美夕の徒然日記。 -2ページ目

美夕の徒然日記。

鬼滅の刃最高!
炭治郎大好き!

三味線の手を止めると、琴は庭の方へ視線を注いだ。  
 
丁度 梅の花が見頃を迎え、梅の香りが庭じゅうに立ち込めていた。
  
梅の花をじっと見つめながら、琴は時折ため息を吐く
そうしながら、彼女はふと歳三の事を思い起こした。
  
琴にとって、歳三との思い出は甘くも切ないものだった。
初めて出会ったのはいつの頃だったろうか
あれは確か、歳三の長兄である為次郎が三味線屋を尋ねて来たのが始まりだった。
  
元々為次郎は、長唄を好み、三味線を嗜んでいた。
 
そのため、琴の父が営む三味線屋に出入りしてからというもの、調律や修理一切を依頼する様になった。
  
そんな為次郎が琴を知ったのは、たまたま、
琴が父親の代わりに店番をしていた時だった。
 
店を訪ね来た時、琴の奏でる三味線と、長唄を聴いた為次郎は、たちまち彼女に惚れ込んてしまった。依頼、為次郎は時々、琴を土方家に招き入れ、彼女の三味線を楽しんだ。
  
琴が歳三と出会ったのもこの頃だ。
石田散薬の行商から帰って来た歳三は、為次郎の部屋から艶やな三味線の音色と、その音色に合わせて唄う、美しい声に、しばらく立ち止まったまま、聴き惚れてしまったのだ。
一体誰が弾いているんだろう。』

歳三は誰が弾いているのか、そして声の主が気になり始めた。
 
そして、その三味線の音色が止まると同時に、
部屋の中から為次郎の声が

歳三、そんな所で突っ立ってないで、中に入ったらどうなんだ?』


 
目の不自由な分だけ耳の感覚は人並み以上の為次郎だった。
歳三が外にいることなど、お見通しだった。
  
歳三ははっと我に返り、少し気まずいと思いながらも、渋々と為次郎の部屋に入って行った。
そして歳三はそこで初めて琴を知ることになる。
  
仏頂面をしながら歳三は琴を見つめた。
聞く所に拠ると、琴はまだ16だと言う。けれども、まだ幼さの残るこの少女の三味線の腕前が余りに見事だった。
 
それが歳三には少し気に食わなかった。何故なら、歳三もまた、この為次郎の影響で三味線を少しだけだが嗜むようになっていたのだ。
自分では三味線の腕は一人前のつもりだった。
しかし、目の前に居る少女の三味線の腕前を目の当たりにして、歳三は自惚れていたことを痛いほど思い知る。
だから尚更、気に食わなかったのだ。
  
それ以来、歳三はなるべく琴には関わらないと決めた。琴の三味線の腕前を認めたくなかったからだ。
  
しかし、どうしても琴の奏でる三味線の音色に
耳を傾けてしまう。
次第に心を惹かれて行く、そんな自分を認めたくもなかった。

  そんな歳三の様子を感じていた為次郎は、歳三と琴の縁談まで考える様になった。
そして、歳三の知らぬところで、縁談は進んで行った。
 
いよいよ、祝言を目前にしたある日。
自分の知らぬところで、琴との縁談が進んでいた事を知った歳三は、この縁談を断った。
自分には武士になると言う大志があるから、
それまでしばらく放って置いて欲しい
  
そこまで言われてしまっては無理強いする訳にも行かず、結局、琴は許嫁という形になってしまった。
  
彼女は何度か歳三に逢ううちに、次第に歳三に心を惹かれる様になっていったのだ。
けれども許嫁と言う形になってしまい、少し落胆してしまう。
  
そして

歳三は武士になる夢を叶えるために、京へと上ってしまった。
それが歳三と琴との別れだった。
  
 
あれから何年経つのだろう。
新選組の副長としての噂は何度か耳にしていた。
そして鳥羽伏見の戦いに敗れ、京を離れた歳三達が甲陽鎮撫隊という新しい組織を率いていることも。
 
だがしかし
それ以上の事は何一つ分からなかった。噂も何も伝わっては来なかった。

  歳三さん。」

琴がそう、小さな声で呟いた時だった。

 琴、居るかい?お前にどうしても来て欲しいと言う人が居てね。」

 縁側に座っている琴に、父親の月廼屋仲助が声を掛けた。

お父様、一体どなたですか?」

琴のその問いに、仲助はにこりと笑った。

 佐藤家のおのぶ様だよ。宴があるとかで、
どうしても、お前の三味線と唄を演奏して欲しいそうだ。」


  
佐藤家のおのぶ
彦五郎に嫁いだ、歳三の姉だった。
おのぶの依頼なら断る理由はなかった。
  
琴は黙ったまま頷いた。

分かりました。急いで支度をします。」

そう答えると、琴は手にしていた三味線を絹の袋に丁寧に入れると、身支度を始めた。 鏡に向かい、髪を整えた。
 
それを終えるとゆっくりと立ち上がる。

お父様。行ってまいります。」

大事そうに三味線を抱え、琴は部屋を出た。
 
  
  
