OUT of HARMONY (7) | 水穂の小説置き場とひとりごと

水穂の小説置き場とひとりごと

ファンタジー小説を執筆中……のはずw


 パキッ

 その瞬間。

(――しまった!)

 思うと同時に、心臓が早鐘を打つ。足の下には折れた小さな小枝。

 こうなったらコソコソしている場合ではない。

「誰だ!?」

 部屋の中から声が掛かる。しかしその時はすでに走り出していた。

 隊長のことだ、きっと感づいただろう。そして、次にどうするのか――

 彼――イルザは走りながら考えていた。

 中立地帯であるこの村を、センターシティの騎士団が無理やり占拠するなんて何かおかしい。そう思って宿に忍び込んでみたのだが、彼の感は当たっていたようだった。

 しかし、核心に触れた話は聞けなかった。結局、あの少女が何者で、彼らはその少女をどうするつもりなのか。そして、あの隊長が裏切り者だったことが、かなりのショックだった。

 いろんなことが分からないままだったが、今ミンティが危険な状態であることは確実である。

 彼らより早く、ミンティの所へ行かなければ――

 イルザは村近隣の地理は完璧に把握している。裏道や近道を使い、確実に彼らより早くつける自信があった。

 でも、ミンティはこの話を信じてくれるだろうか? そして、あの少女をどうすべきか?

 イルザは湧き上がる葛藤と思考でパニックになりそうだった。

 それでも、衝動にまかせて行動するしかなかった。

 すでに日は落ちきり、あたりは闇に沈み、わずかな虫の音と遠くから村人の団欒が小さくきこえる。

 彼女の家に近づいてきた時、追手がいないかあたりを見回す。

「……いねーな」

 息を整えながら、自分を安心させる意味も込めて、小さくつぶやいた。

 もたもたしている暇はない。イルザは急いで近づき、家の扉をたたく。

「ミンティねーちゃん! いる?」

 間もなく「はーい」と、明るい声と共に扉が開く。白いエプロンをしたミンティが姿を見せた。

「イルザくん。……どーしたの?」

 いつもの笑顔から一変、汗だくな彼の様子を見るなり、驚くミンティ。

「…あ、あいつは?」

 隙間から部屋の中をのぞき見る限りでは、ベティの姿が確認できない。

「あいつ? ベティのこと? ちょっと外に出るっていってから、まだ帰ってきてないけど。その辺にいなかった?」

「とりあえず、ここにいちゃまずい! ミンティねーちゃん、来て!」

「え? ちょ、ちょっと!」

 彼女の腕をつかみ、イルザは走り出した。

「待って、一体どうしたの?」

「急がないとヤツらが来ちまう! 説明は後でするから、とにかくついて来て!」

「でもベティが……」

「いいから! あとで何とかする!」

 訳が分からずも、その力強さに腕も振りほどけず、ミンティは彼についていくしかなかった。

 正直、あの少女がいなくて、少しホッとしていた。すんなりミンティを連れ出せたから、だけではない。

 やっぱり、イルザはあの少女が怖かった。あのブライムたちが話していたことも脳裏によぎる。

 近づくこともできないと言っていた“あの力”。あの力ってなんだ? 話し方から察するに、決していいものではないだろう。
 そんなことを考えているうちに、やがて二人はイルザの安らぎの場所へ辿りついた。

 森の中に小さく開かれた場所。すっかり闇に落ちてはいたが、月明かりがうっすらと入り込み、イルザが的にしている岩が照らし出されていた。

「……ここまでくれば、たぶん、大丈夫……」

 はあはあと息を切らし、イルザ。そして、ミンティから手を離した。

「……」

 ミンティも息を切らし、膝に手をつく。

「ごめんよ、ミンティねーちゃん……こうするしか、なかったんだ……大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 息を整えて、顔を上げるミンティ。いつもの、とはいかない弱々しい笑顔。

