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島根に、半永久的に使える炭の蓄電技術を実用化するプロジェクトがあるらしい。

 

2ヶ月くらい前に、

Big Lifeの2年前の記事をシェアしたことがきっかけで、Big Life編集社を経営する加藤俊さんのコーディネートで実際に製作現場を訪れることが叶いました。

 

岡山・吉備中央町を出発して車で2時間ほどで松江駅に到着。

ここで加藤くんと合流。

さらに30分ほど車を走らせて、雲南市の道の駅「たたら1番駅」へ。ここで、この蓄電池の製作現場とPRを担当する住民団体「里山照らし隊」の影山邦人代表と待ち合わせ。

 

松江工業高等専門学校電気情報工学科の福間真澄教授、県産業技術センター、そして総合建設業(株)サンエイトによる産官学の共同開発によるこの蓄電池の、PRデザインや実際の製造工程の管理を担当しているのが、影山さん。

 

松江市内にデザインオフィスを構えますが、もともとは雲南市の山間部の出身。生まれ育った山と川と人、里山の資本を蓄電池の製造工程と結びつけることで、過疎の進む地域の活性化を図っています。

 

早速、この道の駅にある実用モデル機を案内してもらいました。

 

 

 

原理は極めてシンプル。

炭の多孔質(ポーラス構造)の穴が電気を吸着して、放す。

 

炭蓄電池の大きな特徴の1つに、急速充電が可能であるということがあります。

 

発電源にソーラーパネルを使う場合、まとまった晴れ間が少なく、常に雲の切れ間からの太陽光をあてにしなければならない山陰の気候では、充電の速さはとても重要です。

 

USB端子も付いているので、携帯などの充電にも使えます。

 
現在生産している蓄電池単体は12㎏で、25Whを充電可能。蓄電量はまだまだ小さい(エネルギー量はリチウムイオン電池の1/50)ので、重量、形状ともに大きくなってしまいますが、水に濡れても平気で、氷点下でも作動し、炭なので当然ながら熱にも強い、という特徴は、屋外に常設する上では大きなメリットで、とりわけ災害時に力を発揮します。

 

リチウム電池のように発火の恐れがなく、物理的破損がない限り、働きを維持できる=とても頑丈で長持ち。(メンテナンスフリー)

 

これまでのバッテリーは、数年で寿命がきて交換していたわけですが、炭バッテリーは、電極部などの部品さえメンテしていれば、半永久的に使える。

 

基本的な材料は、

・炭(木、竹)

・紙

・鉄板

・電解質の水溶液(水酸化カリウムなど)

だけなので、日本中の中山間地域での手作りが見込めます。

 

実際、特許は取っていますが、影山さん曰く「これで儲けよう、という考え方よりは、日本各地の中山間地域で同じようなことが応用できる可能性の方に意味を見出しつつある」。

 

グローバリズムにのみ込まれようとしている社会において、金融や発電まで地域で営むローカリゼーション勃興の起爆剤になるのではないか、という期待が僕の中にもあります。

 

今後、炭のエネルギー密度を高めることができれば、ものすごい可能性を秘めているわけです。現在のところ今の2倍までは見込めているらしいので、半分の大きさにはできるという事ですね。家庭に物置き小屋くらいの蓄電スペースがあれば、ソーラーや小型風力、水力などを混合した自家発電によるオフグリッド化が可能になります。電線から、生活を独立させることができるわけです。

 

この「可搬式屋外LED照明 くえびこ」は、1時間の充電で6WのLED電灯を5時間から10時間、点灯させることができます。

 

使用されている炭バッテリーは4個。

その名も「TANDEN」(2017年 特許取得/製造・構造)

 

 

地元で伐採した竹や木を炭にして、作られています。

 

裏山にある雑木や竹を伐採して乾燥させる。

 

製炭器で炭を作る。

 

パウダー状にした炭を賦活(ふかつ:活性化)処理する。

 

水酸化カリウムなどの水溶液(電解液)を染み込ませて、板状にします。

 

6枚セットで梱包。

 

完成。

 

 

 

【製作現場へ】

 

モデル機を取り囲んであれやこれやと質問を始めようとする僕らを冷静にいなして、影山さん。

「まずは工場へ行きましょう」

 

 

道の駅から車で程なく、山あいの田んぼの中にポツンと建つ小さな小屋が、無限の可能性を秘めた炭蓄電池のファクトリー。要するに農家の物置き小屋に、地元の人たちが集まって、手作りしているのです。

 

影山さん、そして里山照らし隊の副代表である須山光雄さんから製作過程を丁寧に説明していただきました。

 

 

