美夕の徒然日記。

美夕の徒然日記。

鬼滅の刃最高!
炭治郎大好き!




夜の帳が、パリの街を包む…。
街灯が灯されたアレクサンドル三世橋には恋人達が寄り添い、幸せそうに語らっていた。
そんな彼等とは対照的に、ジョーとフランソワーズの二人は決して幸せそうではなく、重たい沈黙が二人を包んでいた。
フランソワーズは黙ったまま、灯りが映るセーヌ川を見つめていた。
唇を噛み締め、何かを必死に堪えていた。
ジョーとの再会…。
それはずっと心の何処かで彼女が思い描いていたものだった。
けれども、それは叶うまいと、そう諦めていた。
それだけに、このジョーを舞台の上から見つけた時、フランソワーズの心は躍った。だが、開口一番に聞かされたジョーの言葉に、フランソワーズは言葉を失い、愕然とした。そして、この再会は幸せなものではないと、思い知らされる…。

「 もう一度言う…。フランソワーズ、新たな敵…ネオブラックゴーストと戦う為に、一緒に来て欲しい。」

フランソワーズの後ろ姿をじっと見つめながら、そう声を掛ける。
ゼロゼロナンバーサイボーグのリーダーとしての責務とは言え、幸せに暮らしているフランソワーズにそう伝えるのはジョーにとっても辛いことであった。
出来ることならば、フランソワーズにはバレリーナとしていつまでも幸せに暮らして欲しいと思っていた。
けれども、やはりどうしてもゼロゼロナンバーサイボーグのリーダーとしての責務は遂行しなければならないのだと、ジョーは自分に言い聞かせた。
  ジョーの言葉を背中で聞いていたフランソワーズは大きなため息を吐いた。
そして、自分に課せられた運命を改めて思い起こし
胸が痛むのを覚えた。

「 いつか、こうなる日が訪れると、そう思っていた。そう思いつつも、平和で穏やかな日々が続くことを信じていた。
いつまでも…踊っていたいと、心から願っていた。
出来ることならば、二度と戦火の中に身を投じたくはなかった。」

どうしても避けられない運命なのだと、フランソワーズは改めて悟っていた。
悟りながらも、やはり今の生活を壊したくない…
やっと手に入れたエトワールの座を…バレエを失いたくはなかった。
できることなら、このままずっと、この街で生きていきたいと思った。
 けれども、その反面、密かに想いを寄せるジョーの傍に居たいと、そう思った。
再び戦火に身を投じることになっても、ジョーと共に居られれば、どんなに辛いことも乗り越えて行けると、そう思った。

「 ジョー…。あなたの姿を、舞台の上から見つけた時、どれほど嬉しいと思ったか知れない…。
最後の戦いから、何年経ったかしら…。
その間、あなたは決してパリに、あたしに逢いに来てくれようとはしなかった。
それでわたしは思ったの…。
再び戦いの日々が訪れない限り、わたし達は決して逢う事はないのだと…。
それでも心の何処かでは、あなたがいつか逢いに来てくれるって、そう思っていたわ。」

 フランソワーズはそう、自分の想いを吐露した。
それは紛れもなく、素直な気持ちだったのだ。
  そんな彼女の気持ちを受け止めたいと、ジョーは思った。だが、彼は敢えて非常に振舞おうとした。
そうすることで、自分の感情を抑えようとしたのだ。
今は、リーダーとして責務を果たさねばならないのだと、ジョーは自分に言い聞かせた。

「 フランソワーズ。今の舞台が終わるまで、僕はこのパリに留まる。
君が一緒に来てくれる事を信じている…。」

 フランソワーズの後ろ姿を見つめまま、ジョーはそう言葉を掛けると、その場を静かに立ち去って行った。
  
「 ジョー…!」

慌ててフランソワーズは振り返ると、そう彼の名を呼んだ。
けれども、彼女の声は届かなかった。
 フランソワーズはしばらくの間、その場に立ち尽くし、次第に遠ざかって行くジョーの後ろ姿を見つめていた。
じっと見つめる彼女の脳裡に遠く過ぎ去ったあの日が走馬灯のように蘇っていた。
戦火の中で共に戦い、その中で少しづつ心を通わせたあの日…。
ジョーはいつも戦火の中で身を呈して庇ってくれていた。
そうする中でいつしか彼に心を惹かれて行ったのだ。
その想いは1度も口にはしたことはなかった。
けれど、ただ、彼の傍に居るだけでそれだけで良いと思っていた。
どんなに辛い戦いも、ジョーと一緒ならば乗り越えて行けると、そう思っていた。

