『星月夜』

エドヴァルド・ムンク

(1922-1924年)

 

 

 

***2019年12月2日の日記***

 

 

「Lyricaさんとは、

もっとゆっくり話したいですよー」

 

・・・と、言ってくれたのは。

 

あのお店のバイトの中で

一番古株の女の子で、

 

彼女はそのお店の

オープニング・スタッフでした。

 

 

ただ、あのお店自体が、

オープンしてからまだ

1年経つか経たないかくらいの

新しお店でしたので。

 

古株。

 

・・・と言っても、

そこまで年季が入っていた。

 

・・・というわけでも

ありませんでしたが。

 

 

あのパートの彼女もまた

オープニングスタッフでしたので。

 

彼女とその女の子は

同期でした。

 

 

*******

 

 

古株の彼女は、

美大生でした。

 

・・・とは言っても、

年齢はもう30歳一歩手前で、

店長のひとつ下か、

ふたつ下くらいの大人でした。

 

 

普段お店でいつも顔を合わせていても、

ゆっくり話す機会はあまりなく。

 

別にそこまで

仲良しだったわけでも

なかったのですが。

 

ある時なんとなく。

 

お互いがお休みの日に

ランチでもしよう。

 

・・・みたいな話になり。

 

その時に彼女とは初めて、

じっくりお話をしました。

 

 

彼女はたしか。

 

大学の過程を普通に終えた後、

院生になって。

 

それからずっと、

研究生として大学に在籍しながら、

たまに個展を開いている。

 

・・・と。

 

そんな話をしていた気がします。

 

 

彼女が美大生。と聞いて。

 

ちょっと、

胸躍っている自分がいました。

 

 

「もしかしてこれは。

ちょっとマニアックな話が

できたりする?」

 

 

・・・とニコニコ

 

 

*******

 

 

あの時、私は。

 

『ムンク展』を観に行った

ばかりで。

 

それでいろいろと、

思っていたことがありました。

 

 

ムンクの絵は。

 

あの有名な『叫び』だけでなく、

なんとなくただならぬ雰囲気が

漂っているものが多くて。

 

それこそが、

「THE ムンク」のようで。

 

私はそこが好きでしたが。

 

 

でも、そのムンクも。

 

晩年に近づいていくにつれて、

その絵はとてもマトモで、

美しいものになっていき。

 

なんと言うか、

 

「普通」

 

・・・になっていってしまって。

 

 

そういうことで

いろいろと思うことがあったので、

 

美大生の彼女に、

チラッとそんな話をしたら。

 

彼女からは。

 

 

「あぁ。

ムンクは頭が変になってた時のほうが、

断然、良いですよ」

 

 

・・・と、すごくサバサバと、

まったく飾らない返事が返ってきてニコニコ

 

 

そんな彼女が。

 

私にはとても心地よくおやすみ

 

 

彼女も店長と同じで

獅子座の人で。

 

やっぱり、

火の人でした。

 

 

「美大生って、個性的な人が多いんでしょ?

そういう所って、すごく面白そうだよね」

 

 

・・・と私が言うと、彼女は。

 

 

「はい。美大なんて、

オタクと変人しかいないですから」

 

 

・・・と、歯に衣着せぬ物言いでニコニコ

 

 

文章だけでは

伝えづらいですが。

 

なんでしょうね、あの。

 

裏がまったくない清々しさ。

 

・・・とでも

言えばいいのか。

 

 

なんだか私、

大好きだわ、この子。

 

・・・とニコニコ

 

 

彼女と話していると、

どんどん気分が良くなって

いきました。

 

 

そして。

 

会話も盛り上がってきた頃。

 

あえて、

訊いてみたのです。

 

 

「パートの彼女さんのこと、

店長と一緒に苛めたんだって?」

 

・・・と。

 

 

そんなことを、

本人に単刀直入に訊く

私も私ですが。

 

けれども彼女とは、

そんな本音トークをしても

大丈夫だ。

 

・・・という。

 

そういう感覚が、

自分の中にあったのです。

 

 

私がそんな言葉を

口にした時。

 

普段はどこか

気が強そうな彼女の顔にふと。

 

弱さ。が浮かんだのが

わかりました。

 

 

「誰がそんなこと教えたんですか?

