日本屈指のスモールラグジュアリーホテル「瀬戸内リトリート青凪」で開催された芸術祭に、なんとアーティストの一人として参加させていただきました。

 

自転車選手として生きてきて、こんな素敵な機会が頂けるとは、想像すらつきませんでした。

 

安藤忠雄の作品として有名なこのホテルを今年6月に下見で訪れた時、その佇まいに先ず唖然としました。

無機質な空間に直線を描きながら差し込む光、常軌を逸したサイズのガラス扉、アート作品が突然現れる空間、はたまたヨーロッパの歴史ある教会の中にいるような緊張と心地良さのバランス…

 

ただただ、圧倒されました。

 

プールの水面が絶妙な角度で反射し、コンクリートの表面に水紋アートが現れる

 

フランク・ステラの巨大な作品

 

僅か7室の客室は、全てが面積100m2を超えるスイート仕様で、その空間は庶民の僕には経験したことのない、人生の中でもそう何度も足を踏み入れることができないような空間でした。

 

170m2の広さを誇る「青凪スイート」

 

別棟のスイート。内から外へと伸びて庇になる天井、屋根と壁の間のスリットに唸る。

 

 

元々は美術館だったので、館内には広い空間がたくさんあります。

こんな場所に人が集まって芸術祭をしたら、それは素晴らしい経験ができるだろうな~。

そんなことを思いながら、館内を支配人の吉成さんに案内していただきました。

 

吉成支配人とエントランスで

 

 

僕は、自転車そのものがアートだと思っています。

 

サイクリングの世界では、建物内ではなく外を走ることがアーティストとしての場所。

そこにどんなストーリーがあって、その後に何を感じられるか。

自転車が気持ち良く感じる時って、どんな時だっけ?

そんなことを意識できるイベントにしたい!と決めました。

 

例えばこれまで僕が自転車に乗ってきて、強く思い出に残ってる場面は?

 

すぐさま頭に浮かんだのは、2年前にお招き頂いた熊本震災のための復興ライド「La Corsa KYUSYU」。

 

あの時は、オーガナイザーである元チームトレック監督・正屋の岩崎正史さん、フォトグラファーの丹野篤志さんを始め、多くの方に支えられてイベントに参加しました。

 

この時、ギャラを頂いてしまったのですが、

 

これって復興イベントだよね?

だったら頂いたギャラは、復興に使わなくちゃダメじゃない?

 

という心の声があり、この時のギャラはライドに協力頂いた丹野さんの写真の購入に当てよう、と決めました。

 

サイクリストが被災地に集まって走る。

その土地にお金を落とす。

また、イベントを企画してくださった方にお金を落とす。

 

自転車で出来る、小さな貢献。

 

アーティストの丹野さんが撮った写真は、自転車乗りの写真以外に自転車が全く写っていない風景の写真が沢山あり、それは自分自身の目で見た瞬間そのものでした。

 

愛媛県庁舎 photo by Atsuhi Tannno

 

 

この思い出を、おみやげとして持ち帰りたい。

 

旅行に行くとその地でおみやげを買い、後からその時を思い出すあの感覚と同じで、あの時のあの風景をいつでも思い出せるように。

 

丹野さんの写真は家のリビングに飾ってあります。

 

お土産を買うという行為には賞味期限があり、その場で買うのが当たり前。

時が経てしまうと思い出は次第に薄れていってしまって、そうなるとわざわざ手に取ることもなくなる。

気持ちの高ぶりがある時の方が、手にとって見たくなりますよね?

写真も後日になると、たぶん感動は薄れると思う。

だったらライドの直後に写真上映会をしよう!

 

この僕の提案は、随分と丹野さんを困らせた。

だって写真家は撮影してからも、一枚の作品に多くの時間をかけるものだから。

それでも僕の希望を叶えてくれようと、ライド後にみんなが飲んだり食べたりプールで遊んだりしている間に丹野さんは部屋にこもって鬼のスピードで上映会用の写真を300点も用意してくれたのでした。

 

鬼仕事の前に、一杯だけ飲ませてもらえた丹野さん

 

続く。