 「 ジョー…。どれほどあなたに会いたかったか…。」

思わぬジョーとの再会…。どれほど幸せだと思ったことか知れない。
どんな形でもジョーとの再会は嬉しかった。
だけども、フランソワーズの心は重たかった。
胸は締め付けられ、今にも泣き出しそうになっていた。
 任務の為にこのパリを訪れ、逢いに来た事がやはり辛かった。
そして改めて思う…。
戦火の中でしか心を通わすことが出来ないのだと…。


続く…





 オデット姫は花を摘むことに夢中だった。

しかし、彼女は背後に忍び寄る黒い影に気づく…。

 オデットに忍び寄る黒い影…。それは悪魔ロットバルトだったのだ。

 たちまち、オデットはロットバルトの呪いで白鳥の姿に変えられてしまう…。


   舞台上の白鳥の姿のオデットに、観客達は皆固唾を呑んで見守った。そのあまりにも儚く美しい姿は観る者の心を掴んだ。

そしてジョーもまた、心を奪われていた。

 舞台の上のフランソワーズは、戦場を駆け抜けていた時の面影はなかった。

  舞台上のフランソワーズを見守るように見つめるジョーは心の中で思った。そしてこう自問自答した。

( 自分はフランソワーズから踊る事を奪ってしまうのかも知れない。果たして本当にそれで良いのだろうか?)

 出来る事ならば、このままずっとフランソワーズにはバレリーナとして舞台の上で美しく踊って欲しいと言う思いと、ゼロゼロナンバーのリーダーとしての使命を果たさねばならないと言う思いが、ジョーの胸の中で複雑に入り交じっていた。

 そんな時、ジョーはギルモアの言葉を思い起こし、ハッと我に返った。

 ( フランソワーズを説得しなければ…。)

そうジョーは自分に言い聞かせた。

 

そして一方、フランソワーズは、プロローグの出番を終え、急いで舞台裏へと戻ると、次の出番に備え

楽屋まで急いで向かって行った。

そうしながらも彼女は心臓の高鳴りを抑えられずに居たのだ。

踊る事にに集中していたものの、彼女の瞳にジョーの姿が飛び込んで来たからだ。

一瞬、フランソワーズは我が目を疑った。

もしかしたら、幻ではないだろうか?

けれども、それが幻でないことを悟った時、彼女は動揺しそうになった。


楽屋に戻るとフランソワーズは鏡の前に座り、大きく深呼吸をし、鏡に映る自分を見つめた。

それでもどうしても胸の高まりを抑える事が出来ない…。

( ジョー…どうして ここに…)

 ジョーとはもう何年も逢っていない。

そう…。

最後の敵との戦いを終えて、フランソワーズもまた生まれ故郷であるパリに戻り、再びバレエに打ち込む日々を送り始めた。

その日々の中で、いつしか戦いの事を忘れ、辛い思い出も次第に忘れて行った。

忘れなければならないのだと、そう彼女は自分に言い聞かせてたのだ。

けれども時折、脳裡にジョーと過ごした日々が蘇る事があった。

戦火の中で共に戦い、時には身を呈して庇い、守ってくれた。

温かい眼差しを向けてくれたジョーに、フランソワーズはいつしか心を惹かれていく自分に気付かされ、胸を熱くしたことも…。

もし、ジョーも同じ想いであったらと、淡い想いを抱いた事もあった。

けれどもジョーの自分に対する優しさは、仲間として当然の事なのだと、フランソワーズは自分に言い聞かせて来たのだ。

 あれからずっとジョーへの想いを断ち切ろうと、バレエに打ち込み、血の滲むような努力を重ね、漸く念願だったエトワールの座を手に入れ、フランソワーズは舞台に立った。

いつしかジョーの事を忘れる事が出来た矢先の出来事だった。

観客席にジョーの姿を見つけた時、フランソワーズの心は大きく揺れ動いた。

そして、忘れかけていた淡い想いが彼女の心に蘇って来た…。

 

