近藤誠氏への批判④なぜがん医療界は組織的に反論しないのか | がん治療の虚実

近藤誠氏への批判④なぜがん医療界は組織的に反論しないのか

・なぜがん医療界は組織的に反論しないのか
・なぜ個別に反論するがん治療医が少ないのか

かつて「がんもどき」理論を提唱した頃は、それなりに反論する医学者もいた。
その後2011年に月刊誌文藝春秋の記事と単行本の「抗がん剤は効かない」が出たときに一般の方々からの反響は大きかった。

そのため週刊文春などで反論記事も出されたが、がん関連学会などは何の反論もしていないし、学術集会会場でも話題に挙がったのを見たこともない。

またがん治療医からのマスメディアを利用した反論も多少あったが、日本全体のがん患者、がん治療担当医の総数からすると微々たるものだ。

もちろん医師の間ではそれなりに話題に挙がることあるし、近藤誠氏の記事が出た直後は、がん患者さんの外来診療で色々質問が出て時間を取られて大変だという声もある。

氏の著作は数十万部売れているからには、相当影響力があるはずだから、本来なら学会からの公式な声明も出た方がいいのかもしれない。
しかし、実際にはそのような動きは全くなさそうだ。
それはなぜだろうか?
自分が考える理由としては

①学会は外に向けての活動に慣れていない
②一専門家の意見はエビデンスレベルが最低で、相手にする理由がない
③各種がんの治療ガイドラインが出そろってきている
④話題性はあっても、実際に治療を受けている患者さんへの影響は軽微
⑤実際に氏の本を持って、担当医に挑む患者さんは少ない
⑥多臓器に渡るがん種の議論には反論しにくい

と言った理由が考えられる。

①学会は外に向けての活動に慣れていない

まず学会というのは、その領域の研究を進歩させ、医療環境を整備することを主目標としているし、専門医の養成などたくさんのテーマを持っている。
そのなかで対外的にアピールするというの割と苦手で、その手段も自前では持っていない。
マスメディアに対する公式発表ぐらいしかしていないだろう。
学会自体が大学教授や研究者の集まりで、製薬企業のような営利団体では無いため、医学界以外にもとことん影響力を発揮しようという貪欲さに欠けるところも一つの要因では無いだろうか。

②一専門家の意見はエビデンスレベルが最低で、相手にする理由がない

学会というのは内部でたくさんの論争があるが、最近ではその根拠となるエビデンスの優劣の序列がはっきり認識されてきた。
すなわち内容にかかわらず、論争の入り口の段階で議論が成り立つかどうかはエビデンスの質の差ではっきりさせることか可能となった。

参考:エビデンスとは(再挑戦)⑦まとめ1
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-11050961397.html

どんなにもっともな理論を主張しても、上記エビデンスの信頼度に関しては崩しようが無い。
これを使って、医師だけでは無く、治療に関わる医療関係者あるいは患者さん自身が参考にすべき指針として作り上げられたのが各種がんの治療ガイドラインだ。

近藤誠氏はエビデンスレベルの高い引用文献を提示して、自説を補強しているではないかと言う向きもあるだろう。
しかしその研究背景が、日本の医療の実情にあっていないことも無視して持ってきている事も多いし、都合の良い研究だけ引用する手法だ。

③各種がんの治療ガイドラインが出そろってきている

エビデンスレベルの高い大規模臨床試験やメタアナリシス(複数のランダム化比較試験の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のこと)などをもとに各学会が相当な労力と時間をかけて治療ガイドラインを作り上げている。

医療側としての公式な解答はこのガイドラインが全てと言ってもいいため、学会内で発言しない一研究者の議論にはわざわざ反論するほどでも無いと考えているのだろう。

ただし念のため書いておくが、がん治療で重要なのは近藤誠氏のレッテルを貼るような極論やガイドラインに忠実に従うことでも無い。

例えば...
食道癌診断・治療ガイドライン2012年版の序から抜粋

------多数を対象とするRCT(ランダム化コントロール試験)が最もエビデンスレベルが高いわけですが、同様のRCTでも結果が異なることがあるのは御存知のとおりです。臨床の場では、全く同じ病状であるものは1例としてなく、1例1例異なるものです。食道癌の進行度、悪性度、病巣の占居部位、浸潤性発育か膨張性か、などと共に、担癌患者の全身状態に加えて年齢や生きようとする意欲なども考え合わさなければなりません。このように患者の治療方針を決定するには医療チームでの詳細な検討に加え、患者やご家族の意志を尊重する必要もあります。その治療方針決定のために本ガイドラインがお役に立てれば幸いと思います。しかし、ガイドラインが個々の患者の治療方針を縛るものではありません。もちろん医療訴訟の根拠となるものでもありません。あくまでもガイドラインはガイドラインであり、本ガイドラインを踏まえて複雑な患者個々の条件、状態を吟味し、最終的には主治医が判断するものであります。ガイドラインから少しはずれた治療を行うことがその患者のより良い時間を長くする場合もあるでしょう。通リー遍にガイドラインに従っていれば 良いというものではないと思います。重ねて申し上げますが、医療は複雑であり危険を伴うものです。---------

という主張からわかるように、がん治療においては一刀両断的な判断は避けるべきで、個々の患者さんは主治医と綿密な協力して初めて最適解が得られるものだ。

続く