私が送っている当たり前の日常は

ある人にとっては、

夢のような世界なのかもしれない






夕飯の材料を買いに

スーパーへ行った時のこと。



自動ドアから店の中に入ると、



私のあとから

3歳くらいの男の子を抱っこした

若いお母さんが入ってきた。



そのお母さんは

自動ドアの脇にあったカートに



「よいこらしょ!」



と、男の子を乗せると

ふたりはそのまま目の前にある

野菜コーナーへ・・・。





自動ドア脇にあったカゴを

ひじから下げた私は

店の奥にあるお魚コーナーへ・・・。



(ぶり・・・。 ん~、タラ。 それとも・・・)


魚選びをしていると、

ふと、息子に頼まれた買い物を思い出した。





「今日買い物に行ったら、

塩味のポップコーン買ってきてね!」






(そうだ、そうだ! 買い忘れる前に・・・)




魚選びを後回しにして、

まずはお菓子コーナーへ。






すると



駄菓子の陳列だなのあたりに

男の子の乗ったカートを発見!




(あ! さっきの親子だ。)



横を通り過ぎようとしたら聞こえてきた。





「買って! 買ってえ~! おかし~!」




男の子はカートの上で

両足をバッタン、バッタン。






しばらくすると、今度は




「降りる~!おりるう~!」




カートを降りると泣き出した。





たまらず若いお母さんは

クルッとカートを回転させて、

お惣菜コーナーへ・・・。





(ふふふっ♡)




気がつくと

ニコニコしながら親子を見ている

自分がいた。







それは私が


ずっと夢に描いていた親子の姿。






「いつか、渓太郎をカートに乗せて買い物がしてみたい・・・」





渓太郎との闘病中、

ずっと胸の中にしまっておいた私の夢。




でも



どうやっても手の届かなかった




大きな、大きな夢。










私は今、



毎日当たり前に食事をとって


お風呂に入る。




トイレにだって自由に行ける。



スーパーに行ったり


時には、コンビニでお菓子を買ったりする。




そして・・・




なんの心配をすることもなく



朝を迎える。









その、すべてが夢だった。





「息をしているかな・・・」




からはじまる朝を迎えていた

当時の私にとって・・・。