( 落ち着くのよ、フランソワーズ。今は舞台に集中しなければいけないのよ。)

 

  揺れ動く気持ちを抑える様に、フランソワーズはそう自分に言い聞かせた。

兎に角今は、舞台に集中しなければいけないのだと。

もう一度、大きく深呼吸をすると、フランソワーズは化粧をし直し始めた…。






 その日の舞台は大成功を納めた。

何度かのカーテンコールに応えるフランソワーズは

客席からの拍手喝采を浴びながら、幸福と喜びを噛み締めていた。

いつまでも、この幸せな時間が続けば良いのにと、

フランソワーズは心から願わずには居られなかった。


 舞台を終え、フランソワーズは急いで楽屋に向かった。

多分、きっとジョーはこのオペラ座の中か、若しくは外で待っている筈だと、フランソワーズは思った。

一体、彼は何の用でこのパリに来たのか、フランソワーズには分からなかった。

もしかしたらジョーは、この自分を呼びに来たのかも知れない…。

そう。再び、サイボーグ戦士として戦う為に…。

 そんな一抹の不安が、フランソワーズの心を包んだ。

 そんな思いを巡らせ、楽屋に戻ると、後ろから親友が慌ててフランソワーズを呼び止めた。

「 あっ!フランソワーズ!あなたにどうしても会いたいっていう人がいるのよ!」


親友にそう声を掛けられ、フランソワーズはその場に立ち止まると、驚いた表情で後ろを振り返った。


「 シモーヌ、その人って一体…。」

  

 そう尋ねながら、 フランソワーズは次第に鼓動が高鳴るのを感じていた。もしかしたら…と言う思いがフランソワーズの心の中に溢れていた。


「 とにかく、フランソワーズ、急いで支度をしなさいよ!彼、大階段の下で待っているそうよ!」


親友にそう急かされる形で、フランソワーズは急いで楽屋に戻ると急いで衣装を脱ぎ、身支度を整え始めた。

 化粧し直す手が、心做しか震えていた。

自分にどうしても逢いたいと言う人物は、ジョーなのだろうか。

もし、彼ならは、どんな話を持ちかけて来るのだろう。

ジョーに逢いたいと言う気持ちと、もしも自分にとって辛いことになるかも知れないという、不安と期待が、フランソワーズの心の中で広がっていった。




 

身支度を整え終わると、フランソワーズは逸る気持ちを抑えながら、急いで大階段の方へと向かった。

  階段を降りる途中、フランソワーズは階下で待つジョーの姿を見出すと、一瞬、その場に立ち尽くしてしまった。


「 ジョー…。」


階下には、そう…

ジョーが待っていた。

 ジョーもまた、フランソワーズの姿に気づくと、彼女の方に黙ったまま、視線を注いだ。

 数年振りの二人の再会だった…。



続く…




 














 



  








   





 









嫌な役目だと、あらためてジョーは思い知らされた。
脳裡にギルモアの言葉が蘇っていた。

…フランソワーズを連れて帰れるのは、ジョー、お前だけだ…


そう言葉を発したギルモアの表情は厳しくかったが、苦渋に満ちていた。
 平和に暮らしているだろう、サイボーグ戦士たち…。
フランソワーズもまた、パリに戻り、パリ・オペラ座バレエのエトワールとして平穏な日々を送っていることを、ギルモアは知っていた。
だからこそ、再び戦いの渦の中に身を投じさせることに、ギルモアは迷い、苦しんでいたのだ。
  それでも、ギルモアは苦渋の決断を下し、ジョーにフランソワーズを呼び戻す任務を遂行させようとした。

( ギルモア博士…。その役目は僕には荷が重すぎます
…。)

ゼロゼロナンバーサイボーグのリーダーとしての責務を全うしなければならないという思いと、戦いを忘れ、バレエに生きるフランソワーズを再び戦いの渦に巻き込む事は出来ないという思い…。
  ジョーの心の中で葛藤が生まれ、彼自身もギルモアと同じく、苦しんでいたのだ。

