『夕暮れの小さなテーブル』

アンリ・ル・シダネル

(1921年)

 

 

 

***2019年12月10日の日記***

 

 

そのコーヒーショップの

本社は都内にあり。

 

私が学生時代に

バイトをしていた店舗は、

 

本社直営店の中でも、

古いほうのお店でした。

 

 

結婚後、

子育てが一段落した頃に、

 

学生時代に働いていたところと

同じ店舗で再び働き始めましたが。

 

あの店舗は、

その頃に閉店になりました。

 

 

閉店になった理由は。

 

その店舗の近くにある駅の中に、

同じ系列のコーヒーショップが

出来てしまったことによる、

経営不振でした。

 

 

駅ナカに出来たそのお店というのは、

本社の直営店ではなく、

 

本社とフランチャイズ契約を結んだ

会社が経営するお店でした。

 

 

あのお店が閉店になった時、

私はそれを機に仕事を辞めましたが。

 

もし継続して働くことを希望すれば、

その駅ナカのお店が雇ってくれるという

救済処置があったので、

 

閉店後にそちらに移動した人も、

何人かはいたようです。

 

 

あれから何年か経って。

 

私はまた、

同じ系列のコーヒーショップで

働くことになりましたが。

 

今回自分が働いている店舗を

経営しているフランチャイズ会社が、

 

以前に自分が働いていた老舗を

閉店に追いやったあの駅ナカの

お店を経営している会社と

同じだったと知った時は。

 

 

なんというか。

 

そこに、

因縁めいたものを

感じたりもしたものです。

 

 

因縁。というか。

 

世間は狭いな。

 

・・・と。

 

 

*******

 

 

美大の彼女やギターの彼。

 

そして、

パートの彼女と同じように、

 

オープニング・スタッフとして

働いていた人の中に、

 

ある大学生の男の子が

いたのだそうです。

 

 

その男の子は、

私が入った時には既にもう、

そのお店にはいませんでしたが。

 

みんなの話によると、

 

店長にスカウトされて、

その、フランチャイズ経営をしている

会社の社員になったのだとかで。

 

大学も途中で辞めて、

今は、違う店舗で副店長を

やっているのだと聞きました。

 

 

その男の子は、

あの店長と仲が良かったらしく。

 

ギターの彼以上に、

店長はその男の子には

心を開いていたらしいです。

 

 

そして店長は。

 

もし、その気があるのなら、

いつでも会社に紹介するよ。と。

 

ギターの彼にも

そう言っていたのだそうです。

 

 

*******

 

 

けれども、

ギターの彼は。

 

こう言っていました。

 

 

「でも。ひとつだけ問題があるんですよ」

 

・・・と。

 

 

彼が言うその「問題」というのは。

 

ギターの彼が、

在日韓国人であった。

 

・・・ということでした。

 

 

私はその時初めて、

彼が韓国人であることを

知ったのでびっくりしましたが。

 

 

そう言われても、

見た目ではまったく分からないですし。

 

彼自身は、

生まれも育ちも日本でしたので。

 

 

だから。

 

「一体、何が違うの?」

 

・・・と。

 

そこに日本人との違いのようなものは、

まったく感じませんでした。

 

 

実は彼以外にも、

これまでの知り合いの中には

そういう人も何人かいましたが。

 

みんな同じです。

 

言われなければ、

全然分かりません。

 

 

ただ。

 

ギターの彼が言うには、

 

そのフランチャイズ経営の会社が、

そういう「国籍」を気にするらしい

とかなんとかで。

 

 

店長自身は、

そういうのは馬鹿馬鹿しいと

思っていたらしいのですが。

 

会社の方針がそうだったとしたら、

嘘をつくわけにもいかないし、

 

だから、

店長はああ言ってくれていたけど、

実際には多分、無理だろう。と。

 

彼は、

そんな風に言っていました。

 

 

私はこの話を聞いた時、

 

正直、驚いてしまったのです。

 

 

今どき。

 

・・・というか、未だに、

そんな古い考え方をする会社が、

まだあったんだ。

 

 

・・・と。

 

 

*******

 

 

高校生の頃。

 

当時はよく、通学途中の駅や電車の中で、

韓国のチマチョゴリのような制服を着た、

同じ年頃の女の子を見かけることが

ありました。

 

中学を卒業したばかりで、まだ、

世間のことを何も知らなかった私は。

 

「なんだか、めずらしい制服だなぁ」

 

・・・くらいにしか

思っていませんでしたが。

 

 

ある時、学校で。

 

クラスメイトから

それは朝鮮学校の人達だと

いうことを聞きました。

 

 

それを教えてくれた

クラスメイトはその時。

 

こう言ったのです。

 

 

「Lyricaちゃん、いい?

