旅.
私の人生が旅のようなものなのだが、今回は本当に旅をしたのだ。
それは長年心にとめていた想いへの旅。

ヨーロッパで自転車を始めてこれ迄、なかなか旅に出る事が出来なかった。
それはトレーニングをしない事に不安があったから。常に走る→食べる→寝るを繰り返す事が自転車選手!とイタリアのアマチュア時代から教わっていたから・・・
しかし、年をとり時間の使い方とストレスと集中力とをバランス良くする事が、選手として人間として、とても重要だということに気がついた。
それでも不安感の中、突っ走る事しか知らなかった私が「旅に出てみよう!」と決心したのは、17年前の記憶をもう一度味わいたい気持ちからだった。

イタリアに初めて来たのが18歳の時。


そして自転車競技を学びながら突っ走っていたある日、ローマの近くで行われたレースがあった。その際レストランで、信じられない出会いをした。
それは「ピアットフレッド」(冷たいお皿)といって、パスタとは別にセコンドでモッツァレッラと生ハムを食べていた。そのモッツァレッラが美味しくて美味しくて、ソフトボール大のモッツァレッラをペロリと食べてしまった。
パン!と張った白いチーズは口の中に入るとミルクという小宇宙が広がる!(言い過ぎ)、ミルキーでモッツァレッラのジュースが噛んでも噛んでも次から次へと出てくる。

この日から、私がモッツァレッラに求める味がそのレベルに設定されてしまい、どこで食べても納得する味に出会えなかった。
そして、「こうなったら時間を作って自分で食べに行くしか無い!」そう思ったのだ。
しかし7年間フランスに住んでいた時は全く行くチャンスは無く、イタリアのレースはほとんど北で行われる為、南ではレースが無い。
ナポリは遠く、いつの間にか自分の中で聖なる地のようなイメージになっていった。

今年は必ず行こう!そうシーズン始めに決心した。
ツアー・オブ・トルコからイタリアに帰り、1日ゆっくり考えて、「ナポリに行こう!」と心に決めた。
レンタカーを借り、次の日に出発。
道のりは550km、ノンストップでナポリを目指す。心はウキウキするのと同時にもしあのモッツァレッラに出会えなかったら・・・・
そんな気持ちで向かった。
ナポリに着いたのは夕方18時。日も暮れかかり、人々が路地や公園で遊んでいる。

心躍る前に気をつけなければいけないのは、ここは「ナポリ」という事。
そう、知ってる人は知っているナポリはイタリアでは無い。というのは有名な話。そんな事を言ったらジローラモさんに怒られそうだけど、イタリア人はナポリをイタリアとして認めてない人が90%ほどいる。(私が会った人達の中では100%だった)
そして、盗難やスリが多く運転が乱暴なナポリへは (乱暴の度合いが想像以上、ぶつけて相手をどかしながら走るイメージ) 
多くの友人が 「10年以上使ったオンボロ車でもナポリには行けないと」言っていたほど・・・・いったいどんな所?

さて、とにもかくにも記憶をたどる旅は、なんとかナポリの市内から西に山を1つ越えたいわゆるナポリのベットタウンに到着。
もちろん、今回は駐車場付きのホテルを予約したのは言うまでもない。それでも車の中は空にして、ダッシュボードも開けて車に鍵をかける。そしてハンドルを壁に向けてめいっぱい切り、ハンドルロックしてから車に鍵をかける。それでも怖いのは言う迄もない。
ホテルに入るとフロントのお兄さんに挨拶する。とても感じの良い人、でもナポリ弁が所々に出て聞き返す。ナポリに来た~!そんな思いが少しずつ心を躍らす。

妻を誘って外へ散歩へ出る。
18時をまわり、夕食には良い時間だし。
しかし、心はもうコーヒーとピッツァで溢れんばかりにウズウズしている。
フォトグラファーで友人の辻君も誘って外へ。大きく深呼吸~、ナポリの匂い~
先ずはBARへ行く前に、移動でなまった身体を動かしてお腹を空かせる。


そして準備万端でコーヒーを飲みにBARへ。

実は今回、このコーヒーも1つの目的だった。
というのも、コーヒーマシーンを家用に購入し、どうも味の目標が見えなでいたから。
「ナポリのコーヒーを飲んで死ね。」とは誰も言ってないが、そのくらい美味しい。(笑) レバー式のエスプレッソマシーンから出てくるコーヒーはまさに、ナポリの心が詰まっている。
辻君もイタリアにはちょっとうるさい男だ。話しが合って止まらない。
まずはグイッとコーヒーを飲む。
崇史「うわ!美味くない」「辻君どう?」
辻「あ、ここ美味しくない・・・」
あ、やっぱり。
ナポリでも当たり外れはあるって事なんだな、へ~、なんか2人で納得。

崇史「もう1件行かない」
辻「行きましょう、良いBAR知ってますよ」
そう言って連れて行ってもらったのは、ホテルの真横のBAR。
黒人のお兄さんがコーヒーを入れている。

1つ1つの動きがなかなか丁寧。これは期待出来る。
そんなお兄さんの動きをガン見する2人


そしてコーヒーを入れてくれたお兄さんが、まだマシーンから出続けているコーヒーをスプーンですくいコップだけ提供してくれる。

まだコーヒーは出っぱなしだが、コップには1杯分のコーヒーが適量注がれている。

なにあれ???

この出続けてるコーヒーとスプーンは何?

クレーマを見てるの?、それとも他になんか意味があるの?
自分の中で???が大きくなって行く。そして言うまでもなくコーヒーが美味い!!
辻君に聞いても??、これはその人に聞くしかないな~と思い聞いてみる。
「そのスプーンはなに?」
お兄さん「???」
自分が何を聞きたいか伝わっていないのだ。
「そのスプーンは何を意味するの?」
と聞いても、「別になにも・・・」
そのとき、奥にいたそのBARのおばさんが「どうしたの?」と
黒人のお兄さんが「こいつなんかコーヒーについて聞きたいみたいなんだけど」とおばさんに説明すると、
おばさん 「あなた、コーヒーの事しりたいの?」
崇史 「そう、なんで彼がスプーンでコーヒーをすくったの?」
おばさん 「明日ここに来なさい、ちゃんと教えてあげるから」
ま・じ・で~!!!!
クルクルくるくる!!
時間も指定してくれて、2013年5月2日14時にバリスタへの道がスタートする事になった。


何と言う事か。
ナポリの旅1日目にしてこんな出会いがあるとは!
そしてまだまだ面白い展開がこの後続いたが、今日はこの辺で。