OUT of HARMONY (5) | 水穂の小説置き場とひとりごと

水穂の小説置き場とひとりごと

ファンタジー小説を執筆中……のはずw


「ここの長はおるか! 話がある!」

 その声に、村人たちは一斉に注目した。そこには数十人の団体が群れをなしている。

 仕立ての良い服に甲冑。馬にまたがり、その腰には使い込まれた剣。

 あきらかに旅一座の芸人、といういでたちではない。

 ピリピリとした空気に、シーンと静まり返る。

「我々は、センターシティより派遣された第一騎士団である! ここの長に話がある!」

 ひげを生やした、色黒の中年男が再び声を上げる。

 名を聞き、村人たちは次第にざわつき始めた。次々と人が集まってくる。

「村長は、わたしだ。こんな田舎へ、都会の騎士団様が何用かな?」

 人垣から、村長を名乗る一人の男性がすっと前に出た。

 ひげの男はそれを見とめると、馬から降り、彼の前に立つ。ガチャガチャと甲冑の音が耳につく。

「わたくしは、センターシティ専属第一騎士団団長のブライム・ハーバーと申します。我が領主の命により、この村を第一騎士団の前線拠点にさせて頂く。これが、正式な命令書です」

 矢継ぎ早に言うなり、一枚の紙を広げて見せる。

 高価な飾りのついた、縁どりも鮮やかな羊皮紙だ。その刻印と文書は正式な命令書に他ならなかった。

 しかし、村長はむすっとした表情で、
「前線拠点とはまた物騒ですな。ここは中立地帯ですぞ。誰の味方もせん。平和な村に戦争を持ちこまれては困りますな」

 センターシティは、この国一番の都市であり領地であり、世界の中心的存在でもあった。最近、隣国の謀反計画が明らかになったらしい。

 この村は、隣国から近くはないが、センターシティから比べると近い方だった。

「開戦の連絡はないから安心したまえ。ここは隣国への旅行者も多く通る。情報を集めやすい。それに、これは正式な命令だ。我々への協力を惜しむならば、反逆者扱いを受けることになる。お分かりかな?」

「なんだなんだ、俺の出番っぽいなぁ」

 村人の間をぬって、村長の隣に立ったのは、ミンティの家から出てきたばかりの彼だった。

「……なんだ貴様は」

「おっと失礼。俺はこの村の警護隊の隊長をやってるもんだ、よろしく」

 ぺこりっと彼なりの丁寧なお辞儀をして見せる。

「話は聞かせてもらいましたよ。こんな田舎に派遣されるなんざ、騎士団の団長さんも大変ですねぇ」

「一介の警護隊に労われるとは、見下されたものだな」
 不愉快を前面に押し出し、ブライムは言う。

「いや~、そんなつもりはありません。まあ、あんな脅しを言うくらいですから、こちらがどんなに反発しようと無駄なのは承知してますよ。命令書があるんだ、逆らえません」

 お手上げ、というように肩をすくめる。

「ならば、すぐに我々の宿と食事を確保してもらおうか」

「もちろんいいですとも。しかし、一つ条件があります」

 これまでの茶化したしゃべりでなく、真顔でブライムを見つめる。

「この村の平和をお約束ください。一切、戦争や問題を持ち込まないで頂きたい」

 彼のまっすぐな目を見据え、しばらくの沈黙のあと、

「……本来ならば、そんな条件をのむ必要はないのだが、よかろう。我々も、平和を守り平和をもたらすためにいるのだからな」

 そう言うと、後ろに続く者たちに何やら合図をした。

「それでは、案内していただこうか」

「分かりました」

 彼は村長に“大丈夫”という無言の頷きをした。それを見るなり、村長はあきらめた様子で、ブライム一行を案内したのだった。


 繰り返されるのは、いつもの映像。

 現実なのか、夢なのか。まるで判断がつかない。
 考えたこともない。

 声をあげて。涙を流し。震え。足がすくむ。

 逃げられず。何もできず。

 そうして、どうしただろうか。

 目が覚めると、いつも一人だった。

 最近は、必ず隣にミンティがいる。

 彼女の顔を見ると、ほっとしている自分がいる。

 こんな思いは、初めてだった。

 何かを考えたり、何かを思ったり。

 何かを話したり、何かをしたり。

 全てが新鮮で、全てが初めてで。

 それでも、最初は気持ちが悪かった。

 ミンティが手をぎゅっと握ると、すっと消えていくのだ。

 今、彼女は隣の部屋で知らない男性と話をしている。

 きっと、自分のことだろう。

 首に下がっているペンダントを見つめる。

 自分が何者か。考えたこともない。

 常に人々が恐れおののき、常に一人。

 そのことに何の疑問も抱いたことはない。

 ミンティと暮らすようになってから、少しずつ、考え始めた。

 自分の変化に、戸惑いもある。

 それすら初体験なのだ。

 とにかく、今までと違いすぎる。

 しかしミンティといると、その違和感が心地よくなってくるのだ。

 彼女と一緒にいたい。

 いつの間にか、そう思うようになっていた。

 ざぁっ・・・

 風が音を立てて、外の木々を揺らす。

 窓の外を見ると、遠くに人影が見えた。

 馬に乗った人が大勢、こちらへ向かってきている。

 それに合わせるかのように、村人が一人、また一人とそこへ集まってきた。

 なんだか、もやもやする……

 ベティは窓から離れ、そっと部屋の扉を開けた。

 ちょうど、訪ねてきた男性が帰るところだった。

 彼は、自分とミンティを引き離したりしないだろうか……

「お邪魔してすまねぇな、ベティちゃん。おじさんはもう帰るよ。あ、今度来るときはお土産でももってくるからな」 

 彼はニカっと笑って、軽く右手を振ってきた。

「……」

「あの、ありがとうございました。すごく、助かりました」

 ミンティがペコっと頭を下げる。

 なんとなくミンティに近づき、その服の端をぎゅっとつかんだ。

「あぁ、またくるよ。もちろん、店にもな」

 そう言い残し、彼は去って行った。

「さ、夕食の準備しようか」

 明るくそう言うと、ぽんっと軽く頭をなでてくるミンティ。

「……ソ、ト」

 わずかな言葉をつぶやいて、手を離す。

「ん、外? なんかあったみたいだね。でも隊長さんが見に行ったし、大丈夫だと思うよ」

 いつもの笑顔でそう言うと、キッチンへ立つ彼女。

「ソ…ト…」

 もう一度つぶやいて、玄関へ向かう。

「え、何? お外に行くの?」

 慌てて追ってくるミンティ。

「もうそろそろ日も落ちるし、危ないよ? ご飯の支度もしなくちゃ」

「ダ、イショブ……ハヤイ、カエ…ル」

 心配するミンティには悪いと思う。けど、行かなきゃいけない気がする。

 ミンティは困惑しながら、

「じゃ、じゃあ、わたしも一緒に行くよ」

 しかし、ベティは静かに首を振った。

「…一人がいいの? 本当にすぐ戻ってくる?」

 よほど心配なのだろう。素直に表情に出るから分かりやすい。

 ベティはこくん、と頷いた。

「分かったわ。じゃあ、ご飯作って待ってるからね。遠くに行っちゃ駄目だからね?」

 ゆっくり、念を押して言う彼女。

 再びこくん、とベティは頷くと、靴を履いて玄関の扉をそっと開き、外へ出た。



――続く――



OUT of HARMONY (6)