図書館憲章と「絶歌」、そして船橋市立図書館蔵書破棄事件について | 横溝慎一郎行政書士合格ブログ  

図書館憲章と「絶歌」、そして船橋市立図書館蔵書破棄事件について

「週のまんなか水曜日」

高校生の頃、そんなフレーズが流行ったような記憶があります。
土日が休みという人であれば、たしかに「平日のまんなか」なのですが、私のようにむしろ土日に目いっぱい働いていると、水曜日は全然「まんなか」ではない(笑)。
むしろ「週末」です。

まぁともかく、そんな水曜日。

東京は真夏のような暑さに見舞われました。
というより全国的に暑かったのでしょうか。
これからしばらくこういった暑い日が続くのかと思うと、すでに心が折れかかっているのは気のせいでしょうか。

さて私も「賛同」している「立憲デモクラシーの会」が記者会見を行い、声明文を発表しました。

その内容はこちら

最近すっかり有名になった長谷部恭男氏や小林節氏をはじめ、樋口陽一氏や石川健治氏(行政書士試験の試験委員ですね)といった方々が記者会見に顔をそろえていたようです。

すでに日米ガイドラインを改定してしまった手前、国内法の成立ができませんでしたではすまないということで、政府は必死になっているのでしょうけれど、そもそも順番がおかしいことは明白です。
以前この記事でそのことを指摘しています。


それから、最近「絶歌」という本のことがよくも悪くも話題になっていますね。

元少年が起こした残虐な事件。その元少年や出版社が被害者遺族に事前に了解をとらずに書いたということで、出版の是非も取りざたされています。

一部の遺族の方がかなり強く反発していることもあり、販売を取りやめる書店もあるようです。
遺族の方が反発するのはもっともだと思いますし、書店が販売しないのは、民間企業ですからその書店の自由だと思います。

ただ、公的な機関である図書館が蔵書として取り扱うのをやめたり、研究目的でのみ貸し出しを認め、その際も館内での閲覧しか認めないうえに、コピーをとることは禁ずるといった制限をかけるのは違和感を覚えます。

また行政権の担い手である市長が「売るべきではないし買うべきでもない」といった趣旨の発言をするのは、表現の自由との関係で問題が大きいと思いますね。

特に図書館には「図書館憲章」というものがあります。
図書館の憲法といわれているもので、1954年に制定されました。

その中にはこのような一節があります。

「第1 図書館は資料収集の自由を有する

 図書館は、国民の知る自由を保障する機関として、国民のあらゆる資料要求にこたえなければならない。 図書館は、自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う。

その際、
(1) 多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。

(2) 著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない。

(3) 図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
(以下略)」


また次のような一節もあるのです。

 「第2 図書館は資料提供の自由を有する 

国民の知る自由を保障するため、すべての図書館資料は、原則として国民の自由な利用に供されるべきである。 

図書館は、正当な理由がないかぎり、ある種の資料を特別扱いしたり、資料の内容に手を加えたり、書架から撤去したり、廃棄したりはしない。 

提供の自由は、次の場合にかぎって制限されることがある。これらの制限は、極力限定して適用し、時期を経て再検討されるべきものである。

(1) 人権またはプライバシーを侵害するもの
(以下略)」


これらをみていると、蔵書として扱わないとか、貸し出しに必要以上の制限をかけるというのは、図書館憲章に反するのではないかという疑問を感ぜざるをえないのです。

ちなみに図書館の蔵書の取り扱いについては、最高裁まで争われた有名な判決がありますね。

これは、船橋市の図書館司書の方が、「新しい教科書をつくる会」や西部遵氏の著書107冊をを個人的に気に入らないという理由で破棄してしてしまったという事件です。

最高裁は、判決文の中で「独断的な評価や個人的な好みにとらわれることなく,公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務を負うものというべきであり,閲覧に供されている図書について,独断的な評価や個人的な好みによってこれを廃棄することは,図書館職員としての基本的な職務上の義務に反する」と指摘しました。

そのうえで、「
公立図書館の図書館職員である公務員が,図書の廃棄について,基本的な職務上の義務に反し,著作者又は著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって不公正な取扱いをしたときは,当該図書の著作者の上記人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上違法」となるとし、請求を棄却した高裁判決を破棄し、高裁に差し戻しました。

高裁での差し戻し判決では、すでに破棄された蔵書が司書によってすべて図書館に寄付されていることを指摘し、原告8名に計24000円の賠償を命じる判決を下しました。

船橋市が賠償したこの24000円の賠償金は、のちに船橋市から司書に求償が行われ、司書が全額船橋市に支払ったそうです。

これは国家賠償法1条2項に基づく求償ですね。

国家賠償法1条
1項 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2項 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。


この判例は、憲法や国家賠償法の勉強になる重要判例だと思います。

知らなかった人は、この機会に押さえておきましょう。

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いつもと雰囲気がちょっと違う一枚。どこがちがうかわかるかな?


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