◎映画/『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』 | みやのすけの映画倉庫/『ゴジラVSコング』への道


2020/9/12TOHOシネマズ錦糸町オリナスにて
監督:京極尚彦
声の出演:小林由美子、神谷浩史、富永みーな、黒沢ともよ、山田裕貴、きゃりーぱみゅぱみゅ

地球の子供たちの「のびのびとしたラクガキ」の発するエナジーに支えられている、はるか天空に浮かぶラクガキングダム。
しかし近年エナジーが減少し、キングダムは崩壊の危機に瀕していた。
防衛大臣(山田裕貴)は危機を打開すべくクーデターを起こし、地球侵攻作戦を強引に実行する。
防衛大臣の暴走を阻止すべく、姫(きゃりーぱみゅぱみゅ)は、描いたものが実体化するミラクルクレヨンを地球へ送る。



ミラクルクレヨンは「選ばれし勇者」野原しんのすけの手に。
しんのすけは地球を救うことができるのか!
原作は臼井義人、脚本は京極尚彦、高田亮。

というわけで、コロナ禍で公開が延び延びになっていた「年中行事」に行ってきました。

ラクガキングダムの面々はこれまでになく個性的なデザイン。
あえて統一感を持たせない、ポップなデザイン志向が面白い。
姫がミラクルクレヨンを奪取する、序盤のシークエンスは「不思議の国のアリス」を思わせます。

ここんとこ野原一家の冒険と家族愛を描く物語が続いたのだが、今回しんのすけは訳あってひとり富士の裾野に。
ここから、ラクガキングダムに占拠された春日部を目指す冒険が、物語の前半。
旅のお供は、ミラクルクレヨンによって生み出された「(二日目の)ブリーフ」(富永みーな)「ななこ」(しんのすけが、憧れの女子大生ななこお姉さんを描いたもの。全然似ていない)そしてクレしんファンにはおなじみ、待ってました救いの勇者ぶりぶりざえもん(神谷浩史)!


ここに、相模湖知り合った少年ユウマ(黒沢ともよ)加わる。
タブレットを自在に操るユウマは、しんのすけ一行の力強い味方となる。

一行は南越谷までたどり着くが、駅は自衛隊によって封鎖されており、春日部は謎の白い霧に包まれて全く連絡が取れない。
しんのすけたちは、自衛隊の車列に紛れ込んで春日部を目指す。
平和な街に突然現れる戦車、謎の霧によって音信不通の春日部など、「パトレイバー2」「首都消失」を思わせる展開。
しかし、妙に生々しいリアリティーがあり、シリーズの中でも異色といえる。
脚本に「さよなら渓谷」など実写畑の高田亮を起用した効果だろうか。
クライマックスで描かれる、醜いエゴをむき出しにした大衆(=大人たち。子供たちがそこに含まれていないことが、本作の後半ではとても重要だ)など、我々が現在直面している問題を取り入れた物語は、これまでになく重い。

ゆえに、しんのすけを筆頭にした子供たちが、この重たい現実を突破していくシーンには祝祭感が溢れ、観るものに強烈なカタルシスを与える。

実写畑の脚本家、加えて「ラブライブ!」など、本シリーズとは全く作品傾向が異なる京極尚彦。
この思いきった起用が、これまでとは毛色の違う傑作を生んだ。

上映中はあまり騒がず、笑わず、作品世界に没頭し、上映後も余韻を噛みしめるように「面白かった…」とか「もう一回観たい」と呟いていた子供たち。
これは彼ら、彼女らが本作を「これは自分たちの映画なのだ」と確信している証拠だろう。
こういう事が起こるから、この長期プログラム・ピクチャー・シリーズの定点観測は止められない。

声優陣では、ブリーフを演じた富永みーな(まさか「パトレイバー」繋がりの起用か?)の熱演、ラクガキングダムの姫を演じたきゃりーぱみゅぱみゅの意外な(失礼!)達者さを特筆したい。