▲成田山へ向かう参道沿いは誘惑がいっぱい。さっそく煩悩の花道!
※今日は長いですよ~。お時間あるときに、ぜひ♪
▼5月26日(木) 断食修行1日目
さて、いよいよ断食初日。
スマホとの別れを惜しみつつ、朝5時30分に家を出発しました。
朝倉一善さん著の『日本全国神仏修行入門』によると、
修行は自分の欠けている何かを補ってステップアップするのではなく、
思い込みを一度打ち破ってしまおうというもの、らしい。
「花も空も、自然のありのままの姿に感動するとき、私たちは我を忘れる。
自然も無心、我も無心、というところで向き合っている。
よい仕事をするとき、よい音楽を聴くとき、よい映画を観るときも我を忘れるように
自己を忘れているときがいちばん充実している。
座禅にしても、お釈迦様が悟ったときの姿を真似て自己と向き合い自己を忘れる修行だから
悟るためにするのではない」
そんなことが書かれていてなるほど、磨くんじゃなくて戻るのね、忘れるのね、と電車で言い聞かせつつ…
ふと車内を見渡せば、みなスマホを食い入るように見つめている。
わたしはスマホもない。3泊4日食べられない。
ほんとうに煩悩って、忘れることができるのかな?
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成田空港にほど近い成田駅から8分ほど歩くと
健康診断に指定された小さな診療所「藤倉クリニック」を発見。
紙の地図をくるくる回しながら何とかたどり着いたものの
グーグルマップの偉大さを改めて痛感しました。
待合室でしばらく待機し、8時半から検診を開始。
わたしのほかに、同じく断食者と思われる30代くらいの男女カップルが1組いました。
よかった、同期がいることの安心感たるや。
血圧測定、尿検査、聴診のみで、10分くらいであっさり終了。
それにしても診察室がDr.コトー診療所みたいにレトロで
お釣りの計算もそろばんをパチパチはじいていて、久しぶりに見たなぁそろばん…と思っているうちに
ゆるすぎる診断証明書が渡されました。血圧50/90だったけど、大丈夫かしら。
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成田はうなぎが名物、ということで新勝寺に向かう情緒ある参道沿いには、うなぎ屋さんがいっぱい。
表参道だけでも60軒ものうなぎ屋があるそうです。
しかも、ここぞとばかりに食欲をそそる香ばしい香りが両サイドから攻めてくる!
どこまでもついてくる敵をええいと振り切りながら…
ついに来ました、今回の戦場!
なんと立派な成田山新勝寺の総門。(国の重要文化財です)
この門をくぐれば、しばらく下界へ戻れない…のね。
▼ 歴代市川團十郎家も臨んだ断食参籠道場へ、いざ!
成田山新勝寺は、天慶3年(940年)に開山された真言宗智山派の大本山です。
ご本尊は、弘法大師空海が敬刻開眼したといわれる不動明王像。
開山1070年を超える歴史の重みなのか、門をくぐると境内はピンと張り詰めた空気に包まれていました。
そんな由緒ある成田山での断食参籠(さんろう)修行は、かつて祐天上人や二宮尊徳(金次郎)、歴代市川團十郎家など多数の著名人も体験してきたそう。
ちなみに、断食参籠修行のオフィシャルな目的は、
「お不動さまのご加護のもと、不動の信念と心身の鍛錬を体得すること」らしい。
どうしよう、そんな真面目な動機はないけれど。
とりあえず、今回の修行(のフリ)のメイン舞台となる断食参籠道場へ行ってみましょう!
