S side
退院したよ
その一言を読んで、俺の頭は真っ白になった。
迎えには行けなくても、せめて、何か、退院祝いとかなんとかって。
何がいいかなと考えてはいたけれど退院の日なんて聞いてなくて、てっきりもっと先だと思っていた。
お見舞いにも結局行けなかった。
とにかく時間が取れなかった。
いや、退院の日が分かっていても、何も準備はできなかったか。
5人の仕事を4人で。
これは何度やっても、きつい。
体力面ではもちろん、精神面で、かなりきつい。
やっぱり俺たちは、5人で、嵐だから。
「櫻井さんの仕事はこれであがりです」
「え?うそ。もう1本あるよ」
マネに言われて手帳を見る。
あと1本。それで終わりになっている。
「たまにはこんなサプライズもいいかと思って」
「え?」
「相葉さんのマンションに向かいます」
「え?え?ちょっと待って、本当に?」
「本当です。相葉さんにも知らせていないので、きっとびっくりしてくれるんじゃないですか?」
迷惑、かけたのに。
色々、迷惑かけたのに。
雅紀が倒れたあの日、このマネが居なかったらどうなっていたか。
「ヤバイ、俺、泣きそう」
雅紀と俺の許されない関係。
でも。
こうして許してくれる人が居る。
その、何という、優しさ。
「ありがとうございます」
「恐縮です」
車のバックシートから頭を下げたら。
運転席で頭を下げられた。
時計を見ると、まだ19時。
ヤバイ。これはヤバイ。顔がきっと、だらしない。
「相葉さんはまだ服薬中なので、お酒は控えてくださいね」
バックミラーにうつるマネが、むちゃくちゃイケメンに見えた。
「寄りますか?」
信号で止まった時に、マネがふいに指を指したのは。
花屋。
「花かーーー」
花束は、嬉しい。
以前雅紀にもらった時に、嬉しかった。
でも。
枯れていく花を見るのは、寂しい。
「アイビーとか」
「アイビーって、葉っぱの?」
スマホを取り出して、アイビーを検索する。
しばらくスクロールして。
「いいね」
そのまま店に入ってもらった。