質問と回答: 転移性肺腫瘍への放射線ピンポイント照射に意味はあるか? | がん治療の虚実

質問と回答: 転移性肺腫瘍への放射線ピンポイント照射に意味はあるか?

2016年3月5日のNPO法人宮崎がん患者共同勉強会東京支部会での質疑応答を紹介します。

・乳がん術後10年後の再発で、多発肺転移がある場合、四次元ピンポイント照射は意味があるか?

肺転移へのピンポイント照射



発生臓器と病理組織の型でがんの性質は大まかに分類されている。
原発巣という発生した場所から離れた臓器に転移した場合を、ステージIVとなり、根治は不可能な状態を示している。
ただし、大腸がんのように数個の肝転移、1~2個ぐらいの肺転移であれば、外科切除で根治できるケースがありえる。肝臓の部分切除であれば、再生能力の高い肝細胞が数ヶ月で再生するので、結構大きく切除できる。また再生した後に再切除できることもある(しかしそれは多数派ではない)。

ところが、転移性肺腫瘍に対して肺切除をおこなうと、確実に肺活量が減り、それは元に戻らないので、安易に肺切除できない。
ラジオ波で転移巣だけを焼灼すれば、それほど肺活量は減らずにすむが、がんが残存することも多いので、メリットがあるかどうかは慎重に判断する必要がある。

さて今回の質問であった乳がんの肺転移では「四次元ピンポイント照射療法」で効果が期待できるか?というものだった。
もちろん当方はそれをおこなっている施設に所属しているわけではないので、正式な回答ができるわけではないが、通常のがん治療理論から判断して助言した。

「四次元ピンポイント照射療法」とはがんの存在する部位のみに限定して三次元照射して、同時に呼吸による肺の病巣の動きもコンピュータで計算して追随する照射のことを言うのだろう。
つまり三次元+時間偏位を合わせて四次元としている。
これに似た治療法としてサイバーナイフというものがある。

ここで質問があった今回の乳がん多発肺転移への「四次元ピンポイント照射療法」について考える。

肺に多発転移があっても、それぞれにピンポイント照射すれば良いような気がするかもしれない。

しかしこの場合おそらくCT画像に写らない多数の微小転移があり、多くの転移巣で最も大きいものが目に見えるだけだろう。

ということは、すくなくとも見えてる転移がんすべてに照射しても、すぐに見えない微小転移が増大して元の木阿弥になるだろう。

多発肺転移があっても、それぞれの腫瘍があまり大きくなければ、その合計分だけの肺活量が減るだけなので、基本的に症状はないはずだ。
たとえピンポイント照射であっても、放射線治療は肺障害の危険性もあるから、根治できないならやるだけ損ということになる。
むしろ、怖いのは目に見えない小さいがんが砂のように血管やリンパ管に詰まる、がん性リンパ管症に移行することだ。
この場合肺の毛細血管の微小循環血流が詰まって、ガス交換ができなくなる。つまり急速に呼吸ができなくなる。
このがん性リンパ管症は非常に怖い病態で、緊急事態と言って良い。
たとえ目に見えない病変であっても薬剤が到達するという意味では抗がん剤治療のほうが理にかなっている。

ただし、主気管支に大きい転移がんが浸潤して、窒息する危険性が高く、その圧迫症状を取ることが、余命に大きく寄与するのであれば、「四次元ピンポイント照射療法」は意味があるかもしれない。
ただそれも緊急避難的な意味であり、いずれ抗がん剤治療が必要だろう。