天(20)五つの者を天下に行うを仁と為す
子張、仁を孔子に問う。孔子曰わく、能(よく)五つの者を天下に行うを仁と為す。
之を請い問う。
曰わく、恭寛信敏恵なり。恭なれば則ち侮(あなど)られず、寛なれば則ち衆を得、
信なれば則ち人(ひと)任(にん)じ、敏なれば則ち功(こう)有り、
恵なれば則ち以て人を使うに足る。
陽貨第十七 仮名論語264頁7行目です。
伊與田覺先生の解釈です。
子張が、仁について先師に尋ねた。先師が答えられた。「五つの事を天下に行うのを仁という」子張は「五つの事とは、どういうことですか」と尋ねた。
先師は答えられた。「それは恭寛信敏恵だ。うやうやしければ、人から侮られない。ゆったりとしておおらかなれば、民衆は慕ってやってくる。まことを以て接すれば、人から頼られる。きびきびと行動すれば、業績があがる。恵みが深ければ、人を気持ちよく働かせることができる」
この章では、「天下」として出てきます。「五つの者を天下に行うを仁と為す」天下とは、全世界を意味する概念です。、地理的限定のない空間のことですが、孔子の生きた時代では、周王朝の版図と考えて良いでしょう。
子張が仁とは何でしょうかと孔子に質問しました。「能(よく)五つの者を天下に行うを仁と為す」・・・孔子はこう答えられました。五つの事を世に行うことができれば、それが仁・人の道である。と。「之を請い問う」・・・子張は、その五者をどうかお教えくださいとお尋ねしました。
「恭寛信敏恵なり」・・・孔子はこう述べられました。それは恭・寛・信・敏・恵である。
「恭なれば則ち侮(あなど)られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人(ひと)任(にん)じ、敏なれば則ち功(こう)有り、恵なれば則ち以て人を使うに足る」・・・恭・己を慎み驕らなければ、人に侮られることがない。寛・度量が広ければ、人の心を得られる。信・現行一致であるならば、人は信任するぞ。敏・すぐに実行するならば、功績があがる。恵・財物を惜しまず分け与えるならば、労に酬いるので人を十分に使うことができる。と。
上に立つ者は、五つの徳を身に付けなければいけません。それを実践するのが仁なのです。その五つの徳が「恭・寛・信・敏・恵」なのです。
1. 恭なれば侮られず。・・・礼儀正しければ人々に敬われる。
2. 寛なれば衆を得。・・・寛大であれば人望が得られる。
3. 信なれば人任ず。・・・誠実だと人から頼りにされる。
4. 敏なれば功あり。・・・機敏であれば仕事が上手くいく。
5. 恵なれば以て人を使うに足る。・・・思いやりがあれば人々は喜んでその使命にしたがう。
政治との関係でも「信」の大切さについて言及しています。
この章は私にとって特別な章でもあります。平成13年10月神戸で行われていた。論語を楽しむ会の5周年記念事業として開催されました。伊弉諾(いざなぎ)神宮参拝と記念講演会のお世話をさせていただきました。その時の代表世話人の仁出川さんよりいただいた伊與田先生揮毫の色紙に書かれているのがこの章です。私の名前の中に「寛」が入っているので、この章を選んで書いてくださったのでしょう。私の宝物の一つです。
つづく
宮 武 清 寛