やめたって言っても、何やかんや潤から電話はあったし、何やかんや。
買った家。
海が近いとこ。まわりはじいさんばあさんばっかのとこ。
住み始めて、ひとりで。のんびり。空見て海見て。
一歩外に出たのにおれは。
陰。
最初は無視してた。
けど、そこに居たら見えるじいさんばあさんには危険だろってとこに居る陰は、ちょっとずつ消して歩いた。
小さいやつなら1日に何個かは消せる。それぐらいはまだできたから。
『あってもいい場所は切ったらダメだ』
見上げた空に、潤の言葉を思い出した。
あってもいい場所。
それは。
右手を見る。
『力』があっても、いい場所。
そこに居たら、そこは見えない。
ずっと居たおれには、見えてなかった。
あることが許される場所、の、意味。
なくなってはいないおれの力。陽の力。
それはどうしたってあって、ある以上ずっと。おれは。
こいつと付き合っていかないといけないのか。
あることが許されない場所でのある自分の毎日に、いつからかまた、空と海を見る時間が増え始めた。
何故あるのか。
何故消えないのか。
何故おれの力は形を変えたのか。
分かれば誰も悩んだり苦労なんかしない。
急に来た翔ちゃんのことが心配なのと、潤に頼まれたこともあって、戻った元の場所。あることが許される場所。それが普通である場所に。
あれ、ここってこんなだったっけ。
もういいって思った。何もないとこがいいって。空を見て。思った。自由。
でも。
何もないとこなんか、どこにもない。
『ある』とこから一歩出て分かったのは、『ない』とこに行ったところで『ない』ことにはできないってこと。
『ない』とこでの『ある』が『あってはならない』になっていくこと。
『ある』ことが普通の場所は、『ある』おれにとってすごい楽なんだって、初めて気づいた。