もし、駅とかでああいう子達と会っても、

絶対に目を合わせちゃダメだよ」

 

・・・と。

 

 

そして。

 

彼らは、私達日本人のことを

目の敵にしているから、

 

目が合っただけでも、

ケンカを吹っ掛けられる。

 

だから、気をつけて。

 

・・・と、言われました真顔

 

 

そんな話を聞いたら。

 

途端に恐くなりました。

 

そういう制服を着た人たちが。

 

 

その子の他にも、

そういう「噂」を知っている人は、

クラスにもたくさんいて。

 

時代も時代だったのでしょうけど。

 

あの頃は、私の親でさえも、

その「噂」を、完全には

否定しなかったのです。

 

 

私は。

 

その「噂」を鵜呑みにして。

 

 

そのうちに、

信じてしまうようになっていました。

 

 

自分自身でちゃんと、

真実を確かめることもせず。

 

 

ただ、

そういう話を人から

聞いただけだったのに。

 

自分自身が、

そういう体験をしたわけでは

なかったのに。

 

思い込んでしまったのです。

 

 

あの制服を着た人達は、

恐い人たちなのだ。

 

・・・と。

 

 

だからその後は、

 

あの制服を着た子と

すれ違ったりする時は、

 

いつもビクビクするように

なっていました。

 

 

*******

 

 

今思うと本当に。

 

幼かったな。

 

・・・と思います。

 

 

意識が幼い、

子供でした。

 

 

子供は無邪気であるが故に、

「無知」でもあり。

 

 

その「無知」というものが、

 

こういう「偏見」や「差別」を

生むのだろうな。

 

・・・と思うと。

 

 

それって本当に、

恐ろしいものだ。と。

 

今は、

しみじみ思います。

 

 

それは、

実際の子供に限らず。

 

大人であっても、

いくら年齢を重ねた人であっても。

 

意識が幼いままだったら。

無知なままだったら。

 

きっとそうやって、

 

簡単に「噂」に惑わされて

しまうのでしょう。

 

 

噂に惑わされて

最初は恐怖が生まれて。

 

その恐怖がそのうち、

憎悪に変わる。

 

そして。

 

人はそこに。

 

自分以外のところに。

 

「敵」

 

・・・を設定するのです。

 

 

自分に起こる良くないことは

すべて。

 

その「敵」のせい。

 

「悪人」のせい。

 

・・・と思うようになる。

 

 

そういう憎悪を膨らませた人達が、

集団になった時は。

 

人って本当に恐い。

 

 

そして、

こういうところもまた。

 

人の「弱さ」なのだろうと

思います。

 

 

また。

 

マスコミの情報のほとんどが、

 

そういう「弱さ」を基盤にして

発信されているような気がします。

 

 

だから私は、

テレビが好きではないし。

 

いまやネットも

「図書館」ではなく。

 

「マスコミ情報」で

埋め尽くされてしまっているので。

 

ほとんど見る気も

しなくなりました。

 

 

*******

 

 

自分が、

在日韓国人である。と。

 

そんな話をあのギターの彼は、

いつものように飄々と

話していました。

 

 

けれども。

 

「この話は、

若い子達にはしないで

おいてくれます?」

 

・・・とも、彼は言っていました。

 

 

このことを知っているのは、

いわゆる「大人組」の人達だけで。

 

店長や、

パートの彼女や美大の彼女。

そしてLyricaさんだけだから。と。

 

そう言っていました。

 

 

彼のこんな言葉から。

 

こういう話は未だに、

やはりどこか、デリケートなこと

だったりするのだな。と。

 

そんな気がしてしまいました。

 

 

それにしても。

 

実際に付き合ってもみないで、

 

ただただ国籍だけでその人を

判断することって。

 

なんだか、

愚かですよね。

 

バカバカしいことです。

 

 

たしかにこれまで。

外国人と関わることが多かった中で。

 

習慣的というか常識的みたいな部分で

彼らにドン引きすることも

多々ありましたけれどもにやり

 

でも。

 

それでもだいたいの人は、

みんな。

 

深いところでは同じ人間でした。

 

 

私も今でも。

 

情報を見すぎるとやはり、

流されそうになることは

ありますがにやり

 

そういう時は

意識的に踏みとどまって。

 

 

実際に自分の目で見たり、

触れたりしたもの以外は、

 

簡単に信じないようにしようと。

 

そう思っていて。

 

 

高校生の頃のように。

 

噂に惑わされて、

愚かなことはしないように

気をつけています。

 

 

つづく

 

 

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