第2回東京支部会④-2 低用量抗がん剤は場合による | がん治療の虚実

第2回東京支部会④-2 低用量抗がん剤は場合による



前回記事で、きつくて減量して「結果してはありかもしれない」と回答した抗がん剤の低用量投与法は、以下の3つのケースを提示した。

①再発予防目的の術後補助化学療法
②白血病や悪性リンパ腫、卵巣がん、精巣がんのように本質的に治癒可能性のあるがん種に対する化学療法
③肺がんや消化器がんのような固形がんstage IVに対する緩和療法的化学療法


①再発予防目的の術後補助化学療法の場合

切除術後に再発する可能性を30%程度低下させる乳がんと、5~10%しか低下効果のない胃がん、大腸がんでは、分けて考える必要がある。

乳がんの場合、術後の強力な化学療法がその後の再発率や生存率をかなり改善しており、抗がん剤を安易に減量すべきではないという報告があるのは事実。
これは対象患者が比較的若年層なので、その気になれば副作用に耐えられやすいのだろう。

再発するのと、しないのでは、がん治療から解放されるか、一生がん治療につきあわなければならないという意味ではその後の人生が一変するため、多少頑張ってもらおうと言うことだ。

一方大腸がんでは、XELOX療法を例に挙げると、原法通り忠実に行うよりも、患者の副作用や状態に応じて、投与量減量や投与間隔を空けたほうが、再発率はむしろ下がるとされているので、逆の印象がある。

しかしその意味は、本人の状態にかまわず無理矢理投与量を維持すると、治療のきつさから途中で脱落しまうからだ。
そのため、かえって抗がん剤の総投与量が減ってしまい、結果として再発率の改善が得られない。

(※患者数の多い乳がん、大腸がんを代表例として挙げた。ただし、がん種が違ったら、お互いの治療薬も成績も全く異なり、直接の参考にはならないことも注意してほしい。)

②白血病や悪性リンパ腫、卵巣がん、精巣がんのように本質的に治癒可能性のあるがん種に対する化学療法
の場合


本人の状態があれば、可能な限りの副作用対策をおこなって、標準的な量の抗がん剤治療を行う。

完治するチャンスがあるのならば、多少きつくても、長い目で見て本人の利益につながるからだ。ここで低用量の抗がん剤を安易に勧めるのは、目先の利益のために将来を見誤ることになり、倫理的に問題がある。

③肺がんや消化器がんのような固形がんstage IVに対する緩和療法的化学療法

こういったがん種の場合、抗がん剤ではがん細胞を全部消滅させることができないことがわかっている。よってがんとの共存をはかり、がん症状を緩和することを目標としている。

またこういったがん種の患者さんが比較的高齢で、他の病気を持っていたりして、あまり状態が良くないことがある。
もちろん、臨床試験に参加できるような普通の人と変わらない元気な人では通常量の抗がん剤を勧めるべきであり、安易な低用量抗がん剤治療は推奨できない。
その理由は、標準量の抗がん剤のほうが抗腫瘍作用は強いのはわかっている一方で、患者さん全員に必ずしも強い副作用が出るとは限らないからだ。

したがって、まずは、通常量で行っていく。
腫瘍が縮小すれば良いが、縮小しても副作用で苦しむ場合が生じる。
ここで重要なのは、その副作用の程度であり、患者さん本人にとって「切実」なものかどうかだ。
言い換えると、数ヶ月から1年ぐらいはそれほど無理なく継続できると見込める程度に副作用をコントロールすることが大変重要となる。これは制吐剤などの副作用対策と抗がん剤の微調整が柱となる。

「がんと共存する」→「少なくともがんを増大させない」

と言う戦略においては、どんなに効果的な治療でも継続できなければ治療失敗となるからだ。
がんの総量がそれほど多くなく、危険な転移やがん自体のタチの悪さがなければ、長期戦になる。
こういった場合は長期的な体重減少や体力低下防止も考慮して、少しずつ絶妙に抗がん剤を減量していくことが重要になる。
添付文書などに記載されている抗がん剤の副作用の報告は、数回あるいは数ヶ月の短期間を念頭に置いていることが多く、長期的な影響を考慮していないことが多いからだ。
よって長期に渡る治療においては、結果として低用量の抗がん剤治療に至ることがあるわけだ。