「説明、してくれるよね? 一体、どうしたの?」

 ただ事でない、ということはさすがに分かっているのだろう。イルザをまっすぐ見つめてくる。

「うん……俺なんかが言っても、信じられねーかもしんねーけど……」

 木にもたれかかり、ふぅっと息を吐く。

「俺、この村が好きだ。この村でずっと暮らしたい。だからこの村を、村の人たちみんなを守りたい。俺、悪ガキで、嘘ついたり、イタズラばっかりやってるけど、これは本当なんだ!」

 イルザもミンティを見つめ返し、訴える。

 ミンティは静かに頷いた。

「うん、知ってるよ。イルザくんが、本当はいい子だって、わたしは知ってたよ」

「……ミンティねーちゃん……」

 熱いものが込み上げてくるが、ぐっと抑え、

「だから信じてほしい。今から、話すこと……」

 イルザは、宿で聞いた話を、寸分違いなく話した。ブライムと隊長が話をしていたこと、隊長がラズルという裏切り者だったこと……。

 彼が話をしている間、ミンティは一切口を挟まず、終りまで黙って聞いていた。

「……で、俺、ミンティねーちゃんが危ないって思って、ここに連れてきたんだ……」

 しばらくの、沈黙。やがてミンティが口を開いた。

「その騎士団の人は、ベティの正体を知っているのかしら?」

「うん、きっと知ってると思う。でなけりゃ、捕まえに来ないと思うし。でも、なんで捕まえるのかは、わかんねーけど……」

「…あのね、さっき家に、隊長さんがきたの」

「えっ!」

 突然のミンティの発言に、イルザは声を上げた。

「あ、騎士団の人が来る前だったんだけど」

「何、話したの?」

「ベティのこと。もう追い出せって言わないって。わたしの味方になってくれるって」

 うつむき、地面を見つめるミンティ。

「嘘だ。あいつ、ミンティねーちゃんを利用しようとしてるんだよ」

「そう…イルザくんの話を信じるなら、そうなるよね…」

 悲しみに染まった声が、小さく震える。

「俺は嘘じゃない!」

 思わず叫んだ。

 隊長は村によく尽くし、村人からの信頼があつく深いものということは、イルザもよく理解していた。実際、あの話を聞くまで、イルザ自身も信頼を寄せていたからだ。そうでなければ、今まで度が過ぎたイタズラなどしてこなかっただろう。

 自分の話をすんなり信じろ、という方が難しい。

「…あ、ごめん」

 声の大きさに驚いたミンティを見て、イルザはハッと我に返った。

「うん、信じてないわけじゃ、ないの。ただ、ショックで……」

 味方だと思っていた人間に裏切られる……そのショックはイルザも同じだ。

 ミンティは再びうなだれる。

「…俺が、味方になる!」

「え…」

 イルザの突然の決意に、ミンティは思わず顔をあげて、彼の顔を見る。

「俺が、ミンティねーちゃんの味方になってやるよ! あの…ベティも、一緒に暮らせるように…俺がなんとかする!」

「イルザくん…」

「隊長の代わりには、程遠いかもしれねーけど……」

 きっと強がりだって、見抜かれているだろう。そんな約束ができる根拠なんてこれっぽっちだってない。こんな子供にできることなんて、限られている。それでも、やれることはやってやりたかった。

 しかし、ミンティは優しく微笑み、

「ありがとう」

 そう言って、イルザの頭をくしゃくしゃっとなでた。

 ミンティの微笑みを見て、イルザはホッとしたと同時に、急に顔が熱くなるのを感じた。

「あ、お、俺、ベティ捜してくる!」

 なぜどもってしまうのかよく分からなかったが、決意が揺らがぬうちに、イルザは走り出した。

「ミンティねーちゃんは、ここで待ってて!」

 振り向きざまにそう言うと、

「気をつけてね!」

 と背中越しからミンティの声が聞こえた。

 まずはベティを捜して、その先は、三人そろってから考えればいい。

 イルザは、慣れた森の道なき道を抜け、村へと走って行った。

 その時、一つの影とすれ違っていたことを、全く気付かずに――。



――続く――



OUT of HARMONY (8)