「 いのち ってなに?」


私はいまだに

うまく答えることができない。



でも渓太郎は

なにもしゃべらずに

答えを示す。






渓太郎が天国に旅立ってから

4年がたったある日。




我が家に届いた

子ども病院からの手紙。




封を開けてみると・・・




子ども病院創立10周年祭に併せて


慰霊祭が行われるとのこと。





(そうだ。 せっかくの機会だから


ココ(娘)とタロウ(息子)も 連れて行こう。)






「ココちゃん。


今度ね、お兄ちゃんが入院していた病院で


慰霊祭っていう行事があるんだって。


一緒に行く?」







「お兄ちゃんの病院?


ココちゃん、いく! いく~!」







ココとタロウ・・・



渓太郎には一度もあったことがない。









入院中、大きくなった私のお腹に

何度も渓太郎の手を当てた。


「渓ちゃん、あともう少しで妹に会えるよ。」




でも渓太郎は

ココの誕生を待たずに旅立った。









それでもココは渓太郎のことを


「お兄ちゃん」


と呼び


「お兄ちゃん、かわいいね~」


と言っては


写真の中の渓太郎をなでる。






4歳のココと 2歳のタロウ

そして

1歳のお兄ちゃん。





(ココは、渓太郎のことを


どう思っているんだろう・・・。)




そんな疑問が

ずっと

頭から離れなかった。









慰霊祭当日の朝。





ココはタンスの中から

一番お気に入りのワンピースを引っ張り出した。




「このスカートはいてく~!」


朝からごきげんのココ。




病院までの長い道のりも、

眠ることなくはしゃぎ続けた。








病院につくと、慰霊祭会場の

中庭に向かった。



玄関を抜け


受付を通り過ぎ


ガラス張りの中庭が見えたとたん・・・






「あっ・・・」






目の前に広がる



満開の桜・・・。





慰霊祭 





花びらの

一枚一枚には

天使になった子どもたちの名前・・・。




私はあわてて渓太郎の名前を探した。





200枚以上ある花びらの中から・・・




「あった! 渓ちゃんのお名前・・・。」






「わーい。わーい。 


おにいちゃんのおなまえ!」






渓太郎の名前を指差しながら、


視線を桜の木の先に向けた。





向こうにみえる


腫瘍科病棟・・・。






「ねえ、ココちゃん。


お兄ちゃんが入院していたお部屋、見に行く?」





「うん。 いく!」






私はココの手を引き、

中庭を出て腫瘍科病棟に向かった。






病棟の前に着くと、

トビラの前で

小さなココを抱き上げた。




病棟の中へは

入ることができない。




トビラの真ん中にはめられているガラスのところから

二人で病棟の中をのぞいた。





「お兄ちゃんね。


ずっと向こうにある右側のお部屋に


いたんだよ。」




病棟の中を指差した。





すると・・・





それまでおとなしくしていたココが

急に叫びだした。








「ねえ、降ろして!!!



降ろして、おかあさん!!!



ココちゃん、おにいちゃんに会ってくる!」









足をバタバタと動かして

私の腕の中から飛び出そうとするココ。







「ココちゃん・・・ごめん・・・。



おにいちゃん、いないんだよ。



あそこに行っても


お兄ちゃん


いないんだよ。」








「やだ!


ココちゃん、おにいちゃんに会いたい!!!



おかあさん、あっち!



あっち!!!」






小さな手で、トビラを何度も叩くココ。









私もがまんの限界だった。






「おかあさんだって・・・会いたいよ・・・。




だけど、死んじゃうと・・・



もう会えないんだよ・・・。」








ココはあわてて


私にしがみついた。






そして、しばらくすると





私の耳元で小さくささやいた。








「おかあさん。 おにわ、いこ。」









ココはもう


さっきみたいに


はしゃいだり、ピースをしたりしなかった。







ただ、なにもいわずに



じっと桜を見上げた4歳のココ。









それは・・・







渓太郎が



はじめて妹に教えた



いのちの存在。







兄から妹に渡された



いのちの重み。