え?
それは突然。
夜の9時過ぎ。
電話が鳴った。スマホが。俺の。
え、誰。
いつものようにベッドの上でやっていたゲームを置いて、見る、スマホ。
え?
嘘でしょ。
画面が相手を告げてる。けど目を疑う。心臓がありえないスピードで脈々してる。どくどく。ちょっと、しんじゃうから、そんなハイスピード。
大野智
って、画面が告げてるんだけど、え、待って、何で?
スマホ持った。相手の確認もした。待ち人。会いたい人。声を聞きたい人。俺の心を奪ったただひとりの人。俺の好きな人。
の、大野智、だよね?
同姓同名の知り合いなんか居ないからそうだよ。でも。
ずっと電話なんかしてこなかったくせに、何?って。
もしかしたら、なかったことにしたいって思ってるのかな、とか。思うじゃん。下手すりゃ淫行罪でしょ?俺18才未満だもん。
調べたんだよ。俺の年を知りながら『行為』に及んだ場合、智さんがどうなるかって。
恋愛関係にあったって、それを主張したって、罪に問われる可能性の方が大らしいよ?
身柄拘束されて、実名報道されて、有罪なら前科がつく。
そんな面倒な相手よりさ、アノヒト、普段ふにゃふにゃしてるしてるけど、実際何て名前かは知らないけど、アノヒト、ゾンビバスターだよ?すんごいカッコいいんだよ?
まだ覚えてる。あの声。去ねって声。ゾンビを燃やす炎。俺を抱き上げた腕。
仕事復帰するんでしょ?あんなの誰かに、一般人に一般公開したら、俺みたいにハートに火がつく人が増殖するに決まってるじゃん。
こんなさ、何も18才未満の男子高校生じゃなくて、もっと。
アノヒトに、釣り合うよう、な。
「あ」
どうしても通話をスライドできなくて、人差し指を画面にくっつけることができなくて、できない間に電話は切れた。
「………何だよ。せっかち野郎」
まだ留守電に切り替わる前だったのに。もう切りやがって。
何?
何で電話なんか。急に。
気になるなら出れば良かったのに。折り返せばいいのに。
それができないのは。
こわい。
俺は最初から恋に落ちてた。
ゾンビから助けてもらったあの日に。
でもさ。智さんは?
俺の何かを好きになるような時間は、接点は、なかったよ。久しぶりに会って、少し話して、キスだけ。それで恋になんて。好きになんて、ならなくない?
俺がとんでもない美少女になったんならともかく。鼻垂れのガキから、絶世の。ならさ。
ずるずるずる。
ベッドの上。
壁に凭れて座ってたけど、落ちてく。ずるずる。
そして転がった。
いっそあっさりフラれた方が良かった。楽だった。
何でだよ。
何でアンタ。キスなんか。あんな、キスなんか。
持ったまま離せないでいたスマホが、今度はラインのメッセージ着信を告げた。
脈々。どくん。
思わず見ちゃった画面に、メッセージの表示。
『出てこい』
どくん。
どくん、どくん、どくんどくん。
寝転がってたベッドから起き上がって、窓からそっと、こっそり覗いた。外。下。
智さんが。
智さんが、立ってた。