「渓太郎は赤ちゃんだったから、まだおしゃべりをすることができなかったの」
それは、私が十数年間言い続けたウソ。
―――その日、渓太郎が必死に口を動かしてしゃべった「人生最初で最後のひと言」はあまりにも切なく、私の心の奥深くまでえぐった。
「イタイ・・・」
とっさに渓太郎を抱きしめた私は、(最初に話す言葉が「痛い」だなんて・・・。そんな・・・)と湧き上がる気持ちをすり替えるように自分に言い聞かせた。
「ちがう!渓太郎は、まだしゃべれないの!そんなこと言ってない!」と。
だって、渓太郎が最初に発する言葉は、「ママ」とか「パパ」とか「おとうさん」、「おかあさん」のはずだったのだから。
しかしそのときベッドの隣には、お見舞いに来ていた母がいた。
「ねえ、美幸・・・。今、けいちゃん、『痛い』って言ったよね・・・」
「・・・あ、かも」
現実逃避を邪魔されないため、わざとうわの空のような返事をする私に、母は追い打ちをかけた。
「『痛い』って言ったよ。ねえ、今、痛いって言ったよ・・・」
「うるさい!そんなこと、わかってる!!」
母の口を封じるために、語気を強めるしかなかった。
この時から十数年、私は自分にも人にもウソをつき続けた。
―――「渓太郎は赤ちゃんだったから、まだおしゃべりをすることができなかったの」
25年経った現在では、ようやく本当のことを話せるようにはなったけれど、それでも今、あの時のことを書いているだけで胸がヒリヒリと痛み、わずかながら呼吸が荒くなっているのがわかる。
そんな、渓太郎人生最初で最後の言葉「イタイ」が、たった一度だけ、私の心をそっと救い上げてくれた瞬間があった。
「渓ちゃん、もう痛くないね」
「痛くなくなって、よかったね・・・」
それは、渓太郎旅立ちの直後。
「イタイ」からの解放の瞬間。
イタイことなく、笑っていてほしいのです。これまでも、これからも・・・。
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