メッサリーナは、紀元直後のローマ皇帝クラディウスの妃でした。
 クラディウス帝は、教養もあり政治的な能力もある人でしたが、ひとつ欠点がありました。奥さんに弱かったのです。メッサリーナは、25歳年下であったことが、皇帝を弱くしていたのかも知れません。
 メッサリーナは、それに乗じて次第に権力を振るうようになりました。彼女には、二つの欠点がありました。物欲と性欲です。
 欲しいものがあると、それを持っている人を陰謀によって陥れ、財産を没収して自分の物としました。
 また皇帝から満たされない性欲を満たすため、夜な夜な町へ出掛けて、男娼を買ったと言います。そして皇帝の留守中に、元老院議員のシリウスと二重結婚をしてしまいます。
 懸念した側近は、皇帝にそのことを伝え、彼女を殺してしまいます。
 ローマを旅して「君は、メッサリーナのようだ」と言われても、美しいというよりも淫乱であると言われているので、決して喜んではいけないそうです。
 それにしても、怖い女が世の中にいて、そんな人に権力を持たせてはいけないのですね。
 我が家には、亭主に対して絶対的な権力を振るっているのがいます。
         塩野七海「ローマ人の物語」より