人間の心は願う気持ちはだれでも一緒なんだと思いましたね。
お国が違ったり、肌の色が違ったって、この同じ地球の上に住まわせてもらっているんだからね。
そこのところを真摯に考えていけば、人類の未来はきっと明るくなると思いますよ。
酒井 雄哉(さかい ゆうさい)
違いを乗り越える
池上
人が憎みあったり、争わないためにはどうしたらいいでしょうか。
酒井
1995年にイタリアのキリスト教の聖地・アッシジのサンフランチェスコ教会を訪ねたことがあるんです。
ちょうどその時、教会では世界平和会議をやっているって聞きましてね。
ぼくはいつも山を歩いていて、世界平和や国家安穏を祈り、千日回峰行をさせてもろうてましたから、それを聞いたら、いてもたってもいられない気持ちになってね、いきなり断りもなく、お加持をはじめたんですよ。
宗教色の違うぼくが突然拝み始めちゃったんだから。
現地の人たちは、皆驚いてしまったんだけど、お加持が終わると、協会の総長さんが、ぼくに近寄ってきて握手をしてくれて、
「結構なお祈りでした。これから自分たちは式典があるから、後から食事に来てください」って誘われましてね。
人間の心は願う気持ちはだれでも一緒なんだと思いましたね。
池上
不思議と、キリスト教も仏教も、祈るときには両手を合わせますね。
酒井
先ほど言ったみたいに、受け取り方や解釈、考え方でいろいろ違うことはあるけど、それでも拝むという気持ちは共通なのかもしれません。
はるか昔からの争いで、領土を取ったの取られたのとかいうのはおいといて、みんなが心を一つにして、人類の平和を願えば、地球上の戦争はおさまるんじゃないかなぁと思いますけどね。
池上
人は、拝むことで通じ合える。
酒井
そして、相手をよく知ることも大切だと思います。
ぼくは、千日回峰行をニ度満行して、その後も伝教大師(最澄)や慈覚大師(円仁)の足跡をたどって国内や中国を歩いたり、バチカンやインドなどの世界の聖地を巡礼したりしてみて、知らなかった人たちと接して、たとえ言葉がうまく通じなくても、気持ちは届きますから、じかに見て、触って、話してみて、初めてわかることはたくさんあるんですよ。
池上
私も現地を訪ねて、実際に大勢の人と話し、今まで抱いていたイメージが変わったということがよくあります。
酒井
お国が違ったり、肌の色が違ったって、この同じ地球の上に住まわせてもらっているんだからね。
そこのところを真摯に考えていけば、人類の未来はきっと明るくなると思いますよ。
千日回峰行
比叡山中を千日間、回峰巡拝することで知られる天台宗独特の修行法。
満行には約7年間かかる。
天台宗第三世座主、円仁が839年、遣唐使として唐に渡り、山西省五台山で修行。
その行を帰国後、弟子の相応に伝授、相応が天台宗の教養と日本古来の山岳信仰の流れを加え、原型をつくったとされている。
初年から3年は山中二百数十カ所を巡拝しながら、 1日30〜40キロの道程を毎年100日歩く。
4〜5年目は毎年200日、計700日の回峰をする。
700日の回峰行を終えると、不動堂に9日間こもり、断食、断水、不眠、不臥で不動明王の真言を10万回唱える「堂入り」という行が課せられる。
6年目は1日60キロに。
最終年の前半100日は山中と京都市中85キロ、後半100日は山中30〜40キロを歩く。
7年間で歩く行程は延べ約4万キロ、地球1周分に相当する。
酒井 雄哉 池上 彰『この世で大切なものってなんですか』より一部引用以上
真言宗の声明とグレゴリオ聖歌のコラボレーション
世界平和という大きな目的のために違いを越えて共に祈りを捧げること
地球に住まわせてもらっている者の一人として今出来ることを一歩ずつ
貫井投稿