「大学から戻って、車をおりたところで雅紀の声がしたんだ」
「え?オレ?」
「そう。雅紀の声で。『しょーちゃん、来て‼︎オレンジくんが大変なんだ‼︎早く‼︎』って」
「オレ帰ったの、しょーちゃんより後だよ?しょーちゃんの車あったもん」
「うん。俺も雅紀の姿は見てない。声だけでさ………」
そこで一旦黙った。お互いに。ふたりで。
何て言ったらいいのか分からなくて。
でもって、何を言っても、何か違う気がして。
確かに俺はシにかけた。
コロされかけた。
雅紀が大切に大切に育ててきた、自己管理ができる奇跡のオレンジの木に。
でもそこには、雅紀も想定していなかった雅紀を想う心があって、それが故の強行………暴走。
それは下に弟妹が生まれた小さなお兄ちゃんが、母親を取られたと思いする、嫉妬のような。
もしくは自分の恋人やパートナーへの剥き出しの独占欲のような。
どちらにしても、幼い、幼稚、未熟などの表現がぴったりな気がする。
それでも、オレンジくんは雅紀が好きだった。
だから俺にとられたくなかった。
本当にただ、それだけなんだ。
「………ごめんね、しょーちゃん」
「ん?」
「オレのせいでしょーちゃん、こんなケガをした。オレのせいでシにそうになった………。ごめん。オレ全然知らなかった。オレンジくんがそんな………」
その先を、雅紀は多分、何て言えばいいのか分からないのだろう。
その先の言葉は、少し待ってみたけど、続かなかった。
「知らなかったんだから、仕方ないよ」
「………そうだけど。でも………」
「分かんないけど、オレンジくんも分かんないようにしてたんじゃない?雅紀の前では、ただのオレンジのフリをしてた」
幼く幼稚で未熟ではあっても、知能は高そうだった。っていうかきっと高かった。
雅紀の前では完全にただの動くオレンジの木で、そうじゃないことが雅紀にバレないようにしていた。
でも邪魔な俺に的確にダメージを与えてたし、俺を騙してハウスに誘い込んで排除しようとしていた。
知能と行動のチグハグさがすごい。
大人と子どもが混在しているような。
もしもオレンジくんの葉っぱが本当に盗聴器だったのなら、おそらくオレンジくんは、自分の異常性を理解していた。
嫌われたくなかったんじゃないか。
雅紀に。
大好きな大好きな、雅紀に。
って、これは完全に俺の想像だけど。
………バカだな。
雅紀が『たったそれだけのこと』で、オレンジくんを嫌うわけないのに。
だって、あんな超絶強そうな宇宙人相手に平然とブッコロスとか言っちゃう子だよ?
オレンジくんが自己管理以外もできるって、考えたりしゃべったりできるって分かったら、絶対すごく喜んでくれたよ。
毎日毎日、それこそずっとおしゃべりしに来てくれたよ。
雅紀ってそういう子だろ?
っていうのは、幼く幼稚で未熟だから、分からなかったんだろう。
そう思うと、やっぱり胸が痛む。
「オレンジくんは、本当に枯れちゃった?」
「うん………枯れちゃった。風間ぽんに写真送ってもらったよ。見る?」
「うん。見たい」
風間さんに。
ってことは出禁は解消されたのか。
解消というか、何というか。
「………」
雅紀のスマホで見せてもらった写真。
オレンジくんは、葉も実も枝も樹も全てを茶色く枯らし、地面の上に横たわっていた。
まるで生きていたもののように。
………俺がコロしたんだ。
「………ごめん、雅紀。まじでごめん」
謝ってすむことじゃないけど、俺には、謝ることしかできなかった。