パートの彼女さんですか?」

 

・・・と。

 

ちょっと怒ったように

キツイ口調で言う彼女に。

 

 

「違うよ。

風の噂で聞いただけ。

で、ホントなの?」

 

・・・と、私も少し、

トーンを下げて言ってみました。

 

 

 

そうしたら彼女は、

固くなった態度を緩めて。

 

 

「もう~~、

苛めたわけじゃないんですよぉ~笑い泣き

 

 

・・・と、

 

困った笑顔を浮かべながら。

 

 

そのあと彼女は。

 

状況をいろいろと

説明してくれましたが。

 

彼女の話を聞いていたら、

私はますます、彼女に好意を

感じるようになっていきました。

 

かっこいいな、この子。

 

・・・と、

そう思っていました。

 

 

*******

 

 

彼女はそのままを、

ありのまま話してくれました。

 

何も隠そうとしなかったし、

ごまかそうともしなかったです。

 

 

美大の彼女が、

パートの彼女に対して

ものすごくイライラしていたのは

事実のようでしたが。

 

それでも

美大の彼女の言葉の端々からは、

 

なぜか、

パートの彼女に対する

「慈悲の気持ち」を。

 

どこかに感じるのです。

 

こういうところは、

あの店長も同じでした。

 

 

ふたりとも。

 

本当は優しい人達なのですが。

 

そのやり方が下手というか、

激しいせいで。

 

パートの彼女のような人には。

 

彼らのその優しさは。

 

まったく伝わらないのです。

 

 

パートの彼女が。

 

彼らのそういう「表面的」な

部分だけを見て判断し。

 

彼らは完全に「悪者」で、

自分は完全に「被害者」なのだと

信じて疑わないから。

 

だから美大の彼女も店長も。

 

余計にイライラしてしまう。

 

 

美大の彼女と初めて

ゆっくり話してみたら。

 

やっぱり。

 

似たようなものを持つ

店長と美大の彼女がそろった時に。

 

そういうエネルギーが共鳴して

暴走したんだろうなぁ。と。

 

そんな気がしたりしました。

 

 

パートの彼女のように、

 

相手を完全に悪者にして、

自分を被害者にすることは。

 

「弱さ」です。

 

 

けれども、

店長や美大の彼女のように、

 

その暴走するエネルギーを

コントロールしきれずに、

相手にぶつけてしまうのもまた、

「弱さ」です。

 

 

そして人は。

 

自分の置かれている環境によって、

こっちの弱さがでたり、

あっちの弱さが出たりします。

 

 

だからそこに、

「真の悪人」なんてものはいなくて。

 

ただただ。

 

人間が弱いだけなのだ。

 

・・・と。

 

私は思っているのですが。

 

 

でも同時に。

 

こういうことを考えていると、

なんとも言えず。

 

虚しいというか、

悲しい気分になったりもしますぼけー

 

 

*******

 

 

年齢的には大人であっても。

 

まだ学生であり、

社会経験も浅い美大の彼女に、

 

 

「あなたの立場だったら本来は、

店長に同調するのではなくて、

 

彼の弱さ故の攻撃から、

パートの彼女さんを

守ってあげなくてはね」

 

 

・・・なんてことは、

さすがに言えませんでした真顔

 

 

私が無責任にそんなことを

言うことで。

 

今度は店長の攻撃の矛先が

美大の彼女に向くかもしれないし。

 

彼女に。

 

そんなものを背負わせるわけには

いかない。と。

 

そう思いました。

 

 

かと言って、このままではますます、

パートの彼女は萎縮するでしょうし。

 

店長や美大の彼女のことを誤解したまま、

「彼らは悪、私は被害者」という

思い込みを更に募らせていって。

 

そういう彼女の態度が、ますます、

店長や美大の彼女をイライラさせる。

 

・・・という悪循環は、

ずっと続いていきそうで。

 

 

その悪影響が、

お店中に広がっていきそうで。

 

 

なんだかいろいろと、

こんがらがってるなぁ。

 

・・・と。

 

 

そんな風に思っていました。

 

 

*******

 

 

余談ですが、後日。

 

あるママ友とランチを

していた時に。

 

彼女に訊いてみたのです。

 

 

「美大って、

変人とオタクしかいないって

聞いたけど、ホント?」

 

・・・とニコニコ

 

 

そのママ友もまた、

美大卒だったからです。

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

・・・と、彼女はあっさり答え。

 

そして、美大生の変人ぶりを、

小一時間語ってくれましたニコニコ

 

 

つづく

 

 

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