▲こちらが断食道場の「女子参籠堂」。昭和39年の建築らしい。
2階建てですが、現在は1階のみ使用。
というのも、過去に断食者がフラついて階段を踏み外して危険だとかなんとか…。こわっ。
この向かい側が男子参籠堂。そこに受付があるので、あいさつに向かいます。
▼水は1日2リットル以上。病院行きになるから絶対飲んで、と脅される
この日の入堂者は、先ほどのカップルとわたしの計3名でした。
受付に現れたのは、作務衣姿のちょっとコワモテの男性。
この人がウワサの手厳しい世話係のIさん。
「ちゃんと、しっかりドア閉めてくれる?」
す、すみません…。閉めようとした矢先にいきなり怒られる。
なるほど、威圧感たっぷり。
小さな畳の部屋で書類確認やサイン、緊急連絡先の記入などをし、3人とも3泊4日分の6000円を納める。
ピリッとした空気の中、断食者の心得なる注意事項を叩き込まれました。
「まさか携帯なんて持ってきてないよね? 見つけたら出てってもらうからね」
「気持ち悪くなって吐く人いるけど、それ普通だから。水飲まないからそういうことになるんだよね~。とくに女性」
「絶対に1日2リットル以上飲んでね。ほんと病院行きになるから。頼むよ?」
……思わず背筋が凍りつきそうになる。
この水問題にはかなりシビアで、毎朝チェックがあります。
▲この湯呑みで水を何杯飲んだか、1時間ごとに区切られた表に「正」の字で記入していきます。
1日20杯以上飲むことが目安。
といっても、ペットボトルに水を入れて持ち歩くことが多いので、やかんと湯呑みは使わない人も多いです。
そんな水問題以外にも、
「集合は必ず5分前ね」
「用事があるときは必ず『断食者の○○です』と名乗ってから言うように」
「18時以降は必ず施錠して。以前、変な人入ってきたことあるから」
「22時以降は必ず電気を消して。たまに話し声で苦情くるから頼むよ」
などなど、脅し…いや、注意事項がいっぱいで半分くらい聞いてなかったかも。
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軍隊の入隊みたいな受付を終え、コワモテ世話係Iさんは女子参籠堂から案内してくれました。
まずは重い木製の門を開けると……
玄関が挑戦的すぎる!
こ、こ…これは……
まるで江戸時代の刑務所ではなかろうか。
気を取り直して、玄関に入ると昭和の木造校舎みたいなレトロな水場が。
▲この水道から出る水を毎日、飽きるほど飲みます。そして飽きる。
殺菌済みの井戸水だそうですが、最初は感じなかった消毒臭がどんどんつらくなっていきました。味覚、臭覚が敏感になっていく過程が如実にわかります。
左奥には、清潔なトイレが2ヶ所(ウォシュレットと和式)。
窓も玄関も、鍵は木造の引き戸独特の、くるくる回すネジ状の鍵。
って、若い方にはわからないですよね??
わたしは小学校のころ木造校舎だったので懐かしかったなあ。
そして廊下を進んでいくと、最大8名収容という女子の相部屋。
▲この布団がまあ、鬼太郎のぬりかべか!ってくらい、固くて重いのが名物です。
先輩陣を合わせて、この日の女子部屋は計5人。
部屋に入ると女性ひとりが気だるそうに横になっていて
新入部員のわたしたちに気づくと、儚げにこちらを向いてあいさつしてくれました。
「2日目で体調悪いから寝てるけど、気にせずしゃべっててくださいね」
だ…大丈夫ですか…!?
「今回来たのが2回目なんですけど、あたし断食すると17時間寝る体質らしくて…」
えぇーー!? なんか突っ込みどころ満載の初対面でビビるんですが…
ふと、昔飼ってたフェレットが1日20時間寝る動物だったなと思い出し、そっとしておいてあげたくなって同期のSさん(スレンダー美女!)とささやき合うように自己紹介をし、散歩の準備をしました。
▲お部屋に貼ってある。「見苦しい恰好で歩かぬこと」って…。
▼断食修行中は4時半起き!? 毎日何して過ごすの?
では、謎めいた断食修行中の1日の流れをご紹介しましょう。
◆4:30 起床 (冬期は5:00)
◆4:55 集合&健康チェック
部屋の掃除
◆5:20 朝護摩参拝
自由時間 (写経、数息観など体験できる日も)
◆15:00 勤行 (読経、礼拝、僧侶の話)
自由時間
◆18:00 門限
◆22:00 消灯
というように、基本的に自由時間が長いのです。
でも境内は広大で、成田山公園や仏教図書館、書道美術館など、リフレッシュできるところがいっぱい。
日によっては、写経や数息観などの仏教イベントに無料で参加できます。
興味がある人は毎朝の健康チェックの際に、「今日は何かイベントはありますか?」と世話係に尋ねます。
自分から聞かないと一切教えてくれないので要注意!
