人は心の中に退治すべき「竜」を抱えている
ジョーゼフ・キャンベル
ビル・モイヤーズ
TVシリーズ『神話の力』より一部引用
モイヤーズ
アーサー王伝説や中世の騎士物語に出てくる竜の話には、子供の頃とても強い印象を受けました。
キャンベル
ヨーロッパの竜は貪欲さの象徴です。
竜は何でもかんでも自分のところに取っておこうとします。ほら穴に宝物を入れて守っているんです。宝物は例えば乙女や黄金の山です。
そのどちらも竜にとってはどうしたらいいかわからないものだし、役に立たないものです。
それなのにただ持っていたくて番をしているんです。
心理学的に言うと、竜は人を自我に縛り付けているものを表します。人間は自ら竜という檻の中にとらわれているんです。
精神科医の課題は、その心の内なる竜を退治することです。
束縛を解いてより広い人間関係が持てるようにするんです。
分析心理学の創始者ユングのところに来た患者で、孤独感を訴える女性がいました。
自分の気持ちを絵にしてみるようにいわれた彼女は、風の吹きすさぶ海辺で、自分が岩にとらわれている絵を描きました。
腰から下が岩に埋まっていて、生命力の象徴である黄金は全て岩の中に閉じ込められていました。
しかし、ユングと話し合った後、描いた絵には、彼の言葉の影響が見られました。
その絵では、突然の稲妻が岩を一撃しています。そして、黄金があふれ出しているんです。
もう岩の中に閉じ込められた黄金はなく、岩の表面のあちこちに出てきています。
ユングが彼女と話し合った結果、その表面に出てきた黄金の正体がわかりました。それは彼女の友達だったんです。
彼女は孤独だったわけではなく、自分を小さな世界に閉じ込めていただけで、本当は友達がいたんです。
わかりますか?これが竜退治です。怖れのように人を押さえつけているものが竜なんです。
少なくとも、ヨーロッパの竜はそうです。中国の竜はまた違いますがね。
モイヤーズ
というと?
キャンベル
中国の竜は水と生命力を表すんです。竜は腹をたたいて「ハッハッハッ」っていいながら現れます。それは水などの恵みをもたらす偉大な輝かしい存在です。
でも西洋の竜は人をダメにする良くないものです。
モイヤーズ
ということは、もしそこに竜がいたらそれは?
キャンベル
真の竜は心の中にいます
モイヤーズ
真の竜というのは?
キャンベル
人を押さえつける自我です
モイヤーズ
自我とは何ですか?
キャンベル
自分が望むもの・信じているもの、自分にできること、自分が愛してると思っているもの、また、自分が人生の目的とみなしているものなどです。
それが小さすぎると人を束縛します。それが竜なんです。
また、もし自我が周囲の言うがままになっているようなら、それは間違いなく人を束縛します。
自分を取り巻く環境が竜になっているんです。
モイヤーズ
一体どうすれば、竜を退治できますか?
先生は魂の高度な冒険をしなさいといわれますが、それはどういうことですか?
キャンベル
私がいつも学生たちにいうのは、「自分にとっての真のよろこびを追求しなさい」ということです。
無上のよろこびを怖れずに追い求めるんです。
モイヤーズ
それは一生の愛でしょうか?人生そのものでしょうか?仕事でしょうか?
キャンベル
もし、それが好きで選んだ仕事なら、この上なく幸せといえるでしょう。
でももし、こんなことはとてもできないと思いながらやっているなら、その仕事は人を束縛する竜です。
「あぁ、自分にはとても無理だ、だれそれのようには出来ない」なんて思うならね。
モイヤーズ
英雄は世界を救うために、私たちは自分を救うために旅をするんですね。
キャンベル
自分を救うことで世界を救うんです。
人間に活力が出てくれば世界も活気づきます。それは間違いありません。
世界を変えるにはその仕組みや法則を変えることだと思っている人がいますが、そうではありません。
世界は生きていなければいけません。世界に命を与えるには、ひとりひとりの人間が自分の人生を見つけて、活力を持って生きることだと私は思います。
ジョーゼフ・キャンベル
ビル・モイヤーズ
TVシリーズ『神話の力』より一部引用以上