ピアノの練習で、指の流れとその時の手の感覚は複数の要素で構成されます。

 

クラシックのピアノ曲を演奏する際、楽譜に記された音を間違えずに演奏することは、演奏においての重要な課題の1つです。

 

幸いピアノという楽器は、その発音の際に触れる鍵盤を目で見て確認する事ができ、その鍵盤が記された音と対応していることに間違いない確証があれば、100%の確率でその音が発音されます。

 

実は、この当たり前の事は、他の楽器では決して当たり前ではありません。

 

この好条件を備えながら、ピアノが難しい楽器であることの理由は1つ、演奏に必要な発音する音の数が他の楽器の比にならなく多いからです。

 

しかも、複数の音を同時に発音するのですから、難しさに拍車がかかります。

 

しかしながら、クラシックピアノの場合、演奏する音は楽譜に記された音に決まっています。

 

音が決まっているということは、すなわち弾く鍵盤も決まっていて、その鍵盤の組み合わせは、必ず1種類でしかありません。

 

鍵盤が決まっているという事は、指づかいが確定していれば、弾く時の手の形が決まるという事です。

 

前回の記事同様、ある1つのフレーズを弾いているとすると、そのフレーズを弾く指の流れは、瞬間、瞬間で弾いている音に応じて、

 

・横方向では、それぞれの鍵盤に応じた指の開きの角度、

・高さ方向では、白鍵と黒鍵との組み合わせによる、手の甲と手首の回転角度、

・奥行き方向では、その前後に弾く音との関係で鍵の打点位置

 

として決まります。

 

横方向での指の流れを、ある瞬間で見てみると、楽譜に記された音が変わるごとに弾く指が変わるので、その度に指と指の角度が指の流れとともに変化していきます。

 

ここでは数値化可能な角度という観念を使っていますが、弾く鍵盤の場所、指の開きなど、読んでいらっしゃる方がイメージしやすい言葉に置き換えていただいて構わないと思います。

 

要は、楽譜に記された音が正しく弾けていない時は、指は誤った角度で開いているし、隣の鍵盤との弾き間違う事があれば、最適な打点での指の角度が決まっていないと考えることができるという事です。

 

ですから、○度と具体的な数値化も良いのですが、最大の目的は安定した指の流れ、まずは、楽譜に記された音を正確に打鍵する指の流れを作る事なので、横方向の意識は音の間違いを無くし、隣の音と弾き間違うことのない安定した打鍵位置を練習し、その時点での指の開き具合を感覚として掴むことを目的とします。

 

高さ方向とは、おおよそ1cmほどある黒鍵の高さから生じる演奏上の問題への意識です。

 

ヒトの手の作りは立体的である上、弾く鍵盤上の黒鍵の高さが白鍵との組み合わせによって、凹凸を一定でなくしているので、手の形は多様に変化します。

 

この刻々と変化する手の形に加えて、軸となる指が黒鍵にある場合、軸となる指の種類や音型によっては指の動きが不安定になります。

 

指の動き、流れが不安定になると、うまく弾けなかったり、音が外れる原因になります。

 

特に拍やシンコペーション、楽句の最初の音を小指で弾いて、その重心を小指が担う時、つまり、小指が指の流れの軸となるときは注意が必要です。

 

この形の時は、手首を内側方向へ回転させようする力が働く事が多いので、手首の動きとしては、例えば右手なら時計の逆回りで、動きとしては不自然な動きとなり、注意、練習が必要になります。

 

ヒトの体の仕組みとして不自然な動きは、少なからずピアノの演奏には出現します。

 

その練習は決して焦ることなく、時間をかける必要があることも多いので、最初はこの打鍵時の鍵盤の高さへの意識をしっかり持つ事だけでも効果があると思われます。

 

奥行き方向は、鍵盤のどの位置を打鍵するかということです。

 

鍵盤の手前側を弾くか、奥側を弾くかはピアノのアクションの仕組み上、同じ力で打鍵した場合、テコの原理で手前を弾いた方がより強い力でハンマーを動かすことになります。

 

しかし現実問題、ピアノ自体が必要とする打鍵の強さと、奏者が加える打鍵の強さ、鍵盤のアクション上での打点と支点との距離を考えると、通常、鍵盤を弾く場所による強さへの問題は大きな意味はなさないと考えるのが妥当だと思われます。

 

むしろ、鍵盤の奥行き方向での弾く場所による指の流れへの影響を意識する必要があると考えます。

 

多くの場合、指の動きは最短距離をたどる事が合理的といえますが、最短距離が常に最善であるとは言えません。

 

鍵盤には黒鍵の山と、その間の白鍵の谷、黒鍵の手前の白鍵だけの平地があり、白鍵の谷はシ〜ド、ミ〜ファの間は他より広くなっています。

 

幸いこれらの条件は、鍵盤のどの場所でも同じですが、鍵盤と手首、腕との角度は、弾く場所によって変わります。

 

本来、最短距離で指を移動させたいところですが、最短距離で弾いた時、最短に加えて、黒鍵の山、白鍵の谷、腕や手首の角度などを考慮に入れた上で合理的な指の軌跡を決めることとなります。

 

そして、指の形、太さ、指同士の長さの割り合い、開き具合などは人それぞれ違うので、結果として合理的な運指は人によって異なると考えられます。

 

ただし、一見不自然だと思われる運指にも合理的な考えが含まれることもあるので、一概に弾きやすさだけで運指を決めてしまうのも早計です。

 

それほど運指は重要で、問題を上手く解決できない時の大きな手がかりになるものなので、常に考えを及ばせたいものです。

 

そして、ある時点で最善と決断した運指を感覚として掴む練習へと移行させます。

 

加えて、立体的である指は、打鍵時に鍵盤に触れる指先だけではなく、側面の感覚もあり、音型と運指によっては、黒鍵の側面を捉える感覚がポイントになることもあります。

 

指の流れと一口にいっても、単に運指の指番号の違いに留まらず、そのチェックポイントは多岐にわたります。

 

チェックポイントが多岐に渡るという事は、行うべき練習は一様ではなく、多くの工夫を凝らすことができると考えられます。

 

ピアノの練習には様々な方法、考え方がありますが、指の流れを感覚として掴むことは、ある段階までは大きな目標たり得ると思われます。