橋本聖子さんが、あらたに東京オリパラ組織委員会の会長に就任しました。直面する問題は、コロナ禍で、変異株が世界でも日本でも広がる中、果たして安全な大会が開催できるのか、という難問です。

 

 東京オリパラが感染拡大の場にならないか? 現在、組織委員会で検討されている内容をみるかぎり、感染拡大の場にならない保障はない、と言わなければなりません。

 

 中間まとめをみると、例えば選手については、

 

●出国前 出国前(72時間以内)に検査を受検し、「陰性」の検査証明を取得 

   ※検査証明を取得できない国の扱いは更に検討 

   入国前14日間の健康モニタリングの提出を求める 等 

●入国時  空港において検査を受検(検査結果判明まで、指示した待機場所に留まる) (注:入国拒否の対象国・地域からの入国者に限る) 

●入国後14日間 行動管理と健康管理。 選手村と競技会場、練習会場等の間を原則として専用車両で移動。但し、公共交通機関の利用がやむを得ない場合は限定的に利用(航空機、新幹線等)

 など、ルールがまとめられています。

 

 

 果たして、これで、万全でしょうか。

 

 第一に、ご存知のとおり、あらゆる検査には、偽陰性がつきものです。新型コロナの場合でいえば、例えば、感染直後はまだウイルスが増殖していないため、感染していても検査でわかることはまずありません。また、どこでウイルスが増殖しているかによっても、感染者が陰性とでる場合があります。いまは唾液のPCRや鼻咽頭のPCRが中心に使われています。東北大学の赤池教授の呼気検体を使った研究では、PCR検査で唾液検体陰性、呼気検体陽性の方もいます。その検査でも唾液PCRの方が陽性者を把握できる率は高いですが、エアロゾル感染がクラスターで大きな役割を果たしていることを考えると、呼気検体で陽性になる方を唾液PCRでは逃すケースがあるというのは大きな課題です。さらにいえば、検体がうまくとれているかどうかなどでも検査結果は左右されます。

 

 出国前72時間以内に検査をしても、感染者のうち数割は陰性となりますまた、検査後に感染する場合もあります。

 

 第二に、長時間の航空機搭乗のリスクです。航空機でクラスターが発生した事例が早くから感染研が紹介しています。マスクをせず咳き込んだ人がいた場合で、10メートルぐらい離れた席の人まで感染していることがわかっています。マスクをつけていれば、リスクは下げられますが、長距離の航空機の場合は、機内食を食べる際には、どうしてもマスクをはずす時間があります。

 

 例えば、こんなケースが考えられます。

 感染直後に出国前検査をおこない、偽陰性だった方が、航空機に気づかないまま搭乗する。発症2日前から人に感染させますので、航空機内で感染が広がるというケースがありえます。もり、かりに、その方が、下気道でウイルスが増殖していて、呼気に大量のウイルスが含まれるスーパースプレッダーだった場合は、航空機でのクラスタ発生という可能性も排除されません。

 航空機内で広がった感染は、感染直後ですから、入国時の検査では確認されません。もちろん、入国時の検査で、はじめの感染者の方は、陽性が確認される可能性は高いでしょう。同乗した選手は、各自、2週間、部屋での待機ということになり、体調をととのえて競技をすることもかなわず、場合によっては出場ができないケースも生まれるかもしれません。もしはじめの感染者が、入国時の検査でも偽陰性になった場合は、選手村、競技会場、練習会場などに、共用の換気の悪いスペースがあれば、そこで感染が拡大する可能性も否定できません。

 

 危機管理の要諦は、最悪を想定することといわれます。

 

 変異株が国内に広がる中、検査頼みの水際対策がいかに、脆いものなのかということをつきつけられています。