純白の花嫁衣裳を身に纏ったフランソワーズを、
親友のカトリーヌがうっとりとした表情で見つめながら言った。
パリのとある教会の控え室で、フランソワーズはその時を待ちわびていた。
鏡に映った自分の姿を見つめ、フランソワーズはふとあの日の出来事を思い起こした。
それは2ヶ月前のとある日の事…。
モナコGPを終えたジョーがギルモア邸に戻って来た時だ。
その日の昼過ぎ、フランソワーズはいつものようにイワンにミルクを作り、冷ましていた所だった。
丁度その時、姿を現したジョーは両手いっぱいに薔薇の花束を抱えていた。
その場に居合わせていたギルモアはもちろん、
グレート、そしてアルベルトは驚きを隠せない様子でジョーを見守っていた。
そして、ミルクを冷ましてリビングに戻って来たフランソワーズは、ジョーの姿を見た瞬間、
あまりの驚きで声を失い、その場に立ち尽くしてしまった。
二人の様子を見守り、察知したギルモアは、優しく微笑みながらフランソワーズに近寄ると
黙ったまま彼女の手にしていた哺乳瓶を取った。
「 さあ、フランソワーズ…」
ギルモアはそっとフランソワーズの背中を押す…。
「 ギルモア博士…。」
少し戸惑いながら、フランソワーズはギルモアの顔を見つめた。
そんな彼女に、ギルモアは尚も優しい笑みを浮かべていた。
そして…。
ギルモア達の見守る中、ジョーはフランソワーズに、薔薇の花束を差し出した。
それは永遠の愛…を意味する99本の薔薇の花束…。
「 フランソワーズ…。僕と結婚してくれるね…?
」
思いもよらないジョーの求婚の言葉に、フランソワーズは言葉を詰まらせた。
目蓋から涙が零れ落ち、頬を伝う…。
フランソワーズは黙ったまま頷き、ジョーから
薔薇の花束を受け取った。
その瞬間、二人を見守っていた仲間達から歓声が上がる。
「 ジョー、そしてフランソワーズ!遂にこの日が訪れたっていう訳だ。
これで一安心ですな、ギルモア博士…」
グレートはギルモアに視線を移す。
ギルモアはイワンにミルクを飲ませながらも、ジョーとフランソワーズの二人を優しい眼差しで見守っている。
その瞳には涙が光っていた。
他の誰よりも、二人の幸せを願っていたのは他でもない、ギルモアだった。
(ギルモア博士…)
あの日のギルモアの涙を、フランソワーズはふと思い浮かべた。それを思い出した瞬間、彼女は胸が熱くなるのを覚えた。
ギルモアはフランソワーズにとって、やはり父親の様な存在であった。
誰よりも幸せを願ってくれ、そしてジョーとの結婚を心から喜んでくれたのだ。 フランソワーズはそれが何よりも嬉しかった。
彼女がそんな想いを馳せていた時だ。
「 フランソワーズ…入ってもいいかね?」
ドアの向こうからギルモアの呼ぶ声がした。
続く…