佐藤家のある日野宿に向かい甲州街道を、琴は足早に歩き続けた。
 
時折、琴は大きなため息を吐く。
脳裡にふと歳三の面影が浮かんでは消えていった。
 
馬鹿ね。歳三さんはもうあたしのことなど忘れてしまったに違いないのに。」

そう自分に言い聞かせる様に、琴はそっと呟いた。
思えば淡くも切ない初恋だった。忘れようとしても、どうしても忘れる事が出来なかった。
  
そんな思いを巡らせながら、琴は日野宿へ向かう足を急がせるのだった。




舞台を終えたフランソワーズは急いで楽屋口を出た。

オペラ座の大階段でジョーと待ち合わせをしていた彼女は逸る心を抑えつつも、胸の鼓動はどうしても抑えられなかった。

 一旦外へ出たフランソワーズは、パリ・オペラ座の表側に向かう。

丁度、入口のドア付近に差し掛かった時だった。


「 フランソワーズ!もう一人で楽屋を慌てて出たと思ったら、こんな所に…!」


 不意に後ろからそう声を掛けられ、思わずフランソワーズは立ち止まると、後ろを振り返った。

 そこに居たのは、シモーヌとルイーズの二人だった。


「 シモーヌ。それにルイーズ…。」


大階段に向かう所を友人達に見られてしまい、フランソワーズは少し戸惑い、苦笑いを浮かべ、友人達を見つめた。

 そんなフランソワーズに構わず、シモーヌとルイーズはニコニコ笑いながら、フランソワーズを見つめている。


「 フランソワーズ、その慌てようは、もしかしたら、ジョー島村に会うのね。」


「 あなた達に嘘はつけないわ。

そうよ。大階段でジョーと待ち合わせの約束をしているの。」


 そう答えるフランソワーズは幸せそうに微笑んだ。


「 フランソワーズ、ほんとにもう!嬉しそうじゃない?」


ルイーズはニコニコしながら、フランソワーズを揶揄った。


「 お邪魔かも知れないけど、このまま、あなたと一緒に大階段に行くわ。彼が来たら、紹介してね!」


そんな事を言いながら、シモーヌはフランソワーズの背中を押した。

 

  シモーヌに背中を押される様にフランソワーズはテラスを目指し、大階段を上り始めた。

やがて階段を上り切ると、フランソワーズはジョーと落ち合う約束をしているテラスまで歩いて行こうとした時だ。


「 よぉ!フランソワーズ!」


そう、声を掛けて来たのはジェットだった。

彼は前の方からゆっくりとフランソワーズの方へ歩み寄って来る。


「 ジェット!どうしてここに?」


「  俺はひどく、この建物が気に入ってしまってな。それで見物と洒落こんでいたのさ。

それより、フランソワーズの方こそ、どうしてここに?」


 ジェットは少しニヤっと笑い、フランソワーズを見た。

 ドレスアップしているフランソワーズの姿を眩しそうにジェットは見つめつつも、そんな彼女の様子にただ事じゃないと、そう彼は気づいたのだ。

 ジェットにそう尋ねられると、フランソワーズは頬を紅く染め、少しはにかみながらこう答えた。


「 ジョーとテラスで落ち合う約束をしているのよ。」


はにかんだ笑顔のフランソワーズは何処と無く、幸せそうで、ジェットはその笑顔を見た瞬間、自分の入る隙間などないのだと、そうはっきりと悟った。

少し寂しい気もしたが、フランソワーズさえ幸せならば、それでいいのだと、ジェットは自分に言い聞かせた。


「 そうだったのか…。

それにしても、ジョーのやつ、今日は舞台を観に来ていなかったみたいだな。」


「 今日は、何か大事な用があるって言ってたわ。

それでわたしの舞台が終わったら、この大階段で待ち合わせしようって、そう連絡があったのよ。」


フランソワーズがそう答えると、ジェットは少し怪訝そうな表情を浮かべた。


「 このパリに大事な用って一体…。だいたい、フランソワーズの舞台の他に大事な用?

…ったくジョーは何をしようとしているんだ。」


ため息混じりにジェットはそう言った。

 そんなフランソワーズとジェットのやり取りを、フランソワーズの傍らで見守っていたシモーヌとルイーズの二人は少し驚いた様子だった。

あまりにも親しげに話していたからだ。


「 ねえ!フランソワーズ。彼、ジェットでしょう?

