花 294 | 舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

舞う葉と桜〜櫻葉・嵐綴り〜

腐女子向けのお話ブログです。

「PTSDって、聞いたことありますか?」
「はい。テレビとかで」
「まあ、櫻井さんはそれねってことです」
「………あー。はい」
「何となくは知ってると思うけど、一応説明すると、PTSDっていうのは、心的外傷後ストレス障害って言って、トラウマになるようなできごとを経験した後に始まる、日常生活に支障をきたす不快な反応のこと、です」
「………はい」
「櫻井さんの場合は主に繰り返しリアルに見る悪夢、不眠ですね。ちょっとのことですごく驚いたりは?」
「………うわ、それめちゃくちゃあります。音とか、ちょっと何か鳴るとビクって」
「うん、それもですね」
「………そう、ですか」





二宮先生の話は淡々と続いた。


PTSDっていうのは、なる人とならない人がいること。


すぐ治る人もいれば、長く治らない人もいること。


その理由は今もまだ分かっていないこと。


とりあえずは薬を飲んで、静養すること。


それから、PTSDとはどんなものかを理解すること。それはできれば家族や愛し合ってる彼と一緒に。





二宮先生。


聞こえていたのは分かったから、説明の合間にしっかりちゃっかり聞こえていた内容を挟むのやめてもらえますか?





って、ものすごーく言いたかったが、一応真面目な話の最中だったから、やめておいた。





「そういえば、知ってますか?櫻井さん。メンタルクリニックって看板出しといてアレなんですけど、心って別に本当にあるわけじゃないんですよ」
「………は、はい?」
「本当に人間の身体の中に心、精神っていうものがあるんじゃなくて、人には心っていうものが、精神っていうものがあるよってことに『一旦』しておきましょうってことなんです」
「え?えーっと………?」
「だって心も精神も、レントゲンやCTにうつらないでしょ?心や精神っていう部位が目に見える形であるわけじゃない」
「………ええ、まあ、そうですね………」
「言っちゃうと、心、精神って、脳なんです。脳みそ。でも、現代の科学では脳がまだまだ解明できていない。だから、一旦分かんない脳のことは置いといて、心とか精神っていうものがあるということにしましょうってことなんです。その方が分かりやすいから」
「………な、なるほど?」





二宮先生が何を言おうとしているのかがよく分からなくて、でも一応話の内容的には理解できるから、自分でもなんともマヌケな返事になったなと思った。





なるほどの語尾が上がった俺を、二宮先生がくすって笑う。





「心ってものがあるってことにしてアプローチするから、PTSDなんて難しく言ったけど、めちゃくちゃ簡単に言うと、要するに櫻井さんの脳みそが、櫻井さんの身体の大けがにショックを受けて、誤作動してますよってことです」
「………脳の誤作動、ですか」
「脳の誤作動です。以前もありましたよね。パワハラで」
「あ、はい」
「それがまたちょっと出てきちゃってますねってことで、その誤作動はこういう薬で楽になっちゃったりするんです」
「あー………」





何か。





二宮先生のくだけた説明で、何かが少し分かった気がした。





以前はパワハラ、今回はコロされかけたっていうことをきっかけに、俺の脳が今普通じゃない動きをしているということだ。


何かが過剰に出ていたり、何かが極端に少なかったり?と俺は思った。解釈した。





でもその何かっていうのは、今の科学とか技術とか、そういうのでは分からなくて、でもでも、脳が誤作動をしなくなれば、過剰に出ていたり、極端に少なかったりしているだろう何かが正常値に戻って、悪夢を見ることも無くなっていくってことか。





しかも俺思ったけど。気づいたけど。


心とか精神って言われると、目に見えない領域のすごくあやふやで、手に負えないような問題に思えるけど、そうじゃなくて脳って言われると、実際にある身体の一部で、だから薬だって効くって分かって何か。





楽、だな。


調子悪いから薬飲んどこ。みたいな気楽さ。





今まではあやふやでふわっとしていて不安が大きかったのに、脳の誤作動だよ。脳の調子が悪いんだよ。だから薬飲もうね。って。





「変なもの食ったら下痢になるでしょ?風邪をひいたら熱が出る。くしゃみ鼻水が出る。症状が軽い人もいれば重い人もいる。でもその症状ってのはさ?身体を元気にするためのものじゃない」
「はい」
「だから櫻井さんのその脳の誤作動も、誤作動って言っちゃったけど、そうじゃなくて、櫻井さんを良くしようと頑張った結果、出てる症状なのかもって、ちょっと思ってる。俺はね。櫻井さんだけじゃなく、ここに通ってるみなさんにね」





変なものを食べたら下痢になるように。風邪をひいたら熱が出るように。くしゃみ鼻水が出るように。


今回、はっきり診断されたPTSDも、俺を良くしようと。治そうと。俺が。俺の身体が。脳が。





なるほど。





さっきの話もなるほど。


こっちの話もなるほど。






「………そうかも………しれないですね」





同意した俺に二宮先生は、ではまた2週間後に来てくださいねって、にっこり笑った。


表情が少し明るくなって良かったです。とも。





ありがとうございましたって、俺は立ち上がってから腰を折って頭を下げた。





来たときより結構、スッキリした気分になった気がした。










昨日プロデューサーにこれを提出したら、プロデューサーがさすが二宮先生って言ってくれたんだけど………。

待って、書いてるの私なんだけど‼︎え、私のことは褒めてくれないの⁉︎ってこっそりなりました(笑)こっそり。

ってことで米では私のことも褒めてくださいゲラゲラ←うざ‼︎