宮尾登美子 「序の舞」 | なんとなく日記

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上村松園をモデルにした宮尾登美子の小説「序の舞」。たしかどこかのミュージアムショップの本棚で見つけて数年積読にしていました。最近の文庫はだいぶ文字が大きいものが多いですがこの中公文庫の「序の舞」は字が小さい!ページも700ページほどあったので、惹きこまれる内容ではあったものの、遅読なこともあり読み終えるまで1か月半位かかりました。

上村松園さんの絵は20代の頃に島根県松江市に住んでいた時、庭園と横山大観コレクションで有名な足立美術館の年間パスポートを持っていて週末することがなかったのでよく通っていました。庭園がよく見える喫茶室もあり、観光バスが到着した時間以外は割と空いていたので、所蔵している作品もゆっくり見て回ることができました。展示されている日本画は男性の画家のものがほとんどでしたが、その中で上村松園の絵は色合いも線も柔らかで絵がわからないなりに特に好きでした。歴史の教科書などで見かけた美人画は「当時はこういう感じを美人と思ったんだろうな。」という感じでしたが足立美術館で見た「娘深雪」は色合いも描かれた女性の姿も可憐だなと共感できました。「待月」もこういう心境で待ちたいものだ、と思うような絵でした。

 

 

上村松園の師匠の一人である(小説で知りました)竹内栖鳳の爐邊(ろべ)もこちらで展示されていました。可愛らしい2匹の犬が描かれた作品です。日本画には可愛い動物が描かれるものもあるんだなと思って眺めていました。

 

「序の舞」は上記のような人々が登場する宮尾登美子先生の小説です。登場人物は実在の人物を連想できるような架空の名前になっていますが作品については実在の作品名です。実在の人物をモデルにした小説は、集めた情報という点を作家の想像力で線をつなぐような感じなのかなと思っています。表面的には物静かな方であったとしても、あの作品を残し当時の時代背景の中で女性初の文化勲章を受賞する人物というのは、自分ではどうしようもないほど内にものすごいエネルギーを持った方だったのだろうと思います。正直、この小説の中にかっこいい男性は登場しませんが(笑)ものすごくかっこいい「おかあちゃん」が登場します。

 

今年4月に日本橋高島屋で上村松園・松篁・淳之の展覧会が開催されました。

そちらで展示されていた「花がたみ」「焔(こちらは複製画の展示でした)」は他の作品とは趣が違う作品でした。

この作品も小説の中に登場します。「花がたみ」は畳一畳位ある大きな作品です。全体は優美で美しいのに、狂気を孕んでいて目が離せなくなりました。小説がどれくらい事実と近いのかは置いておいて、これらのような絵を描くに至った気持ちがあったのだろうなと思います。きっと描くのにすごい熱量が必要だろうからその時の気持ちにそぐわないと力が出ないもんなのではなかろうかと勝手に思います。

 

(写りが悪いですが展覧会で買った花がたみの絵葉書)

もちろん小説なので史実ではないとしても、これまで絵と随筆を少し読んだことがあるだけだったので周りの人間関係や環境、生涯のどの時点で、どんな流れで作品が描かれたのかの全体像を以前よりも知ることで作品への親しみが増えたなと思います。字の大きさとページ数で「読めるんかな、自分?」と思ったけど小説の世界に入って楽しめました。