白夜行  | 大学生日記

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いろいろ投稿してみます。

白夜行の感想を書いていきます。

丸一日時間があったので800ページ以上あるこの作品を一日で読み切りました。結構分厚いですが読み始めるとつい一気見してしまいます。まずはあらすじから


あらすじ

1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男が一人殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りしてしまう。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んでいくことになるのだが、二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪の形跡。しかし、何も「証拠」はない。そして十九年の歳月が流れ……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。


感想(ネタバレあり)

結構前にドラマ化や映画化されているので見たことがある人も多いと思います。この作品の1番特徴的なところはこんなにも長い作品なのにも関わらず一度も主人公二人の心理描写が描かれていないというところにあります。すべて二人の主人公に関わる人たちによる視点で最後まで話が進みます。読み終わった後少し調べてみると、感動したといった声が多かったのですが、自分自身としては1番の感想は不快だなと。


周りの人がどんどん不幸になっていったからだとか、結末が悪かったから、事件の内容が不快だったからというわけではなく、19年もの時間があったのにも関わらず変わらなかった主人公二人に対してどうかと思うのです。この作品は19年前の事件と19年後の現在の様子だけ描かれているのではなく、19年の間に起こった出来事も詳しく書かれています。昔に起こった出来事がトラウマになることは十分にあり得ますし、それが精神的にも身体的にも影響を及ぼすことはあります。しかしその後19年もの間たくさんの人と出会い、環境が変わった二人にとってその出来事の解釈だったり意味づけというのはいくらでも変更できるのではないかと思うんですよね。


これから(未来へ)の行動や発言というのはその人のこれまでの経験則に基づくものです。これまでの経験則というのは過去の出来事なので変えることはできないから、これからの自分の言動は変えることができないというのは間違いです。過去の経験や出来事というのは今の自分がいくらでも違った解釈や捉え方に変更することができるのです。恥ずかしい過去の出来事を今では笑い話にできるのと同じです。(白夜行の過去の経験が笑い話にできるとは到底思えませんが、捉え方を変えることはできると思います)そういう意味では、これから自分がすることっていうのは現在の考え方や感性がものすごく反映されると思うんです。


白夜行の主人公二人は19年間ずっと共依存の関係です。共依存から抜け出すことはお互いできたのにも関わらず、19年前から同じ道を二人は歩んできたわけです。これは親の影響はあるにせよ、二人の責任だと強く感じでいます。人を信じず、隙を見せないような性格の亮司と雪穂はお互いを変えれなかったんですね。


最後の二文がものすごく印象に残りました。


その後ろ姿は白い影に見えた。彼女は一度も振り返らなかった。

出典: 東野圭吾 「白夜行」より


亮司が雪穂に献身的だったのは最後のシーンからわかるんですが(最後のシーン以外からももちろんわかります)雪穂はどうだったのか。雪穂は最後のシーンの前にこんなことを言っています


あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。あたしはその光によって夜を昼と思って生きていくことができたの。

出典:東野圭吾 「白夜行」より


たがら雪穂は失うものはないのだと。この太陽に代わるものは亮司なのですが、本当にそれだけなのかと。亮司であることは間違いないんですが、そうだとすると最後のシーン、亮司が自殺した後あんなにシラを切り通せるものなのかと。今まで嘘を重ねてきた雪穂ですが、今回の件は他の件と全く違いますよね。今まで唯一心を許し依存していた亮司が自殺していなくなったわけですから。それとも一瞬で心の整理をして前向きに切り替えられたのでしょうか。


その答えは最後の二文を読むとうっすらわかってきます。笹垣は彼女が白い影に見えたんです。太陽の下を歩くと黒い影ができる一方、暗闇の中照らされると白い影ができますよね。これまでずっと夜の中彼女を照らしてくれたのは亮司でした。けれどこれから夜を照らす亮司はいませんから本来なら白い影が消えるという表現を使うはずです。けれども白い影は依然として笹垣には見えた。そして彼女は振り返らなかった。ということは最後のシーンでは彼女はこれからも太陽の下を歩くことはありませんが、亮司に代わる何かによって夜の暗闇の中を照らしながら歩いていくんです。僕はその亮司に変わる何かは彼女が19年間で得た、お金や地位、美貌といった魅力だと思います。つまり彼女は自分自身で夜の暗闇を歩く自分を照らすことができるようになったのだと。亮司と雪穂は共依存の関係でしたが、ただ一つの違いは彼女自身は19年もの間で多くのものを得たということです。それは亮司との大きな違いです。感想の初めに主人公の二人は19年もの間で変わらなかったのだといいましたが、最後の最後で雪穂は変われたんです。


色々感想書いてきましたが、雪穂が人の人生には昼と夜があって、人はそれまで出ていた太陽が沈んでしまうことをすごく恐れていると言っています。自分の話になりますが、旅をしていて1番感じたことは結局人が求めるのは安心だと。逆に安心しかないんじゃないかとすら思いました。旅というのはこの白夜行のいう夜を存分に知ることができます。自分に衣食住何もないとき、呆れるほどどうしようもないことが続いた時などここでは書ききれないほどの夜が突然来ることがあります。それでも、急に太陽が沈み夜が来たとしてもなんとかなるんじゃないかと旅をしてると思えてくるんですよね。今後社会人になって夜が続くようなことがあったとしても太陽を見るために一歩踏み出せる自信が心のどこかにあるんです。