ここで「がん休眠療法」と称して、低用量抗がん剤でも腫瘍が縮小したと主張する医療機関の話はよくある。

結果としてうまく行けば良いだろうが、副作用の少ない量での抗がん剤は効果も少ないのが常識であるから、腫瘍増大が予想外に抑えきれない患者さんが少なくないはずだ。
そうなると本来の治療の意味がなくなる。
ちなみに不用意に抗がん剤を減らすと治療成績が悪くなったという報告や、逆に無理に抗がん剤を増やすと副作用が強くなった割に、生存期間は延びなかったと言う報告は、学会などでよく報告されている。
要は抗がん剤のメリットを発揮できる治療用量の幅は狭いということだ。
結局決められた投与量を基本に、患者さんの状況に合わせた、非常に微妙な調節がものを言う。

それで特殊な例で当方はどうしているかというと…(これは特に③の場合に当てはまる事が多い)

・抗がん剤治療に恐れを抱いている人には、治療の意味と副作用軽減こそが最重要事項だと学習してもらって標準量を投与する。

・状態が悪くて(痛みやがん症状が強いなど)、抗がん剤治療が逆効果と思える人には、まず症状緩和の治療をおこなって、状態が許せばきつくない抗がん剤治療から提案してみる。

・本当に抗がん剤の副作用に恐れおののいている人、基礎疾患(心不全や腎障害など)のある人や体力のない高齢者に対しては、標準量の半分量で投与してかつ、制吐剤などの副作用対策を最初から思いっきりおこなう。

それで大きな問題がなければ、2回目以降から抗がん剤の量を徐々に増量していくと言う方法を用いている。



報告: 3月5日に東京新橋にて第3回東京支部会開催しましたが、このときの話題は今後ブログに順次解説していきます。

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NPO法人宮崎がん患者共同勉強会 第4回東京支部会開催告示
ご自身あるいは当該がん患者さんの診療情報をお持ちください。

セカンドオピニオンほどではなくても、応用の利く助言ができると思います(ただし個別相談ではなく、出席者全員の前での助言となります)。

事前に人数確認が必要なので、参加希望者はメッセージ機能で当方に1週間前ぐらいまでに事前連絡を御願いします(連絡先記入はアメブロで禁止されています)。

時間:2016年4月9日(土) 14時から3時間ほど
場所: 東京JR新橋駅近くの会議室

参加費用: お飲み物代含めて1000円

開催概要は以下のリンクをご参照ください。

https://sites.google.com/site/miyazakigkkb/

今後は基本的に毎月開催する予定です。第4回は5月14日土曜日午後予定です。

--------講演会の広報--------
第12回 東広島医療センターフォーラム
市民公開講座 がん診療の最前線(入場無料)
https://www.hiro-hosp.jp/medical/cancer_forum.html
講演チラシ
https://www.hiro-hosp.jp/medical/medical_staff/documents/center_forum_12.pdf
日時
平成28年3月27日 日曜日 12時~16時
場所
広島大学サタケメモリアルホール 東広島市鏡山1丁目2番2号

以下の演題で講演させていただく予定です。
「がんに振り回されないための患者力
― 実は患者さん達にできる工夫はたくさんある ―」
現代の「がん」治療は確実に進歩しています。その一方であふれる情報に患者さん達は何を基準に治療を選択すべきか混乱しています。そのため病院に任せるしかないと思い込んでいる方も多いでしょう。
しかし、「がん」ほど患者さん自身の努力と工夫の余地がある病気はありません。「がん」と診断されて、狭まるばかりだった人生の幅を積極的に広げ、医療者と協力して患者さんの自信を回復させるための秘訣をお話しさせていただきます。