今や日本には世界中のワインが入ってきていて、どこでも手軽な値段で美味しいワインが飲めるようになった。
アメリカ、チリ、南アフリカと選択肢が広くなって、選ぶのに困るほどだ。
殆どの人は価格帯でワインを選ぶ場合が多いと思う。

僕が飲むのは、もっぱらイタリアワイン。
ワインを楽しむ時には食事が欠かせないし、ワインだけを楽しむことは殆どないと言ってもいい。
そんな中で、ワインという飲み物はどういう立ち位置なんだろう?
と、素朴に考える自分がいる。

僕がワインを楽しめるようになったのはここ6年程のことで、それ以前はワインなんて高いし、それほど美味しいものだとは思っていなかった。
かと言って、日本酒や焼酎を自ら進んで飲むこともなく、好きだったお酒は梅酒くらい。
梅酒にしても、焼酎にしても、日本酒にしても、そのもの自体が完成されていてとても美味しいし、それだけで楽しむ事ができるお酒だ。

しかし、イタリアワインはそうではなかった。
イタリアワインというのは、単品で飲んで感動することは殆どない。
ところが料理に合わせると、これがとんでもなく素晴らしい食事の時間を創ってくれる。

料理がエースとしたら、イタリアワインは実に優秀な名アシストなのである。
そんなイタリアワインの面白い特徴が、ワインと料理を一緒にどう楽しむかを考え始めるきっかけになった。

今日はイタリアでの仕事の最終日だったので、ホテルでの夕食を変更して街なかのレストランに足を運んだ。
そのレストランのシェフはピエモンテ出身で、ピエモンテ料理が中心のお店だった。
ピエモンテといったらワインや料理も美味しく、山の中ならではの素晴らしい料理が数々ある。
ちょうど町の八百屋さんには獲れたてのポルチーニが並び、客同士が論議を始めるぐらいイタリア人はポルチーニに強い思い入れがある。

今日は前菜に生ポルチーニのサラダ、カプレーゼを注文。

プリモ・ピアットはポルチーニのタリアテッレ、ポルチーニ尽くしだ。
これに合わせるのはピエモンテのワイン、チェレットのアルネイス。

料理の邪魔をせず、食材素材本来の味をしっかりと口の中に残すように選んでみた。
セコンドは牛肉!
これには同じくピエモンテ、ガヤのプロミス。

この夜の食事は、今回の仕事であるアルファロメオ・ステルヴィオの話や、ステルヴィオ峠をどんな想いで上ったかを皆で語り合うための時間だったので、会話に集中できるようにワインはとびきり美味しいものというよりは、料理を引き上げてくれる脇役としてチョイスした。

ワインに関して僕はアカデミックな勉強をしたわけではないので、ワイン全般に関する知識は殆ど無いし、ましてやソムリエでもないので、料理に合いそうなワインをチョイスすることだけが僕のできることだと自覚している。
食べ終わった時に今日の食事の素晴らしさを感じてもらえたなら、ワインを選んだ者としての冥利につきる。
たくさんのワインを飲んだ経験がなくても、「今この仲間達と、どう夕食を楽しみたいか?」をイメージできると、メーカーでもなく、価格でもなく、その場に相応しい素敵なワインを選ぶ事ができるように思う。

そんな主役にならないワインが、名アシストとして僕たちの時間をより一層素敵な時間にしてくれる事に感謝しているし、来た人が満足してくれたらそれで百点だと思っている。
今回は時間を忘れて美味しい料理とワインを堪能し、幸せな時間を仲間と共有できた。
自分のためだけでなく、人と人との交わりにおいても食事はとても大切なのだ。

次にイタリアに来るときは、イタリアの誇る素晴らしい名アシスト達のことをしっかり調べて買いに来ようと思う。