もともとはトヨタの「かんばん方式」に代表されるように、製造業において在庫を圧縮し、短納期で、多品種・少量生産と、コストダウンの実現を目指す、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」生産(供給)するという生産管理手法として発達しました。
その後、生産現場だけではなく、物流や大規模小売店やコンビニエンスストアなどにも取り入れられ、ITシステムによる「SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)」が、ジャスト・イン・タイムをテクノロジー面でサポートするものとなりました。
1980年代にMITで行われた日本の自動車産業の研究において特に注目されたのは、ジャストインタイム生産システムに代表されるムダを徹底的に排除したトヨタ生産方式で、頭文字をとって「JIT(ジット)」とも呼ばれます。トヨタ生産方式では7つのムダを定義し、それらを減らす・無くすことに注力しています。
1.作り過ぎのムダ
2.手待ちのムダ
3.運搬のムダ
4.加工のムダ
5.在庫のムダ
6.動作のムダ
7.不良をつくるムダ
米国での方式で、はこのムダを「”会社と言う名の巨人”についた贅肉」と見立て、「贅肉のとれたスリムな状態」で生産活動を行うことを目指す生産方式として、「贅肉のとれた」の意であるlean(リーン)を用いてリーン生産方式と命名されました。
1990年代に入り、リーン生産方式はアメリカの製造業に広く普及し、2000年代に入って日本へも紹介されるようになりました。日本発のシステムがアメリカより逆輸入された格好です。これはリーン生産方式がMITによって再体系化・一般化されており、そもそもが逆輸入な文化である事から、日本の側で受け入れやすいものでした。生産管理の分野のみにとどまらず、それらを包括的に含む文化というものそれ自体が、常に被分析性を持つものであり、研究され、淘汰・再編される事で進化し続ける例といえます。
中国のCHAMにおける2020年5月のストライキ事件は、日系自動車メーカーで推奨されているリーン生産方式(トヨタ生産方式)に潜んでいる潜在的な問題点を浮き彫りにしました。
顧客満足を求めるとともに、絶えずコストを削減していく、というのがリーン生産方式への一般的な理解ですが、ここでいうコスト削減は決して単なる人件費の抑制ではなく、「持続的改善」や「ムダ・ムリ・ムラ」の排除、「自働化」などの手段で進められるものです。しかし、中国人の国民性や価値観、教育背景、文化背景などは日本と大分違っており、日本で成功を収めたリーン生産方式を発展途上国の中国にそのまま導入しても成功しません。
リーン生産方式を実現するには、スキルや経験、改善意識、モチベーションなどの面で全社員の仕事に対する要求が高くなりますが、賃金の低い作業員に対する高い仕事の要求そのものは一種の「ムリ」となります。長い目で見れば、作業員の定着率向上・レベルアップに不利な低賃金策は会社の発展を阻害するものといえます。
企業は最小限のコストで最大限の利益をあげること自体は間違っていません。利益の最大化と作業員の合理的収入との間でいかにバランスを取るかなどの問題を考慮に入れながら、リーン生産方式の具体的やり方を各国の国情に合わせるように調整しなければならないということであり、従来の分析には無かった要素です。
日本の産業を空洞化させて、海外で日本式生産方式を実現しようとしても、そのまま実現できることには困難が生じてきました。日本も国内生産を見直すべき時になってきたといえるでしょう。