完成した壁画。公式な完成写真はもう少しだけお待ちください

 

 昨日は壁画が完成した安心感もあって、久しぶりにぐっすりと寝ました。今朝はゆっくり目に起きて壁画の前に行き、最後の微調整をしました。相変わらず暑かったですが気持ちに余裕があるため、それすらほとんど気にならずに作業できました。最終的にクリアコートを塗り終えたころには一時を回っていました。

 今回はもともと病院内に壁画を残す想定でハイチ入りしていました。しかし病院に入った時に、一番誰の目にも留まる場所に描いた方がいいのではないか?という思いに変わり、リハビリなどを行うOPDセンターの外壁に絵を描くことにしました。結果的にその判断は正しかったと思うのですが、できれば当初予定していたように病院内にも残したいという気持ちがありました。そこに小児科の先生から、

 

 

「子供たちが入院している部屋に少しでいいから絵を描いてくれないか?」

 

 

と相談されたこともあり。残りの時間を病院内での壁画制作に使うことにしました。

 

クリアコートが塗られた完成した壁画

 

 とはいえ自由に描ける日数は3日ほどしかありません。あんまりやることを増やしてもあとが大変になるので、まずは一番に描くべきと判断した小児科の団らん室に描くことにしました。そういえば今回はいつもの花をかいていないことに気づき、もはやOver the Wall恒例になっている「花」制作を始めると、次々に参加者が増えてきました。この「花」の制作はいろんな色を使える上、誰でも失敗なく描けるメリットがあるので、大人数で一気に描くことができます。今回もあっという間に室内に花畑が出来ました!

 

描きだしは2、3人でしたが

気づけば10人ぐらいで作業していました。

 

 ある程度めどがついたところで作業を切り替えて宿舎に戻りました。今日はMSFの別のベースに配属されている方々がきてパーティーの日で、ベルギーのプロジェクトチームが合流しました。彼らは緊急外来治療をしていて、いわゆる僕が想像していた銃で撃たれたギャングが搬送されてくるような現場で働いている人たちでした。彼らにも僕たちの活動を見てもらおうと、マリーが声がけをしてくれ壁画の前でプロジェクトの説明をしました。

 非常に熱心に話を聞いてくれ、皆壁画をとても気に入ってくれたようでした。その中でフランスから来たお医者さんと話をする機会があり、彼が日々直面しているハイチの現状、医者としての使命、いろんな話をしました。

 

 

 僕はこのプロジェクトを行う前にずっと考えていたことがあって、それは医療とアートの関係性でした。災害時や紛争時に真っ先に必要なのが医療であり、間違いなく人の生活に必要なものです。それに比べてアートは生活に必ず必要なものではありません。まして災害や紛争の現場にアートが必要なのかどうか疑問もあります。ただどんな場所にもそこに人々の営みがある以上、生活にゆとりが必要になってきます。24時間緊張状態で人は生きていけないからです。そのお医者さんは、

 

 

「ここにアートがあることで間違いなく患者さんやスタッフの気持ちが変わるだろう。おそらくそれは医療では解決出来ない気持ちの問題や心のゆとりといった部分で、大きな役割を果たしていると思うよ」

 

 

と言ってくれました。東北の震災のあとに「アートにできることはなにか?」を考え続けてこの活動を始めましたが、大きな体験が積めた気がしました。夜は相変わらず大盛り上がりでみな日頃のストレスを発散しているようでしたが、ふと盛り上がりから離れた場所で飲んでいると、モーガンが話しに来てくれました。

 

 

「あなたたちが来てくれてとてもこのベースの雰囲気が変わったわ。実はそれまでみな日々のハードワークでピリピリとしたムードが漂っていたの。日々向かい合っている状況がシリアスだから余裕がなかったのね。そこにあなたたちが来て、壁画を描くというじゃない?最初は何のためにそんなことするの?とみないぶかしんでいたけど、患者さんや保護者が嬉しそうに参加する姿を見て、だんだんと気持ちが変わって来たんだよね。毎日少しずつ絵が出来上がっていくにつれて、なんだか明るい気持ちになれた。来てくれたことに本当に感謝してる。」

 

そして最後に

 

 

「もしも時間があれば私たちが日々どんな仕事をしているか見てみるといいわ」

 

 

と言ってくれました。確かに僕は彼女たちが日々どんな仕事をしているのかよく分かっていません。特に彼女はフィジオテラピーとして日々患者さんと向き合って仕事をしています。日本に帰る前に、必ずそれは見ておきたいと思いました。

 

 宴は遅くまで続きましたが、ある程度のところで部屋に戻りました。明日は日曜日だけど、描けるだけ壁画を進めたいと思っています。

 

小児科での制作の様子