ねぇ、しょーちゃん。
夜の外。
新月の空を窓のこっちから見上げて雅紀が呼ぶ。
妊娠前は窓に張り付くように見上げてた空も、今はぽっこりお腹がつっかえるからと横向きになってお腹を抱えながら窓に凭れて見上げてる。
「どうした?体調悪いか?」
雅紀のキレイさは月の満ち欠けに比例する。
そして、妊娠してからもうひとつ知った。
妊婦雅紀の体調も、月の満ち欠けに比例する。
だから新月の今日はあまり良くないかもって。
「大丈夫だよ」
呼ばれてすかさず雅紀の側に行って、空を見上げるその視界の邪魔にならないよう後ろから、お腹を抱える雅紀の腕の上からそっとそっと、俺は雅紀を抱き締めた。
俺に身体を預けて目を閉じる、雅紀。
「しょーちゃん」
「ん?」
「来月の満月に産まれるよ。雅月と環」
「え?」
来月の、満月に。
って。
………え?
つわりで結婚式以外何もできずどこにも行けなかった今年の春から初夏。
暑すぎて熱中症が心配で、買い物以外どこにも行けなかった夏。
やっとちょっと涼しくなっては来たけど、今度はお腹がぽっこりなのと無理をするとすぐお腹が張るからってことで、やっぱり買い物以外どこにも行けない秋のなう。
雅紀がキレイすぎてめまいを覚えた中秋の名月の月見も結局家でやり。
来月の満月って。
来月の満月って。
来月の満月って。
いつだYO‼︎
軽く焦る。
月のチェックは雅紀には必須事項なのに。
そのためにわざわざ月カレンダーをお買い上げしたのに。
なんてこった。それが何日なのか分からないという失態。
「じゃあそれに合わせて育児休暇取るよ。もう取ることは言ってあるから」
「………うん」
あとでこそっとカレンダーをチェックしなければ。
そして店長に言って本社の総務課に連絡をしなければ。
あとあと潤に色々アレコレ引き継ぎしなければ。
焦りがバレないよう冷静を平静を装いつつ、脳内をフル稼働させてたら、目を閉じたままの雅紀がもうすぐだねって笑う。笑みを浮かべる。
今宵新月。
だから月の光は浴びてない。
浴びてないけど。
やっぱり雅紀はキレイだって、思う。やっぱり雅紀は、月の人。月からやってきた絶世の美女。かぐや姫だって。
染めてもいないのに月色の髪。
目を開ければ満月の双眸。
滑らかですべらかな白磁の肌に月面模様の左肩。
存在そのものがおとぎ話の、かぐや姫、雅紀。
目を奪われる。何度だって。
心奪われる。何度だって。繰り返し。
「しょーちゃん。雅月と環が産まれたら、しばらくできないし、お腹もそろそろ限界だからさ」
「ん?」
うっとり雅紀に見惚れてたら、急にぱちって目を開けて、あっけらかーんと、雅紀が。
あろうことか、雅紀が。
「しょーちゃん」
今から、え っちしよ?
雅紀が。
見つめられると思考停止になる月色の、満月の双眸で俺をじっと見つめる。
ちょ( ̄□ ̄;)!!
は?(゜д゜;)
ちょっと待て。
ちょっと待て待て雅紀くん‼︎(°д°;)
えっ ちしよって、そんなかわいく妖しく言うんじゃないよ、雅紀くん‼︎
ぷちパニックどころか、俺はそれを聞いてぷちどころか大いにパニックだ(°Д°;≡°Д°;)
確かに。確かにな?夫婦間のスキンシップは大事だし、雅紀は身籠ったとは言え男の機能もばっちりある。
つまりたまる。
たまるから定期的に出してやる。
それは、それも俺の夫としての立派なツトメだと思ってる。ってか触りたいし。弄りたいし。乱れる雅紀が見たいし。何なら蜜も頂くし。調子が良ければばこんばこんのぐいんぐいんだし。
でも忘れちゃダメダメ。雅紀は妊婦。しかも双子。
出産予定日までおよそ1カ月。お腹はぽっこり。
いくらなんでもばこんばこんぐいんぐいんは無理だ危険だヤったらダメだ。
「あのな、雅紀」
たまってるなら手でしてやる。何なら口でもしてやる。何なら何なら蜜壷もな?雅紀が泣くまで味わってやるよ。好きだし。だって好きだし。
けど、ばこんばこんぐいんぐいんはさすがに。
さすがにさすがにSA・SU・GA・NI‼︎な?
「横向きで後ろからゆっくりヤ れば大丈夫だから」
横向きで後ろからゆっくり。
横向きで後ろからゆっくり。
横向きで後ろからゆっくり。
3回リピートからの脳内で映像再生。
ああ、俺の俺が叫んでる。
ばこんばこんぐいんぐいんしたい。ばこんばこんぐいんぐいんしたい。ばこんばこんぐいんぐいんしたい。
俺だってな。俺だって、俺だって。
いくら雅紀が僕もシ てあげるねって手でシ てくれてるからって、手だし。手だけだし。それだけでもありがたいけど、時々はちゃんとばこんばこんぐいんぐいんもしてたけど、本当に時々で、ばこんばこんぐいんぐいんでフィニッシュはここ最近してないさ。
「しばらくできないから、ね?」
「でも」
してないけど、だからシ たいけど、雅紀の身体を思うと。
すっかり誘惑に負けて元気ハツラツ俺の身体。
必死にそれを引き止める俺の理性。
「お腹が張ってきたらすぐ言うから。無理はしないから、お願い」
「雅紀」
しょーちゃんが、大好きなんだ。だから、産む前に。しばらくお預けの前に。
だからさ。
俺。
お前に見つめられると、ダメなんだって。
そんなの出会ったその日に分かってることだろ?
初日いきなり初対面でキスした俺だぞ?
はあって。
息を吐いた。
しょーちゃんって。小さな声。
「ゆっくり、だぞ」
別に、しばらくお預けってだけで、この先できなくなる訳じゃない。
これから先、いくらでもできるようになる。
それは雅紀だって分かってるだろう。けど。
思うことが何か。
何か、ありそうな、顔だから。
「うんっ」
「雅紀の欲求不満液を1回出して、ちょっと挿 れて、終わりだぞ。奥までは挿 れない」
「欲求不満液って、しょーちゃん」
くふふふって笑う雅紀に。
「それでいいな?」
念を押す。
それ以上は、雅紀の身体とお腹に居る雅月と環が、心配だから。
なのに。
なのに雅紀は。このエロエロかぐや姫は‼︎
「え?僕の甘い蜜は要らないの?しょーちゃん」
「………雅紀くん」
「ん?」
「………頼むから無邪気な顔してそういうことをしれっと聞くのはやめておくれよぅぅぅぅぅ」
「え?(‘◇‘)」
しょーちゃん?って不思議そうに呼ぶ雅紀の肩に、俺はがくって脱力して頭を乗せた。
そして抱き締めてた腕を離して、手を引いて。
無駄に広くて無駄にでかいベッドに行って。
出産前、最後のばこんばこんぐいんぐいんを、した。
その日の雅紀は、いつもキレイでいつも甘いけど、やっぱりキレイで、やっぱり。
甘かった。