雲間から、一筋の光。まるで鍵を開けたかのように、入り込む。思わず目を細めてしまうほどの明るさをもって、何日かぶりの太陽が顔を見せた。
みるみるうちに、雲は離れていき、空気の色まで変えてしまったかのような澄んだ空になる。
村人たちにも生気が戻り、活性化されてきた。
ベティがこの村にやってきてから数週間。村はどんどん明るさを取り戻し、復興しつつあった。
ミンティの手によって、ベティは見違えるほど綺麗になった。ブロンドの髪は肩で短く揃えられ、その輝きも取り戻しいていた。来ている服は、ほとんどミンティのお手製だ。
少女は少しずつ言葉も覚えてきたようだが、自ら何かを話すことは少なく、その表情も乏しかった。
「おい、悪魔がいるぜ」
そんな言葉を聞いた、とある日。
いつもは一人で買い出しをしてるミンティだが、今日はベティの服を買いに二人で出掛けていた時だった。
声の主は道端で遊んでいた、ベティと同じくらいの年ごろの男の子だ。周りからの視線が、一気に集中する。
「……」
ベティがやってきた日の一件以来、少女が良く思われていないのは、ミンティも知っていた。ルドや、常連客から散々、ベティを追い出すように言われてきてもいた。
「イルザくん、人の悪口言うのは、よくないよ?」
さすがのミンティも、その明るさに影がさした。悲しさに、眉がよる。
イルザと呼ばれた男の子は、仲間の子に何か囁くとミンティの前まで歩いてきた。
「ミンティねーちゃんさ、なんでそいつかばうの? お店壊したんだろ? 変な力使って」
そう言い、ベティを睨む。ベティは無表情のまま、それを受け止めた。
「誰から聞いたの、そんなこと」
「誰でもいーじゃん。変な天気とか、全部こいつのせいだって噂だし。村を滅ぼしに来た悪魔だってみんな言ってるぜ」
その言葉に、ミンティは衝撃を受けた。みんなって、村人全員? こんな少女にいくらなんでも酷過ぎる。
「ベティは、そんな子じゃないわ。それに、ベティがここに来てから天気も良くなったし、村だってこんなに明るくなったじゃない。むしろ救世主だと思わない?」
いつもの笑顔でそう言った。しかし、イルザの表情は冴えない。
「ミンティねーちゃん、優しすぎじゃねぇの? 痛い目みても、知らねーからな!」
そう言って、イルザは仲間のもとに走り去った。
ミンティは見送って、ふぅっと息を吐くと、
「いこ、ベティ」
声をかけて、ベティの手を取って歩き出した。
ミンティにとって、ベティは本当の妹のように可愛い存在になっていた。変な力、とイルザが言っていたが、それもあの日以来見たことがない。確かに不思議な子ではあるが、みんなが言うほどの嫌悪は全然感じない。なぜあの一件だけでこれ程までの中傷を受けなければいけないのか、それが悲しくて仕方がなかった。
「あ!」
と、誰かの声。そちらに顔を向けると――
ばぢぃ…ぃんっ!!
「きゃあっ!!」
つば迫りのような激しい音と共に、目の前に火花のようなものが散る。
しかしそれは一瞬で、次に起こったのは…
「ベティ…?」
思わず、つぶやく。
少女に向かって投げられた石が、ちょうど彼女の顔の前で浮いている。
いや、そのままドロリッと溶け、空中に霧散した。
胸元の紅玉が光を放ち、ベティの無表情を照らしている。
それを見ていた誰もが言葉を失い、立ち尽くしていた。もちろん、石を投げたイルザも――
「やっぱり……悪魔だ!」
悲鳴に近い声をあげ、イルザは逃げるように去って行った。
それが合図とするかのように、周囲の人々もざわつき、距離を取り始めた。
ベティの周りに発生したと思われる不思議な力はすでに、紅玉が光を失うのと同時に消えいる。
ミンティはしばらくベティから目をそらせずにいた。
(あの時とは、また違う。不思議な力。これは、一体なんなのかしら?)
戸惑いがミンティを襲う。この子は何もしていない。何も悪くない。でも、どうしたらいいのだろう?
そんな彼女を見透かしてか、ベティがミンティを見つめ、
「……ゴ、メン……」
今にも消え入りそうな小声で、つぶやいた。表情こそ乏しいものの、その声色は普通の子となんら変わりなく、ベティの個性を表していた。
(そうだ。この子だって、戸惑っているのだわ。私がしっかりしなくちゃ)
ミンティは思いなおし、ニコっといつもの笑顔に戻った。
「大丈夫よ。気にしなくていいわ。イルザくんには、今度しっかり怒っておくから」
そう言うと、集中する奇異な視線から守るように、ベティの手を取り歩き出した。
しかしその視線が、家に帰るまでずっとついてまわっていたことは、言うまでもなかった。
――続く――