絶対治る・絶対安全?? | 美容外科開業医の独り言

美容外科開業医の独り言

美容医療とは人間愛!という信念で仕事をしている美容外科医のブログです。
レーザーなど最新の美容情報や普段の診療で感じたことなど、ぼやきを交えながら書いていきます。
外見だけではなく心も綺麗になり、自信が湧いて幸せになれる、そんな美容医療を目指しています。

美容医療は、病的ではない正常な状態をより良くする医療です。
患者様としては必ず良くなると期待し、トラブルは一切生じないと考えがちです。
メディアが必要以上に美容医療のメリットをデフォルメして煽り、専門家気取りで良いとこばかりを無責任に書き連ねることも大きな問題ではあります。

「美容」ではあっても医療行為です。不確定要素があるのが医療であり、人間という生物としての個体においては様々な刺激(治療)による反応は様々です。
プロになるほど、その違いを事前に判断し、状況に応じた強度・手法で対応していきますが、それでも予想外のことが生じる確率をゼロにはできません。また異常な反応が生じた場合、今度はそれを瞬時になくすこともできません。
治療に対する不確実性において状況判断と事前対応、生じた問題点に対する反応、これが専門医の技能であると思います。
そしてハイリスクハイリターン、ローリスク・ローリターンが基本です。ローリスク・ハイリターンを期待される人が多いのですが、魔法のような治療はありませんし、もしそのような方法があるのであれば、全ての医療機関がその方法のみを実施しているはずです。
多種多様な選択肢があるほど、それだけ治療が難しいという事になります。
アンチエイジングと部分痩身(局所脂肪融解)、今この2つはある程度のことができるようにはなっていますが、解決したわけではありません。
アンチエイジングで言えば、本当の若返りは不可能であり、外見上若く見せる手法があるだけです。シミを完全に除去しても一生シミの出ない肌にはできません。たるみを手術で除去してさえも、年が経てばまた弛んできます。加齢という時計をピタッと止める方法はないのです。

安価で安全で確実、効果が大きな治療、そんなものは存在しないのが美容医療です。どのような治療にも欠点があります、リスクがあります。

手術などでも、本人の思い描く形にならないことも多くあります。理想とされる芸能人の顔に近づけたくとも、ベースとなる骨格や皮膚質、様々なものには個体差があり、それを完全に一致させることはできません。イメージと違うという主観的判断もするでしょう。気に入らなかったら、手術後1週間程度で腫れも残っている状態で、早く治したい、再手術したいと言う人もいますが、ゲームがリセットできるように元に戻すことなど不可能なのです。切って縫い直せば、人体は創傷治癒という反応、炎症などが生じます。癒着も起こります。もとの手術前の皮膚とは異なるのです。このような反応が落ち着くには早くて3ヶ月、通常半年から1年はかかります。待たずに再手術をして傷が不自然に歪んだり、異常な癒着を生じている例を多数見ています。再手術をした医師も、その点を患者サイドに何度も念押しし説明して手術をしているにも関わらず、本人はその事を全く理解していなくて、「思ったのと違う」と、また即再手術を求めて他院にカウンセリングに行くという悪循環に。
レーザーでも肌に強い反応が起こりしばらくは待った方が良いのに、即次の治療を求めたり、リスクとして医学的説明を受けても、自分にそんなことは起こらないと思ったと感じたり。

消しゴムで消すように元に戻せないのが人体組織であり、また不確定要素があって、経過に時間がかかるのが人体組織です。人の体にはリセットボタンはありません。



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