ひゅんって音は、俺の気にし過ぎ説がどうにも拭えないためとりあえず置いといて、俺はすぐ雅紀に話した。
オレンジくんの調子が戻らない理由は、もしかしたら俺かもしれないってことを。
オレンジくんがいない方のハウスに向かっていた足を、雅紀は止めた。そして、え?って顔。
だよな。そうだよな。普通その反応だよな。
はっきりきっぱり言ってそんなの信じられないよな。
どういうことだよって、言っていて俺も思う。自分で思う。
けど、他にない。何もない。
雅紀は言った。『何言ってるの?しょーちゃん』って。
「俺もそう思う。何言ってんだ?俺って。でも雅紀、何事も現実が答えだ。実際問題今と以前で何が違うかって俺なんだ。俺しかないんだよ」
病気じゃなく、外的な要因でもない。
そして全盛期と同じルーティンで一定の効果があったのだから、あとは。
「仮にそうだとして、どうするの?オレやだよ。今さらしょーちゃんと離れるのなんて」
「………雅紀」
え、ちょっと待って。
地味に嬉しいんだけど、それ。
いや、だいぶ派手に嬉しいんだけど、俺。
時々マンションに戻りつつも、マンションに戻るときも雅紀と一緒だから、今俺たちは毎日一緒にいる。四六時中一緒にいる。
それがとんでもなく普通になってしまっていて、それが日常になってしまっている。
「俺だって雅紀が居ない毎日なんてもう考えられないよ。考えたくない。でも、俺のせいでオレンジくんが不調なら、今は少し持ち直してるけど、でも、今後俺のせいでオレンジくんに何かあったら………。俺は絶対、俺を許せない。俺、雅紀にとってオレンジくんがどれだけ大切か分かってるつもりだよ。そしてオレンジくんが世界中がひっくり返るぐらい、とてつもない可能性を持った価値ある奇跡の木だってことも」
だから検証してみよう。
まず1ヶ月、俺という存在をここから消そう。オレンジくんの前から消そう。
それで効果があったら、俺が原因ってことだから。
って一生懸命言っているのに、言っていたのに雅紀は‼︎この子は‼︎
「やだ。絶対やだ。絶対無理。オレからしょーちゃんを奪ったらオレそっこーで抜け殻になるから。何もしない。何もやらない。何もかも放置する」
「………雅紀」
え、ちょっと‼︎
ちょっと待って、まじ待って‼︎
どうしよう、地味に嬉しいんだけど。
いやいやめちゃくちゃ派手に超派手派手に超絶嬉しいんだけど俺‼︎
俺は思わず雅紀の手を握って引っ張ってソイ御殿に向かって、玄関を入ったところで雅紀を抱き締めた。雅紀いいいいいって。
そしてしょーちゃん?って不思議そうに俺を呼ぶその唇を、思いっきり自分の口で塞いだ。
一瞬で理性ってやつがぶちって切れて飛んだよね。まじで。
もう『雅紀いいいいい‼︎』って、それだけでいっぱいになった。
ソイ御殿のここ、玄関じゃ、危ないのに。
風間さんは事務所に居たから大丈夫だと思うけど、横山さんはいつもいつ来るか分からないから、こんなところを見られたら。
けど、あんなのを聞かされたらな。
な?
