タイトルはおふざけ系に見えるかもしれませんが、実はちとまじめな話です。少し長くなりますが、ご容赦ください。(^^;;
山にはいろいろな木が生えていますが、日本のいわゆる雑木林の主人公の一人はナラ類です。特に北方のミズナラ、中西部のコナラ、クヌギは、間違いなく里山の主役。薪、炭、椎茸栽培のほだ木と様々な用途で使われてきました。
燃料革命後、薪炭としての利用は激減しましたが、雑木林の主役の座を譲ったわけではありません。なぜなら、ナラ類の堅果(どんぐり)が山に住う動物たちの重要な食料でもあるからです。
まだはっきりとした因果関係が証明されているわけではありませんが、山でのナラ類やブナの堅果の豊凶が、それらの動物の里への出没に深く関係しているという説にも頷けるものがあります。
どんぐりを食べるのは、クマやイノシシのような大型動物だけではありません。リス、ネズミといったげっ歯類たちにとっても堅果は大事な食料です。しかも、げっ歯類はそれらの堅果を食べるだけでなく、種をばら撒く役も担います。どちらかが減ってしまうと、もう一方もじり貧になってしまうという関係なんですよね。(^^;;
また、ナラ類は地中深くに太い根を伸ばすため、斜面を崩れにくくする作用に優れます。急傾斜地の多い日本の山では、その崩壊を防ぐ役目も果たしていると言っていいでしょう。
そのナラ類が、実は密かに危機に面しています。
◇ ◇ ◇
最近あちこちの里山で、夏でも紅葉したような木がぽつぽつ混じって見えるようになりました。これは紅葉ではなく、枯れてしまっているんです。枯れているのはミズナラやコナラのようなナラ類。枯らしているのはカシノナガキクイムシ(通称カシナガ)という小さな虫です。
木が枯れるメカニズム、これが実に変わってます。
このキクイムシは、成虫の背中にマイカンギアという穴ぼこがあって、そこにカビを詰め込んでいるんです。
# タネを持って入植する農夫みたいなもんですね。(^^;;
カビを持った成虫が木に穴を開けて樹皮の下に小さなトンネルを掘るんですが、これだけで木が枯れることはありません。虫は、そのトンネルの中に背中にしょいしょいしたカビを植え付けていくんです。木食い虫という名前ながら、食べているのは実はそのカビだけなんです。木は消化出来ません。こういう虫は、養菌性甲虫(アンブロシアビートル)と言われます。
食べているのがカビなら、木には実害はないのか。いやー、それがおおありくいなんですわ。(^^;;
タネ付けされたカビの中にめっちゃ凶暴なのがおりまして、そいつが材の中にまんべんなく繁茂して通導組織を侵し、水の流通を止めてしまいます。ちょっと前までぴんぴんしていた大きな木が、いきなりぱたっと枯れてしまうんですよ。松枯れと並んで、木の突然死の最たるものの一つになります。
◇ ◇ ◇
カシナガの被害は昨今急に発生したわけではなく、これまでも何度か小・中規模の発生が日本の中西部を中心に見られました。ですが、現在のカシナガ被害は日本の広い範囲に広がり、どこで収束するのか見通しが立っていません。
本来南方系の虫であるカシナガが温暖化の影響で北上し、被害を拡大させているという見方もあります。そして厄介なのが、この虫の害は防除がとても難しいということです。
そらあ、山全体に真っ白になるくらい殺虫剤をかければ、虫は殺せるかもしれませんが、有益な昆虫も死んでしまいますし、虫以外の生物への影響も無視できなくなります。なにより、それだけ大量の殺虫剤を撒けるような財源がどこにもありません。(^^;;
ですから現在のところ、せいぜい枯れた木を運び出して虫の増加を抑えるくらいしか手立てがありません。
全山一本残らず枯れるわけじゃなし、今までもカシナガの被害が出ても自然収束しているんだから、そんなに騒ぎ立てることはない。そういう見方もあります。(Wikipediaでは、その見解が載ってますね)
ですが、ナラが激減することは、その後の森の形が変わるということでもあります。野生動物の貴重な餌資源が減り、それらの動物の数や行動を変化させる。根で山の斜面を抑え込んでいたその作用が弱まり、豪雨による斜面崩壊を誘発する。いろんなリスクがあるということを、考えておかないとなりません。
ナラ類は、林業と言う観点からは薪や炭にしかならない経済価値の低い木かもしれませんが、里山の生態系、健全性、生産力を司る重要な木です。今後カシナガによる被害の動向を注視していく必要がありますね。
さて。それがタイトルにどう繋がるかと言うと……。
カシナガの侵入を受けた木の根元には。
粉チーズがいっぱい!
……なんてことじゃなくて、これは虫がトンネルを掘る時に出した木屑。フラスと言います。これが、『虫が中にいるよー』というサインになります。フラスの出た木は、枯れる可能性が高くなります。そして、枯れた木は……とっても危険なんです。(^^;;
虫の増殖を抑えるために、枯れた木を伐採して処分してしまうのが対処法の一つなんですが、作業員の方は枯れたナラ類を切るのを嫌がります。なぜか。枯れてしまった木は急激に材の腐朽や劣化が進んで、もろくなるからです。
伐採作業中に大枝がぼっきり折れて脳天直撃なんてことになったら、即座に命に関わります。伐採じゃなくても、風で揺すられただけでぼきりと折れて落ちることがあります。なんと言っても、ナラ類は材の比重が大きい。重いんです。それが頭上に振って来るのは、鉄骨の直撃を受けるのと大差ありません。
どうかお近くの公園やハイキングコースでこういうのを見つけられた方は、管理者に教えてあげてください。まだ枯れる前に対策が講じられればそれが一番ですから。
間に合わずに立ち枯れてしまったら……。風の強い日などには、そのような枯れた木の近くには近付かないよう、どうかご注意を。(^^;;
もう一つ。
カシナガによる被害でナラが枯れたあと、その周辺にカエンタケという真っ赤なキノコが発生することがあります。
カエンタケは、かつては非常に珍しいキノコでした。わたしも見たことがありませんでした。ですが、ナラ類の集団枯損地ではそれがよく見られるんです。
で、このキノコ。
猛毒です。(^^;;
毒キノコと言っても、普通は食べなければ害はないんですが、カエンタケにはびらん性の成分もあるようで、触っただけでもかぶれることがあるようです。もちろん食べたらただでは済みません。脳を萎縮させるなんていう、恐ろしい作用があります。致死率も高いです。
木の根元に危ない粉チーズがあれば。どうか、くれぐれもご注意ください。(^^;;
Curt by I Am Oak
おもしろいバンド名ですね。
わたしは樫です、かあ。