S side
母さんから着信があったのは分かっていた。
でも。
それを無視して仕事を終わらせた。
今は、話したくない。
雅紀に連絡をしようとスマホを取り出して、母さんからの着信がたくさんあることを知る。
何かあったのか。
大きく息を吐き出して。
俺は、母さんに電話をした。
『翔!?』
「うん、何?いっぱい着信あったけど」
『今ちょっと話せる?他に誰も居ない?』
「大丈夫だよ」
『今朝ね……相葉くんが来たんだけど、あなた何か聞いてる?』
「え………?」
母さんの突然の言葉に、頭が真っ白になる。
雅紀が、うちへ?
『母さん、あなたと相葉くんとのこと、お父さんに聞いたんだけど…………』
「そのことは……もうほっといてくれって」
次に来る言葉を聞きたくなくて、つい言い方がきつくなってしまう。
母さんがついた溜め息が、聞こえる。
もういい。
切ろう。
そう思った時。
『相葉くんね、すべてを捨てても、しょーちゃんと離れませんって、お父さんに』
「え?」
『お父さんに、そう言ったの。入院してたんでしょう?調子が悪そうで、お父さんも、早く帰って休んだ方がいいんじゃないかって言ったんだけど……』
雅紀、また、過呼吸が。
大丈夫なのだろうか。
今、雅紀はどこで、何をしているのだろうか。
『しょーちゃんが好きですって。離れませんって、言いに来ましたって』
「…………………」
『お父さんのことだから、きっときつい事を言ったんでしょう?でもね、相葉くんが帰ってから、お父さん言ったの』
「何、を」
『翔を、嫁にやった気分だなあって』
「え?」
『今すぐには無理かもしれないけど、分かってくれるんじゃない?仕事の時のように』
親父。
どうして。
あんなに。
あんなにヒドイ言葉で雅紀を傷つけたのに。
『相葉くん。潔くて、格好良かった。あんな風に言われたら、お父さんだって言い返したりできないわ』
くすくすって、母さんが、笑っている。
何がなんだか分からなくて。
「母さんは、反対しないの?」
『そうねぇ…………』
「………………」
『あなた、幸せ?』
「……………うん」
『なら、いいじゃない』
「母さん…………」
『相葉くんも言ってた。分かっていますって。全部、分かっていますって。それは、あなたもでしょう?』
「……………うん」
『なら、何も言うことはないでしょう?』
「母さん…………」
『いつか、二人でうちにいらっしゃい』
「うん…………ありがとう、母さん」
電話は、そこで終わった。
雅紀。
いつだってお前は、びっくりするようなミラクルを起こして、俺を驚かせて。
ラインアプリをタップする。
今から行く
俺は短く、雅紀に送った。