長の性格のでこぼこは分かりやすいと思うんですが、あなたは白田さんや黒坂さん、御影嬢や水沢嬢からどのような印象を受けましたか?
最後まで、ようちゃんにきちんと謝罪しなかった白田さん。
褒めるのは上手なんですが、どこか上から目線の黒坂さん。
弱者の姿勢を、体良くエゴの隠れ蓑にしている御影さん。
控えめに見えて、なにげにちゃっかりしてる水沢さん。
温厚って言っても、やっぱりみんな一癖あるんですよ。でも、それが人間っていうものじゃないですか。
誰にでも内外面の不一致やズレはある。そういう事実を知っていながらも、わたしたちはつい人物をパターン認識してしまう。型にあてはめちゃうんです。その矛盾の怖さを……コメディホラーとして描いたっていうのが本作なんです。
いろいろな問題や課題を抱えたようちゃんの姿を見て、みなさんのどことマッチしたか、どこが最後まで受け入れられなかったか。ようちゃんの思考や行動にどこまで肩入れ出来たか。それはなぜか。せっかくの機会ですので、ちょびっと考えてくださるとうれしいです。
たぶんようちゃんを通して、みなさんご自身が抱えている自己矛盾や弱点、軋轢みたいなものが、じわっと見えてくるんじゃないかなあと。
そして、みなさんがようちゃんの一連の行動や言動から受ける印象には、すごく幅があるだろうと思ってます。読んでくださった方々の性格や価値観、現在の心理状況のようなものに強く左右されるでしょうからね。
# だから、読後感がすごくばらつくだろうと予想したわけで。はい。
◇ ◇ ◇
わたしは、このお話には解を置かなかったつもりです。
# いや、このお話に『も』か。(^^;;
人を弱めることは出来ないから、自分の中身を充実させ、強化する。自分の弱さに負けない。ようちゃんが、このお話の中で出した結論ですね。
でも、ようちゃんの姿勢イコールわたしの結論や持論ではありません。わたしは、ようちゃんとは真逆の結論を社長に出させてます。自分の弱さを認め、肯定し、それでもやっていける自分の置き場所を考える。それもありだろうと思ってます。
そんな風に。
『プレゼント』の時と同じで、このお話には大小様々のマインドトラップ(意識の罠)が仕掛けてあります。そのどれを見つけて、どのように処理してお持ち帰りいただいてもかまいません。べき論の大嫌いなわたしが、一見べき論に見える罠を仕掛けていると思ってくだされば幸いです。
そうなんですよ。あなたも今、戦場にいるんです。わたしがあちこちに仕掛けたブービートラップのど真ん中にね。(^_-)☆
◇ ◇ ◇
最後に改めて、本話を通読してくださった方々に深く御礼申し上げます。
ん?
こ、こら! めぇ!
それはわたしの書いた原稿だ! おまえのメシじゃない!
食うなああああああああああああっ!!(^^;;
あ……し、失礼いたしました。m(_"_)m
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