ジェットととも、知り合いなの?」


 シモーヌは、そうフランソワーズに尋ねる。


「 とにかく、フランソワーズ!彼を紹介してちょうだい!」


ルイーズはそう、フランソワーズを急かした。

 そんな二人に気づいたジェットは、ニコニコしながらシモーヌとルイーズの傍に近寄って行った。


「 これは失礼。こんな美しいマドモアゼル達に気が付かないとは、俺も不覚だった。」


そう彼はシモーヌ達に声を掛けると、二人に手を差し伸べた。

 

「 ムッシュ ジェット!あなたから声を掛けて貰えるなんて…!とても光栄だわ!」


シモーヌは嬉々としながら、ジェットと握手を交わす。

すると横からルイーズもまたジェットと握手を交わした。


「 わたし、以前からあなたのファンだったんです。

そんなあなたにこうしてお目にかかれるなんて。

それにしても、フランソワーズと知り合いだったなんて…。」


「 それは光栄だな。こんな美しいマドモアゼルが俺のファンだなんてな。」


ルイーズの手を握り返すジェットは満更でもなさそうな笑みを浮かべていた。


「 それにしても、フランソワーズ。

どうやってジョー島村や、ジェット・リンクと知り合ったの?」


 シモーヌはフランソワーズの方に視線を移すと、つかさずそう、尋ねた。

 その問いに、フランソワーズは少し困惑気味だった。

友人にさえ、本当の話は出来ない事が心苦しかった。

もし、本当の事を言ってしまったら、友人達はどんな反応をするのだろうか…。

変わらぬ友情を交わす事ができるのだろうか…。

そんな思いがフランソワーズを留まらせ、不安な気持ちにさせた。

何より、友情が壊れる事を恐れたのだ。


「 シモーヌ…それは…。」


フランソワーズがそう困惑している時だ。


「 実は俺もジョーも、フランソワーズのファンなんだ。そういう経緯もあって、交流しているって訳さ。」


ジェットは答えに困惑しているフランソワーズに代わって、シモーヌとルイーズにそう答えた。

彼はフランソワーズの心情を察したのだ。

 そんな彼の気遣いにフランソワーズはほっと胸を撫で下ろし、ジェットの方を見た。


「 ジェット…ありがとう。」


そう礼を述べるフランソワーズに、ジェットはふふふ…と笑った。


「 なあに、礼には及ばないぜ…。」


そう、小声で答える。

そんな彼は心做しか、嬉しそうだった。

心密かに想いを寄せるフランソワーズが少しでも喜んで貰えるそれだけで幸せだと、彼は思ったのだ。

  フランソワーズ達がそんな会話を交わしていた時だった。

階下がにわかにざわめき始めたのだ。

中には驚きの声を上げる者までいる。

 その騒ぎに気づいたジェットは勿論、フランソワーズとシモーヌ、ルイーズ達は何事かと、テラスから階下を覗き込んだ。

 そこには何とジョーが薔薇の花束を抱えながら階段を上って、こちらに向かって来るではないか…。


「 見て!もしかしたら、あの薔薇の花束を抱えて階段を上って来るのは、ジョー島村じゃない?」


 シモーヌは驚きの声を上げた。

勿論、ジェットも声を失いそうになるくらい驚いてしまった。


「 まさかとは思うが…。ジョーのやつ、何を企んでいるんだか…。」


 薔薇の花束を抱えているジョーの姿に、ジェットは

一体何事が起きているのか、最初分からなかったが、まさか…という思いが頭の中で広がっていった。

 薔薇の花束が何を意味するのか、それはジェットも分かっていたのだ。

そして誰より驚いたのは勿論、フランソワーズだった。


「 ジョー…。」


思いも寄らぬこの出来事に、フランソワーズは暫くの間、その場に立ち尽くし、テラスからジョーを見守っていたが、やがて突き動かされる様にその場を離れると、階段の方へと走り出した。

そして階段をゆっくり降り始めた。

  先に踊り場に着いていたジョーは、階段を下りてくるフランソワーズを優しい眼差しで見つめた。

  やがてフランソワーズが踊り場まで降りてくると、ジョーは尚一層、優しく微笑み、フランソワーズを見つめた。 


「 フランソワーズ…。」

「 ジョー…。」


二人はその場に立ち、見つめ合った。

暫くすると、フランソワーズの視線は薔薇の花束に注がれた。


「 ジョー…。これは一体…。その花束は…。」


フランソワーズのその声は心做しか、震えていた。


「 フランソワーズ…。これは僕の正直な気持ちだ…。」


そう答えると、 ジョーはフランソワーズに向かって薔薇の花束を静かに差し出した。

優しく微笑みながら…。



続く…