トイレの神様 | ミックスココアのひとりごと

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気ままに思いついたことを折々に

受講している通信教育の

後期の筆記試験はありませんでしたが

「民俗学」の提出したレポートの課題が

≪「便所」について記述せよ≫でした。


植村花菜さんの「トイレの神様」が

レポート課題のモチーフです。


で、こんなレポートを提出しました。

相当長い文章ですが…


☆ ☆ ☆ ☆


いわゆる「便所」は、非常に身近で

日常生活に不可欠な場所でありながら

以前は、隠したい・かかわりたくない

できればあまり話題にしたくない、

そんな存在でした。


しかし、水洗トイレの発明、

洗浄便器の誕生と、

その形も機能も変化し

便所は排泄目的のためだけの場所ではなくなり

加えて、

植村花菜さんの「トイレの神様」の大ヒットで

そのイメージも大きく変わるとともに

随分身近な存在となりました。


「便所」の名称は

神代の昔「厠(かわや)」と言われ

「古事記」にその例が見られ

施設の下に水を流す溝を配した

「川屋」だったことがうかがわれます。


口にすることをはばかることから

「はばかり」と言ったり

中国の禅師の名から

「雪隠(せっちん)」とも言われましたが

昭和になると「ご不浄」から「お手洗い」

「化粧室」へと、忌み嫌われる表現から

次第に離れていきました。


今や、きれいで清潔な「トイレ」となりましたが、

昔、「便所」と言う呼称が一般的だった

昭和中頃までは、暗くて汚く、

万が一子供が足を滑らせて落ちたら

命をも落としかねない危険な場所だったことも

そこに神様の存在を信じた

理由の一つだったのかもしれません。


「便所」だけに限らず

古くから人が住む家には、

神様も一緒に住むと信じられてきました。


人が家の中へ出入りするのと同じように

神様も家の中を出入りし

家が衰退すると、家の中の神様も

どこかへ出て行ってしまうと思ったのです。


この家の神様は様々な場所にいて

玄関にいる神様は「門口神(かどぐちのかみ)」と呼ばれ

外からの悪霊の侵入を防いだし

火を扱う場所には「竈神(かまどのかみ)」が祀(まつ)られ

「火伏神(ひぶせのかみ)」だけでなく

家の守り神ともされたのです。


「厠神(かわやのかみ)」は、

出産と深いかかわりがあるとされ、

女性は便所掃除をするとよい子を授けられる・

美人になれると信じられてきたのでした。


「厠神(かわやのかみ)」は、

生と死を媒介し、

妊娠や出産を見守る存在としての

「産神(うぶがみ)」としての性格も持ち、

「家の神」として、家人や子供を守る存在でもあったのです。


「古事記」には

イザナミの神が火の神「火のかぐ土の神」を産んで

病み臥せた時にさらに

水の神や生産の神が生まれたとの記述があります


母女神・イザナミの神の死と、

新しい神々の誕生は、

まさに生と死の象徴であり

女の神であるといわれる「厠神」が

境界神的存在であるとされるゆえんでもあります。


「厠神」が日本全国で広く祀られたとは言うものの

そのお祀りの仕方は地方によって様々でした。


例えば、「便所」を新たに作る際に一対(夫婦)の

紙人形を便壺の下に埋めて

魔除けにする地方もあれば

「便所」の中に神棚を設けて

ご神体となる人形を入れてお祀りする地方もあれば

神社やお寺から「便所神」の幣束(おふだ)を戴いて

便所にお祀るする地方もあり、

お餅や、鶏が描かれた絵馬を便所にお供えしたり

灯明をあげて、花や線香をお供えする地方もあります。


さらには、「便所」を新築した時、

未使用の段階で、

「便所」の中で「うどん」を食べる地方があります。


その家の家族はもちろん

近所の方々を招待し

順番に「便所」でうどんを食べるのです。


和式便所の時は便器をまたいで食べていたのですが

様式便器に変わってからは

便座に座ってです。


勿論新築祝いも兼ねてはいるのですが

遠方の親戚もこの時ばかりはわざわざ訪れて、

近所のお年寄りは新築の家があると

いつ呼んでもらえるのかと心待ちにする、

そんな、「便所でうどん」の風習なのです。


この風習の起源は諸説あるようですが

まだ昔、便所が屋外にあった頃、

真冬の寒い屋外の便所に出入りする際に

急激な温度変化により血圧が急上昇して

脳卒中や心筋梗塞などの発症原因、

いわゆるヒートショック死防止が

その目的だったようです。


今でも受け継がれているこの風習は

冬場に寒い「便所」で温かいものを食べ

また、長い「うどん」を食べることで

長生きできますようにと

祈り願ったものだったわけです。


更には

「朝夕6時には便所に入るな」と言われる地方もあります。

これは、朝夕6時は、

便所の神様がその家の他の神様たちと

相談する時間帯で

その間に用を足すことは

神様の相談の邪魔をすることになるかだそうです。


トイレの神様も、その様式の変化と共に

その印象も随分変化しましたが

環境が変わり、時代が変わろうとも

常に身の回りに神様を祀り、

祈り願い信仰してきた

日本人の民俗信仰としての神様の存在は、

水洗トイレの水を流すようには

流れて消えてゆくものでは決してないと思うのです。


☆ ☆ ☆ ☆


民俗学的因習を通して

トイレとその神様について書いてみました。

長いレポート、最後までお読みいただき

本当にありがとうございます。