建物の中には、意外な機械があったりして「おー」と盛り上がったりしましたが、一応、企業秘密的な部分もあるということで、写真の掲載はNG。ただ、今後はこの製作工程を短期間の泊まり込みで手伝ってもらって、習得してもらうようなワークショップのあり方も検討しているそうです。

 

 

Satokenスタッフや吉備中央町の地域おこし協力隊を務める面々、食い入るように作業工程を見学する僕らに応えるように、熱量の高い説明を施してくださいました。

 

手つかずの山林の活用が大きなテーマである里山エリアにおいて、木炭や竹炭が蓄電(=地域内発電)につながるのであれば、形状が大きいものであっても土地の広い田舎では、経済的にも環境的にも計り知れない貢献が期待できます。

 

 

三層式の炭焼き釜

 

 

【「この時がきた」という思い】

 

その後、影山さんの実家の方にお邪魔して、色々とお話を聞かせてもらいました。

 

 

36台の蓄電池をつないで60W電球を点灯した時の様子とか。

 

昨年の西日本水害の際に派遣した「くえびこ」へ、総社市長からの御礼状とか。

 

草刈り応援隊 などの地域おこしのこととか。

 

そして気がつけば三里塚闘争や成田闘争の話になっていたり。

 

69歳、70年安保世代の影山さんは、東京での学生時代を経て30代で地元の島根へ戻ってきてから、どこかずっと充足しない思いを抱えて生きてきたと言います。僕はそれは「社会貢献のニーズ」が充たされていなかったんじゃないかと思います。テクノロジーとエネルギーが、ひたすらグローバルに、そして先端に突き進む時代の中で、影山さんたちが当たり前に生まれ育ってきた自然環境や人間の関係性が破壊されていく。確かにマテリアルは豊かになったかもしれないが、本当にこれで良かったのだろうか?経済成長の限界が見えて、原発事故のような深刻な環境汚染を抱える現代に至って、この炭蓄電池の普及に携わるようになってついに「この時がきた」という思いがあるそうです。

 

実際、プロジェクト全体のデザインのクオリティの高さが、この炭蓄電池を理解しやすいものにしているし、デザイナーとして培ってきた感覚と情熱をクールに注いでいるポジションの人がちゃんといることは、とても重要。

 

僕は音楽でも、選挙でも、デザインは全てのイメージ戦略の始まりで、アーティストや政治家という、ある種の共同幻想のパワーを扱う営みの中では、チームや組織を作る上でも、デザインの力、デザイン論(ひいてはシステム論)の重要性を実感する日々。

 

 

影山さん、こう見えて山村育ちなので、犬の扱いも慣れていました。家の中まで自由に上がってOK、しっかり匂いをつけて、留守にイタチなんかが入ってきてイタズラするのを防いでくれよ、と。

 

 

里山照らし隊のTeeシャツと共に記念撮影(撮影:加藤俊)

 

僕らの社団法人「里山経済・環境研究所(Satoken)」で、1つの実用モデルとして、この蓄電池を販売していただけないか、検討してもらえるようにお願いしてきました。「くえびこ」システムが40万円、「TANDEN」が1機4万円と、今はまだコスパも高いので、まずは市役所であるとか行政の予算でプロモーション的に買い取って実用してもらうのがメイン。しかし、因島のゲストハウスへの設置も予定されているとのことで、エネルギー効率やコストよりもこの炭蓄電池の可能性に価値を置く人たちの実用が、技術進化にも貢献していく段階。

 

大きな企業の力で爆発的な技術進化を期待するよりも、小さな地元で誰もが生産できる方法論の進化を重視したい。近頃、僕が「ローカリゼーション」というキーワードで捉えていることと共通するお話でもあったな、と思っています。手の届かない大きなシステムを変えようとするエネルギーを、手の届く身近なシステムの変革に注ぐ。理想論ではなく、現実的な変化を起こすアプローチが、消滅危機に瀕する日本中の里山から、起き始めている気がしています。

 

 

時間が経つのも忘れて話し込んで、日もすっかり暮れた7時頃にお暇をして外に出ると「くえびこ」の明かりが優しく灯っていました。満天の星空と、それを邪魔しないやんわりとした照明の存在が印象的でした。

 

影山さん、須山さん、加藤くん、そして同行のみんな。

ありがとうございました。!

 

炭蓄電池、やはりそのポテンシャル間違いなし・

今後も、実用、普及に向けて、コネクトしていきたいと思います。

 

みんなで雲南市吉田町に泊まり込みでお手伝いに行くツアー、なんぞも計画できるかもしれないですね。

 

 

 

 

 

 

半永久的に使える“炭”蓄電池で、日本の地域エネルギーを変えよ!(BigLife)

http://www.biglife21.com/society/12616/