な⁉︎
しばらく農耕なキスを雅紀にお見舞いしてから、じゃあせめてしばらく香水をやめることと、オレンジくんの前で俺の話をしないことにしてみようと。
どっちも雅紀は渋ったけど。相当。
めちゃくちゃイヤな顔をしたけども。
っていうか、オレンジくんに俺の話してる?って聞いたら、そうかなとは思っていたけど、予想通りうんって言ったしね。この子ね。
「ちなみに何の話?って聞いていい?」
「ん?今日もしょーちゃんの顔は最高だよー。真面目な顔も笑った顔もいいけど、オレにぴーされてるときの顔はめちゃくちゃかわいいし、オレにぴーしてる顔なんか最高過ぎて最高なんだよねー。オレあの顔見てると何回ぴーしてもぴーしちゃうんだよ。とか?あとはしょーちゃんとキスするのも気持ちいいんだよー。しょーちゃんキスの最中絶対目開けてるんだよねー。オレはわりと瞑っちゃうんだけど、時々目開けるとしょーちゃん絶対うっすら目開けてオレを見てるんだよね。あれもすごいゾクゾクしてすぐぴーしちゃうー。とか」
「………え?」
「ん?」
「俺、いつも目開けてる?」
いや、違う。
それを聞きたいんじゃなくて。いや、聞きたいけども。
うんって返事と共に、今度は俺が雅紀からキスを喰らった。農耕なのを。
途中一回離れて、ほらって。
おお、確かに。
たーしーかーにー開いてる。見てるわ、俺。キスの最中ずっと雅紀を。
知らなかった。
自分のことなのに、全然。
「っていうかキミはオレンジくんに何てことを………」
「だってしょうがないじゃん。しょーちゃんの話したいんだから。あとはねぇ、しょーちゃんがもうちょっと元気なパオンだったらいいのにーって。そしたらオレたちとっくにぴーしちゃってるんだけどねーって」
「こらこらこら、そんなことまで」
「だって風間ぽんやきみちゃんに言っちゃダメでしょ?だからオレンジくんにしか言えないんだって」
「………なるほど」
それは確かに、風間さんや横山さんには、もちろん松本さんにも言って欲しくはないけども。だけども‼︎
何を話してるんだよ、本当にもう。まったくもう。キミは。キミって子は。
ああやばい。顔が。
顔がどんどんにやけていく。
かわいいなあもうって、どぅるんどぅるんだ。
「あ、そうだ、しょーちゃん。しょーちゃんのパオンが超元気になるようなにんにく作ろっか」
「………え?」
「にんにく以外何かあるっけ?パオンに効くもの。そういうの全部片っ端から、成分をすっごい濃縮させたやつ作ろうよ。濃いいいいいやつ。そしたらオレたち、今よりいっぱいぴーできるよ」
え?
な、何ですって?
俺がオレンジくんのために一時的にとはいえ身を引こうって話から、に、にんにく?パオンに効くもの?片っ端から?成分をすっごい濃縮させた?濃いいいいい?
え?
あ………あの………雅紀くん?
確かに俺はキミのパオンよりか弱いかもしれないけど、この年でこれだけって結構すごいんじゃね?ってね⁉︎実は俺は思ってますよ⁉︎
言っとくけど‼︎キミを基準にしちゃダメだからね⁉︎
キミはアレよ⁉︎紛れもなく絶の倫よ⁉︎キミがちょっとどうかしてるのよ⁉︎
「後で何があって何がいいか調べようね」
「それは………うん、まああの、いいんだけど………」
「香水は、やだけどしばらくやめてみる。オレンジくんにしょーちゃんの話も」
「うん。それは一回………1ヶ月ぐらいやってみて欲しい」
「やだけど………分かった。で、ありがとね、しょーちゃん」
「ん?」
「いっぱい色々考えてくれて」
「そりゃ俺の大事な大事な雅紀くんの、大事な大事なオレンジくんのためだから」
キスしてからそのままお互いの背中に軽く回していた腕の、雅紀の腕にぎゅっと力が入った。
入って、ありがとって、もう一回。
「でも、しょーちゃん」
「ん?」
「もししょーちゃんとオレンジくんが同時にピンチになったら………」
「え」
「オレは迷わず、しょーちゃんを選ぶからね」
「………雅紀」
あああああもう‼︎もうもうもうもう‼︎この子は‼︎
今日は一体どうしちゃったの⁉︎
今日はいつもに増して嬉しすぎることを言っちゃってくれてるんだけどこの子‼︎
おかげで顔が‼︎顔がね⁉︎
雅紀いいいいい‼︎って溢れる気持ちのまま思いっきり雅紀を抱き締めて、溢れる気持ちのままキスをしようとしようとしたその時。
ひらり
どこからか、まじどこからか、雅紀の足元に緑色の葉っぱが落ちたのが見えた。