  様々な思いを巡らせながら、ジョーはパリ・オペラ座の前まで来ると、はっと我に返り、足を止めた。
そして既に人だかりが出来ている光景を目の当たりにした時、ジョーはあらためてパリ・オペラ座バレエがどれほど人々の注目と人気を集めているのか思い知らされた。そして、フランソワーズがパリ・オペラ座バレエの頂点に立つエトワールという事も…。
  
(フランソワーズ…)

ふと、ジョーの脳裡に、フランソワーズの姿が浮かんだ。
その瞬間、ジョーは胸が締め付けられるのを覚えた。
 脳裡に浮かんだその姿はあまりにも美しかった。
 共に戦場を駆け抜け、いつしか互いに惹かれ合い、
仲間以上の感情を抱きつつも、1度も口にしたことはなかった。
 時が経つにつれて、ジョーのフランソワーズへの想いは強くなっていき、彼女に逢いたいと思うようになっていた。けれども、フランソワーズの目の前に現れることにより、彼女に辛い過去を思い出させたくない…そんな想いがジョーにあった。
それゆえに、敢えてジョーはフランソワーズに会おうとはしなかったのだ。

  パリ・オペラ座の中に入ると、ジョーは思わず足を止めると、大階段を見上げた。
その荘厳で華麗な美しさに、声を失いそうになった。


 その美しさに目を奪われながら、ジョーはゆっくりと階段を上り始める。
 やがて、上り終え、ジョーは観客席近くのバルコニーに佇み、階下に視線を移した。
 今夜の公演を心待ちにしているであろう、大勢の客達を静観しながら、ジョーは心に迷いが生じていることに気付かされた。
  自分は、フランソワーズから再び踊ることを奪い、幸せを奪おうとしている…。
果たしてそんな権利があるのだろうか…。
そう迷いながらも、ゼロゼロナンバーサイボーグのリーダーとしての責務があるのだと、ジョーは心を鬼にして、その迷いを掻き消さねばならないのだと、
自分に言い聞かせた。

  そして…。


いよいよ開幕時間が迫ってきた。
ジョーはその場を離れると、観客席へと向かって行く…。
目の前でフランソワーズの舞う姿を見てしまったら、もしかすると躊躇してしまうかも知れない。
そんな思いがジョーの心の片隅にまだ残っていた。
任務を遂行するには、あまりにも酷だと、ジョーはふふ…と苦笑いを浮かべる。
わざわざ、今夜の公演のチケットを手配し、フランソワーズの舞台を観るようにと、ジョーに声を掛けたギルモア…。
それは酷なことでもあった。しかし、恐らくそれがフランソワーズにとって最後の舞台になるやも知れぬ…だからこそ、見届けて欲しいと言う、せめてものギルモアの気持ちであろうと、ジョーは思う。

(…ギルモア博士。貴方のお気持ちは分かります。けれども、それは僕にとって、あまりにも酷です…)


そう心の中で呟きながら、観客席へと向かうジョー…。


 


  ジョーは2階の桟敷席に腰を下ろすと、大きくため息を吐いた。
今のジョーの瞳にはこの華麗な場所も虚しく映った。
開幕を前に、ジョーの心は大きく乱れ始めた。
舞台の上のフランソワーズを目の当たりにしたら、
決意が鈍ってしまうかも知れない…。
複雑な思いがジョーの心の中で交錯した。

  そんなジョーの思いを残したまま、開幕を告げる鐘が観客席に鳴り響いた。
その瞬間、固唾を呑んで舞台に視線を注いだ。
照明が落とされ、やがてオーケストラピットに指揮者が姿を現すと、一斉に拍手が鳴り響いた。
そして、静かに前奏が奏で始められると、舞台の上に美しい乙女が姿を現した。
それは、まだ人間の姿をした、オデット姫だった。
彼女は、森の中で1人、花を摘んでいた。
自分に降りかかる運命を知らずに…。
  
( フランソワーズ…)

舞台の上のフランソワーズを、ジョーはじっと見つめていた。
数年ぶりに見る彼女の姿は、あまりにも美しかった。
彼女のその美しい姿を目の当たりにした時、ジョーは心の中で、固めていた決意が崩れそうになるのを覚え、戸惑いさえ感じずには居られなかった…。


続く…