▼さっそく散歩に出てみたら屋台で試食を勧められ苦笑い
境内には朝から飲食物や土産物の屋台がズラリ。
焼きそば、たこ焼き、おでん、ドライフルーツ、落花生…
ああ、風に乗ってうなぎの蒲焼きの香りまで…
ドライフルーツの屋台の前を通ったときなんぞ、おばちゃんが笑顔で「試食どうですか~」って勧めてくる悲劇。
いやいや、せっかくのおばちゃんのご厚意をね…せつなくなる。
はぁ…初日なのに先行き不安です。
境内には池も多く、亀がたくさん泳いだり日向ぼっこしてました。
岩自体も、亀のカタチ。
仏教の生きとし生けるもの全ての生命を尊ぶという不殺生の思想が組み入れられているそう。
日本人よりも多い中国人の団体観光客が小銭を投げては盛り上がっていました。
お腹が空いてぼんやりしているので、あれ、わたし中国に来たんだっけ、と思う瞬間が何度もありました。
午前中は外国人観光客(わりと多国籍軍)が多いので、異国情緒たっぷり。
隣接する成田山公園だけでも、東京ドーム3.5個分という広さ。
体力のある1日目に散歩しておいたほうがいい、とは聞いていたし
さきほど女子部屋でお会いした眠り姫(と名付けよう)の具合い悪そうな様子を見たら、とにかく危機的に散歩欲が芽生えたのです。
1日に数回行われる護摩祈祷(また次回説明します)に参加してから、ひと通りアチコチめぐりました。
とにかく水をたくさん飲むのですぐにお手洗いに行きたくなります。
とくに女性は、お手洗いの場所を確認しておいた方が賢明です。
散歩していると、ふとした瞬間に鳴ってもいない、持ってもいないスマホをチェックしようとカバンをごそごそして、はっとしていました。
メールもラインもツイッターも仕事もニュースも気になる。
時計を見ると、まだお昼過ぎ。時間の流れがこんなにゆっくりなんて。
普段、どれだけスマホやネットに時間をとられているのか、流れては消えていく急スピードな情報にどれだけ振り回され時間を浪費しているのか。
もちろん情報は必要なものではあるけど、わたしの場合はたとえばタコを捕まえたくて海に泳ぎに出たのに、あ、マグロだ、あ、クジラもいる、と遭遇したものをどんどん追いかけて、次第に何を捕獲したかったのかも忘れて遥か遠方の沖で溺れそうになってる、みたいなことがよくある。
でも、こうしてデジタル断捨離をしながら1冊の本を読むということは、25mプールの目の前のコースをまっすぐ泳いでいるような感じ。必ずゴールがあって、マグロやクジラにとらわれずタコだけに集中できる、っていう精度のよさ。
まあとにかく、そんな時間がいとおしかったり、滝や小川の流れる心地よい音色、たまに池の鯉がちゃぽんと跳ねる音、鳥の声、深呼吸を促してくれるような風。
そうそう、風に揺れる境内の絵馬のカラカラと笑うような木の音色も。
みんなの祈りが励まし合っているような平和の音がして、ひたすらグーグーと鳴る空腹をなだめるようにやさしく響きました。
▲とはいえ、こんなのもあるから皮肉よね!
▼般若心経に「空」の文字が多い理由とは?
