2、練習方法とその目的 −2

さて、この回数を決めて弾くことには大きなメリットがあります。

ピアノの練習で何回も何回も繰り返し練習することはマストですが、「その何回も、って何回?」という問いへの答えは「何回も」以外にはありません。

仮に1,000回と答えたとしても、1,000回という回数に根拠はあるはずがなく、せいぜい「最低でも1,000回」と言えるコトができるぐらいで、それは、100回でも10,000回でも、同じです。

繰り返し練習する箇所をどう区切るかですが、最終的には曲全体を通して練習したいのですが、当面の間は、段落、切りのよい数フレーズと区切っていき、やはり1フレーズが基本の区切りになります。

これは、一気に、ひと息に捉えて弾くという意味でも、改めて意識したいところです。

さて、1フレーズがスムーズに練習できれば良いのでしょうが、問題はその1フレーズが弾けない時です。

よくよく観察すると、弾けない時は、最初の弾けない1箇所が必ずあります。

その、弾けない1箇所の積み重なりが結果として「弾けない」になります。

ポイントはこの弾けない1箇所までで弾くのを止めて練習することです。

これは、間違えるときも同じです。

間違いには偶発的な間違いもあります。
こちらは当面の間、見逃しておくことにしますが、同じ所で同じ間違いが2回続けば、これは偶発的な間違いとは言えません。
なぜなら、間違うための同じ条件を無意識が、無意識的に正しく記憶している可能性が極めて大きいからです。

弾けない、間違う1箇所の直前までは、最初の段階でクオリティはあまり追求せず、一応でも弾けているとして、弾けない1箇所、1音、1和音までを7回弾きます。

そして、弾けない、間違う原因を「位置情報」が正確に認識できていないと考えます。

位置情報というのは、もちろん鍵盤の位置情報です。
本来、座標的に固定されている、楽譜に記された音に対応する、目的の鍵盤の位置に対して、打鍵する際の指の位置は、目的の鍵盤の位置上の許容範囲内に確定している必要があります。
ピアノの場合、鍵盤の位置はグランドピアノの弱音ペダルを踏んだ場合を除いて、絶体的に場所は決まっています。
このことは極めて重要で、座る位置、座った姿勢、無駄な力が入らない構えなど、指先での打鍵に必要な条件は奏者側ですべてコントロールできると言うことです。

その指の位置を安定的に確定させていくのがピアノの練習の大きな目的と言って良いと思います。

まず、直前の音を基準に考えると、弾けない1箇所へは、指が届く場合と届かない場合があります。

届く場合は「指(番号)」と「開き」が打鍵する指の位置を決める情報となり、
届かない場合は、「指(番号)」と「開き」に加えて、「手の甲」、「肘」、「肩」、「座り」の「位置」、さらに加えてそれぞれの「角度」、さらにさらに加えてそれぞれの「スピード」が打鍵する指の位置を決める情報となります。

届かない場合の必要情報は格段に多くなりますが、ピアノの場合、目視が有効です。

「目で見て確認する」ことができるということです。

「弾けない1箇所」までで、そこから先を弾かずにを練習するのは、「弾けない1箇所」の鍵をしっかり目で見て確かめた上で、その鍵に触れた上で打鍵するという運動から得られるそれぞれの情報を1つ(1箇所)の音に絞ることが目的です。
そして、それぞれの情報は、鍵盤を正しく弾けた時の感覚として、無意識に記憶されます。

「感覚」という一見曖昧に捉えられるものも、いったん具体性を持たせて情報化し、回数を決めて繰り返し練習することで、意識から無意識へ、無意識から意識へと行ったり来たりさせることで、ある程度コントロールしながらの練習が可能だと考えます。

目的の音を得ることができる場所と音を一対一の関係で「目で見て確認できる」楽器は鍵盤楽器以外には存在しません。
人間の視覚による情報は諸刃のつるぎですが、この場合、特に間違えずに弾く練習ではとても有効なので、活用しない手はありません。
もちろん、正確に弾けるようになった後は必ずしも目視する必要はありません。

こうして、弾けない1箇所まで7回弾いた後ですが、その場で修正できている場合と、そうでない場合に分かれます。

修正できた場合は、次の1箇所へ進み、同じことを繰り返します。

この方法で練習すると、目的の1フレーズに3箇所の弾けない、間違う箇所がある場合、特に前半は21回弾くことになります。

修正できなかった場合は、無理せずに一旦そこで練習を止めて翌日以降また、同じ方法で練習します。

翌日以降ということは、睡眠を挟むことを意味していて、睡眠を経た短期記憶は、長期記憶へと移行されます。

それでも弾けない時でも、同じ方法で数日から一週間ほど繰り返せば、必ず、少しかもしれませんが、弾けるようになっているのが、この練習方法の不思議なところです。