何で。
彼女とは高校が一緒だった。仲良しグループのひとりだった。
高校を卒業しても、連絡を取って時々会ってた。
ほんの、つい最近まで、何年か前まで、同窓会みたいにその仲良しグループで、1年に1度のペースで会っていた。
その時は、何も。
何も言ってなかった。何もしてなかった。
何で?
いつの間にか、そういえば連絡が来なくなってた。
私のスマホの中で彼女は笑ってた。キレイにキレイに笑ってた。
散歩の写真、イヤリングを作ってる写真、陳列棚、新作、仲良さげな家族、オシャレなカフェ。
キレイ、だった。
彼女も、彼女が撮る世界も書く世界も。
『ここは、やりたいことをやる人が住める世界でね、プラスの、陽のエネルギーを循環させないといけない世界なんだ』
ずきん。
痛む頭。
おでこからずきずきと激しく痛む頭に、声が聞こえた。
何の声?
聞きたくない。
聞きたくないのに、イヤなのに。
『なのにあなたにはその才能はない。まったくのゼロ。ゼロっていうかマイナス?』
イヤ。
『でもね、大丈夫。あなたには逆の、やりたくないことをやる才能がある』
イヤ。
イヤ。
聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない聞きたくない。
ゴトンってスマホが床に落ちた。
あれ。彼女。あの子がそう。彼女からキラキラと溢れてるもの、あれがこの世界に必要とされてるもの。
イヤ。何言ってるの私。何思ってるの私。
何でそんなこと。知らない。私は何も知らない。声なんて聞こえない。
そうだ。起こさなきゃ。娘を。もう起こさないと夜寝られない。8時半までには寝かせないといけないのに。
ハンバーグ。まだ焼いてない。焼かなきゃ。ご飯も炊かなきゃ。6時が夕飯の時間。間に合わない。お風呂が遅くなる。洗濯も遅くなる。やらなきゃ。私。ちゃんと。ちゃんとちゃんと。
つん。
頭が真っ白で、何からしたらいいんだろうってうろうろとする私のおでこを、突かれる感触。指で。
背中がゾクってなって、一瞬ぎゅって目を瞑った。
ほんの一瞬。
開けたらそこに。
「………っ‼︎」
居た。
男。
さっき会った人。居た人。雑貨屋さんの駐輪場で。
地球。
地球の目を持つ、男の人が。
こわくて声も出なかった。ガタガタと身体が震えた。この人何この人何この人、この人この人この人。
彼は笑った。
にいぃぃぃいいいい。
唇だけで。気持ち悪く。
そして。
「バーン」
その指に、私は撃たれた。