14:55、断食者は全員集合。男女計8名。
読経や礼拝を一緒におこなう「勤行」をしました。
若いお坊さんと一緒にお経を唱え、五体投地の祈りを繰り返します。
五体投地は、両肘、両膝、額を地面につけて行う礼拝で、仏教における最高の敬意を表す礼拝方法。チベット仏教を代表する礼拝でもありますね。
お経も読むのは初めてでしたが、般若心経の大きなテーマとは
「とらわれるな。こだわりを捨てよ。心も体もすべては空(くう)であると知ることで、苦悩を克服することができる」ということらしい。
必死に読みながらも「空」という文字がずいぶん多いなあと感じましたが、
般若心経でいう「空(くう)」とは、「ものごとは常に流動し、永遠に変わらないものなど何もない」という意味だそう。
仏教の「諸行無常」に通ずる教えですね。
自然が移ろうように、人の体もやがて老い、怒りや喜びの感情も絶えず変化する。
固定の実体はなく、観念でしかない。
だから思い込みが自分を苦しめるのだ、と。
よくいわれがちな「あるがまま」というよりも、むしろ「ないがまま」というほうが、しっくりくる気がしました。
自分というものも、じつは妄想の産物なのかもしれない。
わたしも含め、みんなお経はほぼ初心者だというのに、合唱団ができそうなほどリズミカルに揃っていておどろいたなあ。
お経って悲しいときに響くイメージがあったけど、祈り…なんだなと、このとき初めて実感しました。
最後にお坊さんが、
「断食はたいへんな修行ですが、その経験を通して新しい物事の見方ができればいいですね」
と温和に話してくださったことが印象的でした。
▼みんな個性的!? 断食道場のゆかいな仲間たち
勤行のあとは、女子部屋でおしゃべり。
先輩陣は3名とも、明日が最終日ということでした。
●まず、九州からはるばる来たという30代の九州女子。
3泊4日の断食の予定で、すでに3日目なのに元気そうでケロッとしてる。
「こんなに平気で、自分でもいいのかなって不安になるくらいです~。あはは」
「ずっと蕎麦が食べたいと思ってたけど、今は笹かまが食べたい!」
と、とても明るい。断食3日目がいちばんツライと聞いてたのに…びっくりしたなあ。
●そして今回が5回目の参加という、40代後半のツワモノ姉さん。
しかも、なんと6泊7日の断食も達成している強者!
「意外と誰でもできるよー。逆に2泊3日だといちばんツラいときに帰ることになるからね…」
今回は2泊3日だそうですが、1週間断食をする場合はしっかり食事を減らして、前日は固形物を食べないとか自己管理は心がけているらしい。
それにしても、肌がつやつや、つるつる。スタイルよく、若々しくておどろく。
断食の効果らしい。
●そして、17時間眠り続ける眠り姫は2泊3日の予定。
「以前、3泊4日で参加したとき布団が固すぎてアザができたから、今回は2泊3日にしたんです」
敷布団でアザとは! どんだけ頑強なんだ、ぬりかべ。
仕事が忙しくて眠るために来た、という理由も衝撃的でした。
●同期のSさんは、千葉県在住の会社員でスレンダーヨガ美女。
これ以上痩せちゃって大丈夫ですか!? と心配になるほど細長い。
前から断食修行は気になっていて、でもひとりじゃ…ということで彼氏さんと参加したそうです。
カレは最初反対していたのに、いきなり3日前に丸坊主にして逆に張り切っているとか。
ほかの男性2名は、ほんのり悲壮感漂うガリガリ君と、対照的なぽっちゃり君。
ガリガリ君はボクサーらしく、減量のために。ぽっちゃり君は結婚が決まって今年挙式をするそうで、気合を入れるために来たとのことです。
いやあ、みんな個性的で理由もそれぞれ。
わかったのは、女性のほうが構えず気軽な気持ちで参加していること。
そして、断食中の症状は人それぞれだということ。
18時の門限までは散歩をし、そのあとは部屋で会話をしたり読書をして空腹をまぎらわせたわけですが、とにかく眠い。
断食すると眠くなることが多いらしく、この日は20時ごろには眠ってしまいました。
そもそも、わたし原稿〆切で徹夜のまま来たことを忘れていたのです。そりゃ眠いわけだ。
★1日目の体重⇒800g減
★体調⇒お腹が空いて眠い
★いま食べたいもの⇒うなぎ
★祈ったこと⇒自分はどうなりたいか
ナマコのように眠った翌朝、ちょっとした悲劇が起こりました…。
次回へ続く。
長文、読んでいただきありがとうございます!
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