治療が無効になってから③治療の効いている間に.. | がん治療の虚実

治療が無効になってから③治療の効いている間に..

前回つぎのように記した。
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「最後まで延命を目指して激しく戦うのか、あるいは抗がん剤の副作用も考えある程度の余裕を持って余生を充実させるのかは本人の価値観次第だ。
ただし以下のようなケースは望ましくない。

①標準治療が尽きてから慌てはじめる人。
②わらをもすがるようになんでも手当たり次第探す人
③ひたすら延命、治癒しか目にはいらない人」
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もちろん気がついたらいきなり末期がんが発覚した場合などやむを得ない場合はあるが、まずは①のケース。

よくわからないからと医者の言われるままに治療して一旦はうまく行っても、やがて無効になる時期がやってくることが前提となっているのが抗がん剤治療だ。
それが自覚できてないと、その貴重な延命期間を無駄に過ごしてしまう。
抗がん剤治療でがんの勢いを頓挫せしめることがどんなに幸運なことかは,確かに専門医でないと理解しがたいかもしれない。

なにせがんは切らなきゃ治らない、切れないあるいは再発した場合は諦めてもらうしかないというのが15年前までは当たり前だったからだ。

それが今や抗がん剤でなんとか一度はあるいはしばらくの間は延命が可能となってきた。
新しい抗がん剤の開発、むやみにがんをやっつけるのではなく共存をはかる治療戦略の開発、副作用を抑える支持療法の発展など、いろいろな分野での努力を結集して「一度は抗がん剤治療で延命できる」事が証明された固形がんが大幅に増えた。

乳がんなど抗がん剤が効きやすいがんに対する新薬開発はもちろん、最近のトレンドは抗がん剤が効かないとされた難治性がん(腎がん、膵がん、胆道がん、悪性軟部腫瘍、原発不明がんなど)に対する化学療法の開発のほうが著しいぐらいだ。

効果が証明された治療を十二分に発揮させながら(これは患者個人の努力と工夫が不可欠)、生き延び、その間に新薬が出現してさらに延命を図るチャンスをうかがうことができれば理想的と言える。

しかし理想的でない場合、つまりうまくいかなくなる時期がやがてやってくることを今のうちに認識しておくべきだろう。
治療による延命はいわば「猶予期間」のことなのだ。

人生の終わりが少し延期されただけではがっかりするものだが、死ぬ一歩手前からつかの間でも猶予が得られるというのはその個人にとっては実は決定的意味を持つことに気がついているだろうか。

残り時間が少なければ少ないほど、寸分の間も貴重に感じるはずだ。

一方、人生の価値を「時間」に置くのか「濃密さ」に置くのか意見が分かれるだろうが、少なくとも前者に限りがあるのなら後者に重きを置くしかない。

先人(研究者だけでなく患者さんも)が苦労して構築した標準治療、そのおかげで得られた「猶予期間」を無為に過ごし、無効となってから慌てるのはあまりにも惜しい。

その期間にこそ自分にとって優先順位の高い事、治療が効かなくなってからの備え、今しかチャレンジできない事を行ってほしいものだ。