「やめておこうよ。
お別れするとき悲しいから・・・」
今から何十年も前。
犬を飼いたいと言った幼い私に
母が言った。
(そうか・・・)
小さいながらに納得した私は
犬を飼うことなく大人になった。
それから何十年も時が流れ・・・
私のムスメが小学1年生になったとき。
「お母さん、犬飼いたい!」
当時の私と同じことを言いだした。
「お別れするとき悲しいから、やめておこうよ。」
自分が言われたことと同じことを言う私。
「やだ!
かわいから犬、飼いたい!」
「かわいいから、お別れの時悲しくなるの!!」
つい口調が強くなった私の心の奥に写った
渓太郎の姿・・・。
次の瞬間、チクッと胸が痛んだ。
(じゃあ、私は
渓太郎と出会わなければよかったのか・・・。)
ちがう・・・。
渓太郎が生まれた時の
言葉にできないほどの喜びや、
一緒に過ごした幸せな日々・・・
それは
別れた辛さよりずっと尊い。
「ココちゃん。
犬、飼おうか!」
それからまもなくして、
我が家にキラがやってきた。
「キラちゃん、かわいいね~!」
日に日に可愛くなっていくキラ。
「いなくなったらどれほど悲しいのだろう・・・。」
あまりのかわいさにそう思わずにはいられない。
だけど・・・
だからこそ・・・
一緒にいられる今がどれほど尊い時間なのか・・・
別れの悲しみから逃げることより
出会えた奇跡に感謝したい。
私は
渓太郎を失ったのではない。
私は渓太郎に出会えたのだ。