ピアノを弾いていると、打鍵している指に意識が集中しがちですが、意識すべきは、その指先だけには止まりません。

 

まずは、弾いていない指です。

 

指づかいに十分に気をつけて練習を重ねているにもかかわらず、音を間違える、隣の鍵に触れてしまう、音が転んでしまうなど、指の流れが思うように安定しない時、少しだけでも意識したいのが弾いていない指です。

 

少しだけでも、と断りを入れたのは、ピアノの練習にはいろいろな忙しさが付きまとうので、ふと思い出してみると良いと思う、という程度の意味ですが、

 

弾いていない指も、弾いている指と同じく、横、高さ、奥行き、それぞれの方向に位置関係が存在します。

 

つい音を間違える、意図する指番号で弾けないなどの場合は弾いていない指の横方向が、音が転ぶなどのリズムが安定しないなどの場合は、弾いていない指の高さ、奥行き方向を見直すことで解決できる場合があります。

 

もちろん、こうした問題はハノンなのどのメカニック的な基礎練習で対応することが通常だと思いますが、時間的な問題の解決、より意図的に効果を得たいと思う場合など、視点を変えた練習の一つになり得ると考えます。

 

次は、手のひらの開き具合と手の甲の形です。

 

指の開き具合を変えると、必然的に手の開き具合が変わり、それに伴って手の甲の形も変わります。

 

いわゆる、理想的な手の形と言われる、卵を持った時の手の形というのは、打鍵の時に手のひら、手の甲、指の関節と、それを支える筋肉が未発達、または、それらの使い方が未だ安定していない場合に該当する話と理解するのが妥当だと考えられます。

 

この点を理解した上で、ピアノを弾くときの手の甲の形は常に変化していて、場合によっては意図的に形を作ったほうが、結果として打鍵が安定することも考えられます。

 

また、跳躍時は当然のこと無意識のグーではなく、意識的に広げたパーの方が目的地までの手の移動距離は短くて済むので、打鍵と同等に手の形、開き具合を練習時の1項目と捉えることも有効たり得ると思われます。

 

手首は、その構造上、手の甲が上に向いた状態から外側へは180°ほど回転できますが、内側へはほとんど回転できず、内側へ回転させようとすると、ある程度肘を上げる必要が出てきます。

 

この手首を回すことへの、人体の構造上の条件があるために、右手は上行の音型に比べて、下降の音型の方が難しくなります。

 

したがって、右手下降の音型の練習時に問題が生じていれば、手首の回転と、肘のあげ方に注目し、安定した演奏が得られる手首の角度と肘の高さを意識することも有効だと考えられます。

 

手首の柔軟さ、腕の長さ、手首から肘、肘から肩までの長さの比などは当然個人差があるので、一見、不自然な格好で弾くことになっても一概に否定はできないかもしれませんが、練習を重ねることで、自然な体勢へと解消されていくことは十分に予見されます。

 

安定した着座は演奏の基本となるものですが、腕、肩、背中、座る位置と体を向ける方向、ピアノとの間隔、そして左足と、全身のそれぞれの部位は統合的に打鍵に対して、より合理的に考えられる必要があります。

 

確かに、中央部分を弾く際には、結果として「良い姿勢」で弾くことが打鍵に対して、不自然さや無駄を生じない体勢となるでしょう。

 

しかし、ピアノの鍵盤の幅は人の肩幅を大きく超えます。

 

曲を構成する音域によっては、弾く際に「良い姿勢」を崩す必要に迫られる場合があります。

 

その場合、曲のその部分を弾くにあたって、どのタイミングで、どの様に体勢を変化させるかは、決して漠然としたものではありません。

 

体勢を変えること自体は楽音を発する訳ではないので、そのタイミングにはある程度の幅が生まれると考えられます。

 

どの様に体勢を変えるかは、体格、体の柔らかさ、熟練度などによって、個々で決めることになりますが、指づかい同様、弾きやすいことだけが正しい体勢の変化ではない事に注意が必要です。

 

目的の音を弾くために、腕、肩、背中、座る位置と体を向ける方向、ピアノとの間隔、そして左足をどの程度変化させるかを1拍前、半拍前、さらにその半分などのタイミングで決め、練習の1項目として捉える事は、良い結果に導いてくれると思われます。

 

ピアノの演奏には全身を使うと言いますが、この様に考察を重ねると、単に指や手を動かすことにとどまらず、体全体の各部位の動きを必要に応じて、定量的、または感覚的に捉え、演奏に繋げる必要がある事が理解できます。

 

また、訓練を重ねたピアニストの、あの「カッコいい」動きやポーズは、単なる演出でなく、その曲を弾くために必然な一要素であることがわかります。